転職の年収交渉は、面接で希望を聞かれたときに根拠と一緒に伝え、内定の後に書面で示された条件を見て、承諾の前に相談するのが基本です。応募書類の段階で金額を書いたり、面接の冒頭で自分から切り出したりする必要はありません。条件を最後に決めるのは、内定の後に示される書面です。

この記事では、会社が転職者の賃金を決めるときに何を見ているかを国の調査で確かめたうえで、交渉を切り出す時期、根拠の示し方、書面の確かめ方を整理します。

会社は何を見て賃金を決めているか

厚生労働省の令和7年転職者実態調査は、転職者がいる事業所に、転職者の賃金を決めるときに考慮した要素(複数回答)を聞いています。

考慮した要素事業所の割合
これまでの経験・能力・知識59.2%
年齢35.3%
賃金の世間相場34.2%
免許・資格30.6%
前職の賃金27.0%
学歴12.0%

最も重視した要素も「これまでの経験・能力・知識」が 38.4%で最多でした。事業所の規模が大きいほど、「年齢」「学歴」「前職の賃金」「これまでの経験・能力・知識」を考慮した割合が高く、「前職の賃金」は 1,000 人以上の事業所で 48.1%、5〜29 人で 24.4%です。

年収の希望の根拠は、これまでの経験で何ができるかを中心に置くのが、会社の見方に合っています。前の職場の年収は参考として伝えるものの、それだけを根拠にすると、会社の見る要素の一部にしか答えていないことになります。

交渉の時期は 3 つ

時期することしないこと
応募書類本人希望記入欄は「勤務条件は貴社の規定に従います。」や応募職種を書く金額を書く、空欄にする
面接聞かれたら、現在の年収と希望の額、その根拠を簡潔に答える冒頭から条件の話を始める
内定の後・承諾の前書面で示された条件を確かめ、希望と差があれば根拠を添えて相談する口頭の約束だけで承諾する

ハローワークの「応募書類の作り方」は、本人希望記入欄について、勤務条件の具体的な希望はストレートに書かず、面接などで相談するのが一般的としています。面接で希望の年収を聞かれる場面は、一次面接でも最終面接でもあり得ます。最終面接での答え方は最終面接で確かめられることにまとめています。

いちばん大事なのは、内定の後で承諾の前です。この時期は、会社も採りたい人を決めていて、条件の書面も手元にあります。書面を見ずに承諾してしまうと、相談の機会がなくなります。

根拠の示し方

根拠は 3 つを組み合わせます。

  1. これまでの経験で任せられる仕事。担当した顧客の数、扱った金額、部下や後輩の人数、資格など、職務経歴書に書いた事実のうち、応募先の仕事に直接つながるもの
  2. 応募先の求人票に書かれた賃金の幅。求人票の賃金には幅があることが多く、その中のどこに自分を置いてほしいかを、経験と結びつけて示します
  3. 公的な統計の水準。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では、一般労働者の賃金(2025 年 6 月分の所定内給与額。残業代や賞与を含まない月の額)は男女計で 340.6 千円でした。年齢別では 30〜34 歳 312.3 千円、35〜39 歳 340.6 千円、40〜44 歳 364.3 千円です。企業規模別では、常用労働者 1,000 人以上の大企業で 385.1 千円、100〜999 人の中企業で 326.2 千円、10〜99 人の小企業で 305.6 千円でした

統計は、業種や職種、地域によって大きく変わる平均の値です。「平均がこうだから上げてほしい」と迫る材料ではなく、自分の希望が大きく外れていないかを確かめる物差しとして使います。

伝え方の例です。職種と状況だけを示したもので、数字は言い方の例です。

現在の年収は 480 万円です。前職では法人営業として 40 社を担当し、後輩 2 人の同行指導も任されていました。御社の求人で担当する顧客の規模が近いと伺っていますので、求人票に記載の幅のうち、520 万円程度を希望しています。

年収は内訳で比べる

年収の額だけを比べると、条件を読み違えることがあります。

確かめる項目読み違えやすい点
基本給と手当手当の多い年収は、手当の条件が変わると下がる
固定残業代一定時間分の残業代が月給に含まれている場合がある
賞与年収の見込みに賞与が含まれているか、業績で変わるか
残業時間いまの年収に残業代がどれだけ入っているか

いまの年収に残業代が多く入っているなら、残業の少ない会社に移ると、同じ月給でも年収は下がります。厚生労働省『しょくばらぼ』『女性の活躍推進企業データベース』で会社が公表している数字を、Mixum の会社名鑑で集計(2026年10月1日時点。公表値は2026年9月18日に取り込み)すると、月の平均の残業時間を公表している 14,702 社の中央値は 11.0 時間、真ん中の半数は 5.3〜18.0 時間でした。公表している会社だけの値で、業種全体の平均ではありません。応募先が公表している残業時間は、Mixum の会社名鑑で確かめられます。

固定残業代の見方は求人の固定残業代の見方、求人票の賃金欄の読み方は求人票の見方で扱っています。

書面で確かめる

労働基準法第 15 条により、会社は労働契約を結ぶときに、賃金の決め方、計算と支払いの方法、締切と支払いの時期などを書面で明示しなければなりません。年収の交渉で合意した額は、この書面(労働条件通知書など)に反映されているかを必ず確かめます。

職業安定法では、募集のときに示した労働条件を変える、範囲の中から特定する、削る、新たに加える場合には、変える内容を求職者に明示しなければならないとされています。面接で聞いた額と書面の額が違うときは、承諾する前に理由を確かめます。ハローワークの求人で、求人票の条件と説明が違っていた場合は、ハローワークの窓口か、ハローワーク求人ホットラインに申し出られます。

読み違えやすい点

転職すれば年収が上がるとは限らない。令和7年雇用動向調査では、転職した人のうち賃金が前の勤め先より増えた人は 40.8%、変わらない人は 25.5%、減った人は 31.0%でした。年齢別の数字は転職で年収が上がる割合で整理しています。

交渉は「上げてほしい」だけではない。額が動かせない場合でも、入社の時期、試用期間の後の見直しの時期、資格手当の扱いなど、確かめられる点はあります。合意したことは書面で残します。

内定の取り消しやトラブルは相談できる。内定の後の条件の変更や取り消しに納得できないときは、都道府県労働局の総合労働相談コーナーや労働基準監督署に相談できます。

年収や働き方を公開データで確かめる記事は、30代からの転職の一覧から探せます。

まとめ

  • 年収の希望は応募書類に書かず、面接で聞かれたときに根拠と一緒に伝える
  • 交渉の山場は、内定の後に書面で条件が示され、承諾する前
  • 会社が転職者の賃金を決めるときに最も多く考慮するのは「これまでの経験・能力・知識」(59.2%)
  • 根拠は、任せられる仕事、求人票の賃金の幅、公的な統計の水準を組み合わせる
  • 年収は内訳(基本給・手当・固定残業代・賞与・残業時間)で比べ、合意した額は書面で確かめる

参考資料