上司に詰められて頭が真っ白になるのは、あなたの能力が足りないからではありません。「なんでできないの?」「どうするつもり?」という問いは、答えを求める形をしていても、中身は責めであることが多く、正しい答えがそもそも用意されていないからです。

その場でするべきことは、うまく言い返すことではなく、話を「事実」と「次に何をするか」に戻すことです。そして詰められることが続くなら、あとで使える形で記録を残し、それが指導の範囲かどうかを、厚生労働省が示している線引きに照らして判断します。

詰められると思考が止まる理由

問いの形が「責め」になっている

「なんで遅れたの?」という問いには、本来なら「A社からの返事が2日遅れたからです」と答えれば済みます。ところが詰められている場面では、その答えは「言い訳するな」で返されます。理由を答えても責められ、黙っても責められるので、何を言っても正解にならない状態です。

頭が真っ白になるのは、この「答えようのない問い」に、答えを探し続けているからです。強い口調や長い沈黙、ほかの人の前であることなどが重なると、目の前の相手への緊張が先に立ち、筋道を立てて考える余裕がさらに減ります。

話が事実から離れていく

詰める会話は、だんだん事実から離れます。「今回の遅れ」の話が「前もそうだった」「やる気がない」「社会人として」と、過去や人柄の話に広がっていきます。こうなると、何を直せば終わるのかが誰にも分からなくなります。

逆に言えば、話をいつ・何が・どれだけの事実に戻せば、会話は終わりに向かいます。事実と解釈を分ける考え方は、事実と解釈を分ける|報告が伝わらないときの見直し方でも詳しく扱っています。

指導の範囲か、パワハラか

厳しく言われることがすべてパワハラになるわけではありません。厚生労働省は、職場のパワーハラスメントを次の 3 つの要素をすべて満たすものと定めています(労働施策総合推進法、および厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)。

要素内容
優越的な関係を背景とした言動上司から部下へのように、抵抗や拒否がしにくい関係で行われる
業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの業務の目的から外れている、または手段・回数・時間が度を越している
労働者の就業環境が害されるもの身体的・精神的に苦痛を与えられ、能力の発揮に重大な悪影響が出ている

同じ指針は、典型的な例として 6 つの類型(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)を挙げています。詰められる場面に近いのは「精神的な攻撃」で、人格を否定するような言動、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返すこと、ほかの労働者の前で大声で威圧的な叱責を繰り返すことなどが、該当すると考えられる例として示されています。

一方で、遅刻や重大なミスなど、問題のある行動をした人に一定程度強く注意することは、該当しない例とされています。判断の目安をまとめると、次のようになります。

見るところ指導の範囲に近いパワハラに近い
話の対象ミスや行動そのもの人格・能力・過去の失敗全体
時間と回数必要な分だけ、1 回で終わる長時間、同じ問いを何度も繰り返す
場所個別に伝えるほかの人の前で大声で
終わり方次に何をするかが決まる何を直せば終わるのかが示されない

厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去 3 年間にパワハラを受けたと答えた労働者は 19.3%でした。前回(令和2年度)の 31.4%からは下がっていますが、少ない数字ではありません。

その場での返し方

1. 問いを「次に何をするか」に言い換えて返す

「なんでできないの?」には、理由を探すより、問いを未来の話に言い換えて返すほうが会話が進みます。

詰める問い言い換えて返す
なんで遅れたの?遅れの原因は〇〇です。明日の 15 時までに△△まで終えます
どうするつもり?案は 2 つあります。A は〇日、B は〇日で終わります。どちらで進めますか
やる気あるの?直すべき点を具体的に教えてください。明日から〇〇を変えます
前も同じだったよね前回との違いを確認させてください。今回は〇〇が原因でした

ポイントは、最後に相手が決められる選択肢か、自分の次の行動を置くことです。問いに問いで返すと角が立つので、「確認させてください」の形にします。

2. 答えられないときは、時間をもらう

頭が真っ白になったときに、無理にその場で答える必要はありません。「状況を確認して、今日の 17 時までに整理してお持ちします」と、期限を付けて持ち帰るほうが、あいまいな答えで追い打ちを受けるより安全です。期限を付けるのは、逃げたと受け取られないためです。

3. 終わったら、決まったことを文字で送る

話が終わったら、30 分以内に決まったことをメールかチャットで送ります。

先ほどはありがとうございました。確認です。 ・〇〇の遅れは、△△が原因でした ・明日 15 時までに□□を終え、ご報告します 認識が違う点があればご指摘ください。

これで、口頭で言われたことが記録になり、あとで「そんなことは言っていない」となるのを防げます。報告の組み立て方は不機嫌な上司への報連相|角を立てずに事実で伝える手順も参考になります。

続くときは記録し、相談する

記録は「日時・場所・言葉・時間・周りの人」

詰められることが繰り返されるなら、その日のうちにメモを残します。自分の感想ではなく、次の項目を事実で書きます。

  • 日時と、続いた時間(例: 9 月 26 日 16:10〜16:50、約 40 分)
  • 場所と、周りにいた人(例: 執務室、同じ課の 3 名)
  • 相手の言葉をできるだけそのまま(例: 「何回言わせるの」を 10 回ほど)
  • 自分の業務への影響(例: その日の締め切りの作業が 2 時間遅れた)
  • 体や気持ちの変化(例: その夜眠れなかった)

「詰められた」「ひどいことを言われた」だけでは、相談を受けた側が程度を判断できません。数字と言葉で残した記録は、社内の窓口にも外部の相談先にも、そのまま使えます。

相談先

会社には、パワハラの相談窓口を設けることが義務付けられています(労働施策総合推進法。中小企業も 2022 年 4 月から義務)。まずは社内の相談窓口か人事部門、上司のさらに上の役職者に、記録を持って相談します。

社内で話しにくいときは、外部の相談先があります。

相談先内容
総合労働相談コーナー各都道府県の労働局や労働基準監督署の中にあり、無料で予約なしで相談できる
都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)パワハラ防止の措置について、会社への助言・指導や、紛争解決の援助を行う
弁護士(法テラスなど)損害賠償など、法的な手続きを考えるとき
こころの耳(厚生労働省)働く人のメンタルヘルスの相談窓口の案内

眠れない、朝に体が動かないといった状態が続くなら、仕事の対処より先に、医療機関や産業医への相談を優先してください。

やりがちな落とし穴

  • その場で言い返して勝とうとする。 論破しても関係が悪くなるだけで、次の指示の出方は変わりません。目的は会話を終わらせて仕事を進めることです。
  • 自分がすべて悪いと思い込む。 ミスがあったことと、長時間の叱責が妥当かどうかは別の話です。直すべきミスは直し、叱責の仕方の問題は記録と相談で扱います。
  • 記録を後回しにする。 1 週間たつと、言葉も時間も思い出せなくなります。その日のうちに 5 分で残します。
  • 一人で抱え込む。 詰める上司の問題は、個人の工夫では直りません。社内で相談できる人がいないときの考え方は、職場に相談できる人がいないとき|相談先の選び方と使い分けにまとめています。

上司との関わり方全体は、対人関係・調整の記事の一覧から探せます。