上司の指示が二転三転して、作ったものを何度も作り直している。昨日「Aで」と言われたのに、今日は「やっぱりBで」と言われる。こうした状況が続くと、上司の性格の問題に見えてきますが、指示が変わる理由の多くは、指示を出した時点で目的や完成形が決まっていないか、上司のさらに上で方針が変わったかのどちらかです。

受ける側でできることは3つあります。受けた直後に足りない項目を埋めて文字で返すこと、早い段階で途中を見せること、変更が来たら影響を示して選んでもらうことです。上司の考え方を変えることはできませんが、この3つで、変わったときに捨てる作業の量は減らせます。

指示が変わる理由を分けて考える

「指示が変わる」と一口に言っても、原因によって効く手が違います。外から見て区別がつくよう、よくある型を並べます。

型何が起きているか見分けるサイン効く手
完成形が決まっていない上司の頭の中にも完成形がなく、成果物を見てから考えている「とりあえず作ってみて」「見てから決める」と言われる早い段階で骨組みを見せる
目的が伝わっていない上司は目的を持っているが、指示には手段しか含まれていない直しの理由が「これじゃ伝わらない」「使えない」受けた時点で目的と使い道を聞く
上の方針が変わった上司の上司や取引先の意向が変わり、上司も従っている変更の直前に会議や取引先とのやり取りがある決める人と、決まる日を確かめる
伝わる途中でずれた口頭で聞いた内容の受け取り方が、双方で違っていた「そんなことは言っていない」「言ったはず」が起きる受けた直後に文字で返す

最後の「伝わる途中でずれた」は、指示が変わったのではなく、最初から双方の理解が違っていたケースです。受ける側から見ると「言うことが変わった」、上司から見ると「言ったとおりにやっていない」になり、互いに相手のせいだと感じやすくなります。

どの型でも、共通しているのは指示の中身が、口頭のまま、足りない項目を抱えたまま動き出していることです。受ける側が埋められるのは、この部分です。

指示を受けたときに確かめる6つの項目

指示を受けたら、次の6項目がそろっているかを確かめます。そろっていない項目があるほど、あとで変わる可能性が高くなります。

項目確かめること聞き方の例
目的何のために、誰が使うものか「これは誰に、何を判断してもらうための資料ですか」
完成形形式・分量・見本「A4で1枚ですか。以前の似た資料はありますか」
期限最終の期限と、途中で見せる日「金曜が期限なら、水曜に骨組みをお見せしてよいですか」
判断の基準何が満たされていれば完成とするか「どの数字が入っていれば十分ですか」
制約使えない手段、予算、触れてはいけないこと「外部に出してよい数字ですか」
決める人上司が決めるのか、さらに上か、取引先か「最終的にどなたが確認されますか」

全部をその場で聞く必要はありません。とくに目的と決める人の2つは、変更の原因になりやすいので、聞きそびれたら後からでも確かめます。

「決める人」が上司より上にいる場合、上司の指示は、上の人の意向を推測したものにすぎません。上の人が見た時点で変わる可能性があると考えて、進め方を組み立てます。

手戻りを減らす手順

1. 受けた直後に、自分の理解を文字で返す

口頭で指示を受けたら、その日のうちに、自分の理解を短く文字にして返します。

先ほどの取引先向け資料の件、次の理解で進めます。 ・目的:来週の打ち合わせで、先方に値上げの理由を説明するため ・完成形:A4で2枚、前回の説明資料と同じ形式 ・期限:金曜の午前中。水曜の夕方に骨組みをお見せします 違っている点があれば、今日中にご指摘いただけますか。

これで、「伝わる途中でずれた」型の手戻りは、作り始める前に見つかります。返事がなくても、文面が残っていれば、後で「どう理解して進めたか」を示せます。

送る先は、上司への個別のメッセージでもよいのですが、チームで共有している場所(作業の管理表、共有のチャットの該当する話題など)に書くと、ほかのメンバーも同じ情報を見られます。会議で決まったことを作業に落とす方法は議事録と発言録の違いで整理しています。

2. 全体の2割ほどの段階で骨組みを見せる

「完成形が決まっていない」型の上司には、完成品を持っていくほど、やり直しが大きくなります。見出しと結論だけ、表の枠だけ、といった骨組みの段階で一度見せると、方向が違っていても失う作業はわずかです。

見せるときは、「方向の確認です。中身はまだ入れていません」と一言添えます。細部を直されることを防ぎ、見てほしい点(構成や結論の向き)に意見を集められます。

3. 変更が来たら、影響を示して選んでもらう

指示が変わったとき、黙って受け入れて残業で吸収すると、上司には変更の重さが伝わりません。次からも同じように変わります。

変更が来たら、変更で何が起きるかを短く示し、上司に選んでもらいます。

承知しました。Bの形に変えると、作り直しに1日かかります。 ・金曜の期限を守るなら、2章の比較表を省く ・比較表を残すなら、期限を月曜にする どちらで進めればよいでしょうか。

反論ではなく、判断の材料を渡す形です。上司は、変更に手間がかかることを、その場で知ることができます。

4. 変更は1行ずつ記録する

変更があるたびに、日付・変更前・変更後・理由(分かれば)を1行で残します。

9/24 資料の形式:A4で2枚 → スライド5枚(部長の意向。課長より)

責めるための記録ではなく、次の判断のための記録です。変更が続いたときに、「今月この資料は3回形式が変わりました。最初に部長の意向を確かめる段取りを入れませんか」と、仕組みの話として持ち出す材料になります。

5. 上の方針が決まっていないときは、決まる日を聞く

「上の方針が変わった」型では、上司自身も困っていることが多いものです。いつ決まるのかを確かめ、決まるまでは方針が変わっても使える部分(データの集計、事実の整理など)から手をつけます。

部長のご判断はいつごろ出そうでしょうか。それまでは、どちらの案でも使う売上の集計を先に進めます。

実行するときに気をつけたいこと

記録を突きつけない

記録は、上司が間違っていたと示すためのものではありません。「先週はAとおっしゃいました」と過去の発言を突きつけると、話は「誰が正しいか」に移り、次にどうするかが決まらなくなります。記録は手元に置き、変更の影響を示すときの根拠として使います。詰め寄られたときの返し方は上司に詰められるときの対処で整理しています。

確認の文面を長くしない

確認の文面が長いと、読まれなくなります。3〜5行を目安にし、事実と、確かめたいことだけを書きます。自分の意見や、これまでの経緯の説明は入れません。事実と意見を分けて書く方法は事実と解釈を分けるを参照してください。

何でも確認に回さない

変更を恐れて、細かい判断まですべて上司に聞くと、上司の負担が増え、かえって返事が遅れます。6項目のうち、自分で決めてよい範囲(体裁、言い回しなど)を最初に確かめておき、その範囲は自分で決めて進めます。先回りの報告で確認の回数を減らす方法はマイクロマネジメントへの対処で整理しています。

残業で吸収し続けない

変更のたびに残業で間に合わせていると、変更の手間が見えないままになります。働いた時間は自分でも記録しておきます。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年)は、使用者の明示または黙示の指示により業務に従事する時間を労働時間としています。指示の変更で生じた作業の時間も、この考え方の上で扱われます。

指導の範囲を超えていると感じたら

指示が変わること自体は、多くの場合、業務の都合による判断で、それだけでハラスメントに当たるわけではありません。ただし、指示の変え方や、その後の扱いによっては、判断に迷う場面もあります。

厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)は、パワーハラスメントを、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの、の3つをすべて満たすものとしています。客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、該当しません。

同じ指針は、代表的な類型の例として、次のようなものを挙げています。

  • 過大な要求:新卒採用者に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことを厳しく叱責すること
  • 精神的な攻撃:業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと

たとえば、指示を変えたうえで「指示どおりにできていない」と繰り返し長時間叱責される、といった状況が続くときは、一人で判断せず相談してください。個別の事案は、言動の目的や経緯、頻度や継続性などを総合的に考慮して判断されます。

相談先には次のようなところがあります。

  • 社内のハラスメント相談窓口、人事部門
  • 総合労働相談コーナー:厚生労働省の案内によると、各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などの378か所に設置され、パワハラを含むあらゆる分野の労働問題を対象に、予約不要・無料で相談できます
  • 労働基準監督署:残業代の未払いなど、労働時間・賃金の問題
  • 弁護士:個別の事案で法的な判断が必要なとき

相談するときは、変更の記録と、働いた時間の記録がそのまま役に立ちます。


指示が変わるたびに作り直すのは、受け手の能力の問題ではありません。変わる理由の多くは、指示が足りない項目を抱えたまま動き出していることにあります。次に指示を受けたら、目的と決める人の2つだけでも確かめ、理解を3行で返すところから始めてください。対人関係・調整の記事一覧では、上司とのやり取りのほかの場面も整理しています。

参考資料