求人の固定残業代(みなし残業)は、それだけで悪い条件とは限りません。見るのは、①固定残業代を除いた基本給の額、②何時間分でいくらか、③その時間を超えた分を追加で払うと書かれているか、の3点です。厚生労働省は、固定残業代を賃金に含めて募集するときに、この3つを示すよう求めています。

3つがそろっていれば、時間単価から金額が足りているかを自分で計算できます。そろっていない求人は、面接や内定後の条件確認で必ず聞きます。この記事では、書かれ方の見分け方、計算の手順、読み違えやすい点を順に説明します。

固定残業代とは何か

厚生労働省の資料では、固定残業代を「名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金」としています。「みなし残業代」「定額残業代」「営業手当」「業務手当」など、手当の名前は会社によって違います。名前ではなく、残業の対価として払う定額かどうかが中身です。

固定残業代のある求人では、決めた時間まで残業しても、しなくても同じ額が払われます。決めた時間を超えて働いた月は、超えた分の割増賃金が別に払われる必要があります。

求人票に書かれているべき3つの項目

厚生労働省の資料が示す、固定残業代を含めて募集するときの明示事項は次のとおりです。

項目書かれ方の例書かれていないときに起きること
① 固定残業代を除いた基本給の額基本給 24万円月給の総額だけでは、1時間あたりの賃金が分からない
② 固定残業の時間数と金額○時間分の時間外手当として△円を支給金額が何時間分の対価なのか確かめられない
③ 超えた分を追加で払う旨○時間を超える時間外労働分は追加で支給超えた分が払われるのか分からない

資料にある記載の例は、「□□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)」という形です。手当の中に固定残業代以外のものが含まれているなら、分けて書くことも求められています。深夜や休日の労働分を固定にする場合も、同じように時間数と金額を書きます。

この明示の決まりは、若者雇用促進法に基づく指針などで定められています。ハローワークに寄せられる「求人票と実際の条件が違う」という申し出で、いちばん多いのは固定残業代を含む賃金に関するもの、と同じ資料に書かれています(平成27年度の集計)。固定残業代は、入社後の食い違いが起きやすい項目だということです。

金額が足りているかを計算する手順

①と②が書かれていれば、固定残業代が法律の割増率に見合っているかを計算できます。

手順1:1時間あたりの賃金を出す

月給制の場合、1時間あたりの賃金は「月給 ÷ 1か月平均所定労働時間」で出します。1か月平均所定労働時間は、「1日の所定労働時間 × 年間所定労働日数 ÷ 12」です。

ここでいう月給には、固定残業代そのものは入れません。家族手当、通勤手当、住宅手当(一律に払うものを除く)、臨時の手当、賞与のように1か月を超える期間ごとに払う賃金も、割増賃金の計算の元からは外します。外せるのはこの種類の手当に限られ、それ以外の手当は計算の元に入れます。

手順2:割増率を掛ける

法律で決まっている割増率は次のとおりです。

働いた時間割増率
時間外労働(1日8時間・週40時間を超えた分)25%以上
時間外労働のうち月60時間を超えた分50%以上
法定休日の労働35%以上
深夜(午後10時〜午前5時)の労働25%以上

月60時間を超える分の50%は、中小企業には猶予されていましたが、2023年4月1日に猶予がなくなりました。

手順3:固定の時間数を掛けて比べる

例として、基本給24万円、1日8時間、年間所定労働日数240日、固定残業代が「30時間分5万円」の求人で計算します。

計算結果
1か月平均所定労働時間(8時間×240日÷12)160時間
1時間あたりの賃金(24万円÷160時間)1,500円
時間外の1時間あたりの賃金(1,500円×1.25)1,875円
30時間分の割増賃金(1,875円×30時間)56,250円

この例では、30時間分として必要な額は56,250円で、固定残業代の5万円では足りません。5万円で賄えるのは約26.7時間分で、それを超えた残業には追加の支払いが要る計算です。逆に、固定残業代が6万円なら30時間分を上回っています。

年間所定労働日数が求人票に無いときは、年間休日から「365日 − 年間休日」で見当を付けられます。1日の所定労働時間が8時間より短い会社では、1か月平均所定労働時間が短くなり、1時間あたりの賃金は上がります。

手順4:最低賃金を下回っていないかを見る

最低賃金と比べるときは、固定残業代を除いた賃金を使います。月給制の場合、「月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)」で確かめます。時間外の割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などは、最低賃金の計算に含めません。月給の総額が高く見えても、固定残業代の割合が大きいと、基本給の時間単価が都道府県の最低賃金に近いことがあります。

固定の時間数をどう読むか

固定残業の時間数は、会社が見込んでいる残業の目安として読むこともできます。毎月その時間働く前提とは限りませんが、時間数が大きい求人は、それなりの残業を見込んでいる可能性があります。

時間外労働の上限は、法律で原則として月45時間・年360時間と決まっています。固定の時間数が原則の上限に近い、または超えている求人では、実際の残業時間がどれくらいかを、面接で確かめておきます。

実際の残業時間は、会社が厚生労働省の「しょくばらぼ」などで公表している数字でも確かめられます。会社名鑑には、法定時間外・休日労働の月平均を公表している会社を少ない順に並べた残業が少ない会社の一覧があります。

面接や内定後に確かめる聞き方

求人票で3つの項目がそろっていないときや、計算が合わないときは、次のように聞きます。

  • 「月給のうち、固定残業代に当たる金額と時間数を教えてください」
  • 「固定の時間を超えた月は、超えた分の時間外手当が別に支給されるという理解で合っていますか」
  • 「昨年度の、配属予定の部署の月平均の残業時間はどれくらいでしたか」
  • 「固定残業代は、深夜や休日の労働分も含みますか」

内定後は、労働条件通知書(雇用契約のときに会社が示す書面)で、同じ3つの項目が書かれているかを確かめます。求人票と通知書で中身が違うときは、承諾する前に理由を聞きます。

読み違えやすい点

  • 月給の総額で比べる:固定残業代の多い求人は、総額が高く見えても基本給が低いことがあります。賞与や昇給が基本給を元に決まる会社では、差が広がります
  • 固定残業代があれば残業代はそれ以上出ないと思う:固定の時間を超えた分は、追加で払われる必要があります
  • 「手当」の名前で判断する:「営業手当」などの名前でも、中身が残業の対価なら固定残業代です。求人票の注記や労働条件通知書で中身を見ます
  • 固定の時間数をそのまま残業時間と思う:実際の残業は、固定の時間より少ない月も、超える月もあります。会社が公表している残業の実績とあわせて見ます

固定残業代の扱いや割増賃金の計算に疑問があるときは、入社前ならハローワーク、入社後なら最寄りの労働基準監督署や、都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談できます。

残業時間の公表値の読み方は残業が少ない会社の探し方で詳しく説明しています。条件を比べる項目のそろえ方は転職で隣の芝生が青く見えるとき、内定後の引き留めに迷ったときはカウンターオファーは受けるべき?も参考になります。

まとめ

  • 固定残業代は、名前にかかわらず、一定時間分の残業に定額で払う割増賃金
  • 求人では、基本給の額、時間数と金額、超えた分を追加で払う旨の3つが示されているかを見る
  • 1時間あたりの賃金に1.25を掛け、固定の時間数を掛けると、金額が足りているかを計算できる
  • 最低賃金と比べるときは、固定残業代を除いた賃金を使う
  • 時間外労働の上限は原則月45時間。固定の時間数が大きい求人は、実際の残業時間を確かめる
  • 疑問は入社前ならハローワーク、入社後なら労働基準監督署や総合労働相談コーナーへ

参考資料