中小企業の退職金の平均は、東京都の「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」のモデル退職金で、大学卒の定年が11,495千円(約1,150万円)、高校卒の定年が9,741千円(約974万円)でした。従業員10〜299人の都内中小企業が対象です。

ただし、これは「学校を出てすぐ入社し、普通の能力と成績で勤めた場合」の水準で、実際に支払った額の平均ではありません。また、退職金の制度そのものがない会社もあり、勤続年数と辞め方で額は大きく変わります。この記事では、東京都の調査と厚生労働省の就労条件総合調査を並べ、自分の会社の退職金を確かめる手順を整理します。

東京都の調査|勤続年数と辞め方ごとのモデル退職金

東京都の調査は、従業員10〜299人の都内中小企業を対象に毎年行われ、「定年制、退職金」は1年おきに調べています。令和6年版が退職金を調べた最新の回です。

モデル退職金の大学卒の値を、勤続年数と退職の理由ごとに並べると次のとおりです。

勤続年数(年齢)自己都合退職会社都合退職
10年(32歳)1,125千円(3.9か月)1,448千円(5.0か月)
15年(37歳)2,093千円(6.6か月)2,559千円(8.1か月)
20年(42歳)3,468千円(9.8か月)4,081千円(11.6か月)
25年(47歳)5,073千円(13.0か月)6,156千円(15.8か月)
30年(52歳)7,507千円(17.8か月)7,762千円(18.4か月)
定年—11,495千円(24.9か月)

かっこ内の月数は、モデル退職金をモデルの所定時間内賃金で割った支給月数です。

高校卒では、勤続10年が自己都合985千円・会社都合1,264千円、勤続20年が自己都合2,881千円・会社都合3,428千円、勤続30年が自己都合5,757千円・会社都合6,570千円、定年が9,741千円でした。高専・短大卒の定年は9,920千円です。

この表から読み取れることは2つあります。1つは、勤続年数が短いうちは額が小さく、年数を重ねるほど伸び方が大きくなることです。大学卒の自己都合退職では、勤続10年の1,125千円に対し、勤続20年は3,468千円で約3倍になっています。もう1つは、同じ勤続年数でも、自己都合退職のほうが会社都合退職より低いことです。

制度の形でも差があります。大学卒の定年のモデル退職金は、退職一時金だけの企業で10,513千円(令和4年調査は9,974千円)、退職一時金と退職年金を併用している企業で14,075千円でした。

就労条件総合調査|退職給付制度がある会社の割合

厚生労働省の「就労条件総合調査」は、常用労働者30人以上の民営企業を対象にした調査です。退職給付(一時金・年金)は5年ごとに調べていて、令和5年調査が最新です。6,421社を調べ、3,768社から有効回答を得ています。

企業規模退職給付制度がある企業(令和5年)
計74.9%
1,000人以上90.1%
300〜999人88.8%
100〜299人84.7%
30〜99人70.1%

平成30年調査の計は80.5%で、5年前より下がっています。規模が小さいほど制度がある会社は少なく、30〜99人では約3割の会社に制度がありません。産業では、宿泊業,飲食サービス業が42.2%、サービス業(他に分類されないもの)が54.4%と低めです。

制度がある会社のうち、退職一時金だけの会社が69.0%、退職年金だけが9.6%、両方を併用しているのが21.4%でした。30〜99人の企業では一時金だけが77.2%、1,000人以上では併用が47.1%で、中小企業ほど一時金だけの形が多くなります。

東京都の調査でも、退職金制度がある企業は回答した659社の64.2%、ない企業は34.4%でした。制度がある会社では、一時金だけが76.1%、併用が17.3%、年金だけが6.6%です。

全国の退職給付額|勤続20年以上・45歳以上で辞めた人の平均

就労条件総合調査では、2022年の1年間に辞めた、勤続20年以上かつ45歳以上の人の1人平均退職給付額も出しています。企業規模別の値はなく、30人以上の企業全体の値です。

退職の理由大学・大学院卒(管理・事務・技術職)高校卒(管理・事務・技術職)高校卒(現業職)
定年1,896万円(36.0か月)1,682万円(38.6か月)1,183万円(34.3か月)
会社都合1,738万円(27.9か月)1,385万円(33.8か月)737万円(25.0か月)
自己都合1,441万円(30.3か月)1,280万円(33.3か月)921万円(29.5か月)
早期優遇2,266万円(39.9か月)2,432万円(58.0か月)2,146万円(60.7か月)

かっこ内の月数は、退職時の所定内賃金に対する退職給付額の割合です。退職給付額は、一時金だけの制度なら一時金の額、年金だけなら年金現価額、併用ならその合計です。

大学・大学院卒の定年退職者を勤続年数で分けると、勤続20〜24年が1,021万円、25〜29年が1,559万円、30〜34年が1,891万円、35年以上が2,037万円でした。制度の形では、一時金だけが1,623万円、年金だけが1,801万円、併用が2,261万円です。

東京都のモデル退職金より高く見えますが、こちらは大企業を含む30人以上の企業の値で、勤続20年以上の人に絞っています。中小企業の目安としては、東京都の調査のほうが近い値です。

中小企業の退職金の準備と計算の仕方

退職一時金を払うためのお金の準備の仕方(複数回答)は、就労条件総合調査で次のとおりでした。

企業規模社内準備中小企業退職金共済特定退職金共済
計56.5%42.0%9.9%
100〜299人66.4%35.3%8.4%
30〜99人49.6%48.5%11.0%

30〜99人の企業では、約半数が中小企業退職金共済(中退共)を使っています。東京都の調査でも、社内準備が59.2%、中退共が50.9%、特定退職金共済が6.8%、退職金保険が10.1%でした。

計算の仕方は、東京都の調査で「算定基礎額×支給率」が42.0%、「勤務年数に応じた一定額」が29.9%、「ポイント制」が10.6%でした。算定基礎額には「退職時の基本給」を使う会社が45.0%と最も多く、「基本給×一定率」が27.8%です。基本給をもとにする会社では、手当が多く基本給が低い給与の形だと、退職金も低く出ることになります。

一時金を受け取るのに必要な最低勤続年数は、3年とする会社が最も多く、自己都合退職で47.3%、会社都合退職で34.4%でした。勤続が短いと、退職金が出ない場合があるということです。

自分の会社の退職金を確かめる手順

  1. 就業規則と退職金規程を開く。 労働基準法89条では、退職手当の制度を設ける場合、適用される労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払の時期を就業規則に書くことになっています。会社は就業規則を、配付・掲示・備付け・電子媒体などで周知しなければなりません(106条1項)。
  2. 計算式を自分の数字に当てはめる。 算定基礎額(退職時の基本給など)、勤続年数ごとの支給率、自己都合と会社都合の係数を確かめます。
  3. 最低勤続年数と、支給しない場合の定めを見る。 何年勤めれば出るのか、どんな場合に減るのかを確かめます。
  4. 準備の仕方を確かめる。 社内準備か、中退共などの共済か、確定拠出年金かで、受け取り方や手続きが変わります。分からなければ人事や総務に聞きます。
  5. 統計と比べる。 大学卒・勤続20年の自己都合退職で、東京都のモデル退職金は3,468千円です。自分の額が大きく下回るときは、計算の仕方の違い(基本給の比率など)が理由かどうかを見ます。

転職先を比べるときは、求人票や面接で退職金制度の有無、勤続何年から出るか、加入している共済を確かめます。

退職金は勤続年数で大きく伸びるため、会社の平均勤続年数も手がかりになります。厚生労働省「しょくばらぼ」で会社が公表している数字をMixumの会社名鑑で集計(2026年10月1日時点。公表値は2026年9月18日に取り込み)すると、平均勤続年数を公表している2,755社の中央値は11.9年でした。公表している会社だけの値で、業種全体の平均ではありません。会社ごとの値は平均勤続年数のランキングで見られます。

読み違えやすい点

  • モデル退職金は実際に払った額の平均ではない。 東京都の値は、学校を出てすぐ入社し普通の能力と成績で勤めた人を想定した水準です。中途入社の人は、同じ年齢でも勤続年数が短くなります。
  • 全国の1,896万円は中小企業の値ではない。 就労条件総合調査の退職給付額は、30人以上の企業全体で、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に限った平均です。
  • 退職給付額には年金の分も入っている。 年金がある会社では、年金現価額を足した額です。一時金だけの会社と並べるときは、制度の形をそろえて比べます。
  • 千円と万円を取り違えない。 東京都の調査は千円、就労条件総合調査は万円で出ています。
  • 制度がない会社も多い。 平均の額は、制度がある会社の中の値です。

退職金のことで相談したいとき

退職金の制度がある会社で、規程どおりに支払われない、計算に納得できないといったときは、都道府県労働局や労働基準監督署の中にある総合労働相談コーナーで、無料で相談できます。都内であれば、東京都の労働相談情報センターでも相談できます。

相談のときは、就業規則の退職金の条文、雇用契約書や労働条件通知書、勤続年数と退職の理由が分かる書類を用意すると話が早く進みます。

退職後の健康保険や年金の手続きは「退職したあとの手続き|健康保険・年金・住民税の期限」、毎年の給与の伸びは「昇給の平均額と率|賃金の引き上げの調査の読み方」、賞与の統計は「中小企業のボーナスの平均|会社の規模ごとの支給額の統計」で整理しています。

まとめ

  • 東京都の中小企業(10〜299人)のモデル退職金は、大学卒の定年で11,495千円、高校卒の定年で9,741千円です。
  • 大学卒・勤続10年の自己都合退職は1,125千円、勤続20年は3,468千円で、勤続が短いうちは額が小さく、自己都合は会社都合より低くなります。
  • 退職給付制度がある企業は全国で74.9%、30〜99人の企業では70.1%で、制度がない会社もあります。
  • 中小企業では一時金だけの制度が多く、30〜99人の企業の約半数が中退共で準備しています。
  • 自分の額は、就業規則の退職金規程で計算の仕方・最低勤続年数・支払の時期を確かめて出します。

参考資料