生成AIを仕事で使う前に確かめることは、会社のルール、入力してよい情報、出力の扱い、著作権の4つです。中でも最初に確かめるのは会社のルールです。会社の機密や顧客・社員の個人情報を入力する前に、社内でどう決まっているかを確かめてください。決まりがないなら、入力してよいかを自分で判断せず、担当の部署や上司に確かめるところから始めます。
順番が大事なのは、生成AIに入力した情報が会社の外のサービスに渡り、その扱いをサービスの規約が決めているからです。ここでは、国の注意喚起とガイドラインに書かれていることをもとに、確かめる中身と入力前の確認表を順に整理します。
入力する前に確かめる必要がある理由
入力した情報は、会社の外のサービスに渡る
個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月)は、一般の利用者に向けて、生成AIサービスでは入力された個人情報が機械学習に利用されることがあり、他の情報と統計的に結びついたうえで、正確または不正確な内容で出力されるリスクがあると注意を促しています。そのうえで、サービスを提供する事業者の利用規約やプライバシーポリシーを十分に確認し、入力する情報の内容を踏まえて利用を判断するよう求めています。
社内の文書作成ソフトに書き込むのとは違い、入力は外部の事業者への情報の受け渡しです。入力した内容がどう保存され、何に使われるかは、使うサービスと契約の内容で決まります。
会社が「AIの利用者」として責任を負う
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月)は、AIに関わる事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」に分けています。ここでいうAI利用者は、事業活動でAIシステムやAIサービスを使う事業者です。生成AIを業務に使う会社は、この立場に当たります。
同ガイドラインは、AI利用者に重要な事項として、次のようなことを挙げています。
- AI提供者が定めた利用上の留意点を守り、想定された範囲内で使う
- AIの出力について、精度とリスクの程度を理解し、リスク要因を確かめたうえで使う
- 個人情報を不適切に入力しないよう注意を払う
- 機密情報などを不適切に入力しないよう注意を払う
- AI提供者が定めたサービス規約を守る
これらは会社としての取り組みとして書かれています。働く一人ひとりにとっては、会社が決めた使ってよいサービスと使い方の範囲を守ることが、その実行に当たります。
ルールを決めていない会社も少なくない
総務省「令和8年版 情報通信白書」によると、企業に勤める人に所属先の生成AIの活用方針を尋ねた2025年度の調査で、「積極的に活用する方針である」「活用する領域を限定して利用する方針である」の合計は日本で68.9%でした。一方で「方針を明確に定めていない」が20.2%、「わからない」が7.4%ありました。企業規模別では、中小企業の「方針を明確に定めていない」は31.5%です。
方針がない職場では、「禁止されていないから使ってよい」と判断しがちです。しかし、方針がないことは、何を入力しても会社が責任を引き受けるという意味ではありません。
確かめる4つのこと
| 確かめること | 主な中身 | 確かめる先 |
|---|---|---|
| 1. 会社のルール | 使ってよいサービス、使ってよい用途、申請の要否、入力してはいけない情報 | 情報セキュリティの規程、情報システムの担当、上司 |
| 2. 入力してよい情報 | 個人情報、社外秘、取引先から預かった情報を入れてよいか | 社内の決まり、取引先との契約、個人情報の担当 |
| 3. 出力の扱い | 出力をそのまま使ってよい場面と、人が確かめてから使う場面 | 社内の決まり、自分の上司 |
| 4. 著作権 | 出力が他人の著作物に似ていないか、社外に出す前の確認 | 社内の決まり、法務の担当 |
1. 会社のルール
最初に確かめるのは、次の4点です。
- 使ってよいサービス:会社が契約したサービスに限るのか、ほかのサービスも使ってよいのか
- 使ってよい用途:文章の下書き、要約、翻訳、プログラムの作成など、どこまで認められているか
- 申請や届け出:使う前に申請が要るか、使ったことを記録に残す決まりがあるか
- 入力してはいけない情報:個人情報や社外秘の扱いがどう決まっているか
社内の規程に生成AIの記載がなくても、情報の持ち出しや外部サービスの利用についての決まりがあれば、それが当てはまることがあります。迷ったら、該当しそうな規程を示して担当の部署に尋ねます。
2. 入力してよい情報
情報の種類ごとに、扱いを整理すると次のようになります。
| 情報の種類 | 例 | 入力する前に |
|---|---|---|
| 公開済みの情報 | 自社サイトに載っている文章、公表済みの資料 | 社内の決まりで、使ってよいサービスかだけを確かめる |
| 社内向けの一般的な情報 | 社内の手順、会議の日程 | 社内の決まりで入力してよい範囲か確かめる |
| 社外秘・機密の情報 | 未公表の売上、開発中の製品、人事の情報 | 社内の決まりで認められていなければ入力しない |
| 個人情報 | 顧客や社員の氏名・連絡先・評価 | 社内の決まりと個人情報の担当に確かめる。自分だけで判断しない |
| 取引先から預かった情報 | 取引先の資料、見積もり、図面 | 契約で使い道が限られていないか確かめる |
個人情報について、個人情報保護委員会の注意喚起は、事業者が個人情報を含む内容を入力する場合には、その個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。また、本人の同意を得ずに個人データを含む内容を入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われる場合には、個人情報保護法に違反する可能性があるとし、入力する場合はサービスの提供者がその個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確かめるよう求めています。
これは会社として確かめる事項です。入力する本人が「たぶん大丈夫」と判断してよいものではありません。
AI事業者ガイドラインの別添も、AI利用者向けの具体的な手法として、入力した個人データや機密情報がサービスの提供者側で学習データに使われる予定がある場合には、それらを含む内容を入力しないよう留意すること、AIに過度に感情移入して秘匿性の高い情報をむやみに与えないことを挙げています。
3. 出力の扱い
生成AIの出力には、誤った内容がもっともらしい文で含まれることがあります。個人情報保護委員会の注意喚起も、応答の文章は確率的な相関関係にもとづいて生成されるため、不正確な内容が含まれるリスクがあるとしています。
社内で決めておきたいのは、出力を人が確かめずに使ってよい場面はどこまでかです。自分用のアイデア出しと、社外に出す文書や数字では、必要な確認の深さが違います。確かめ方の手順は生成AIの答えの確かめ方で整理しています。
4. 著作権
文化審議会著作権分科会法制度小委員会の「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)は、AIで生成したものを出力し、それを使う段階での著作権侵害は、AIを使わない場合と同じように考えるとしています。つまり、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」の両方が認められれば著作権侵害になりうるという考え方です。
仕事で使ううえで押さえておきたいのは、次の4点です。
- 既存の作品を入力したり、作品名などの固有名詞を指示に入れたりすると、依拠性が認められやすくなる:文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月)は、既存の著作物そのものや、作品のタイトル・キャラクター名などを入力した場合は、利用者がその著作物を知っていたことを推認させる事情になるとしています
- 社外に出す前に、既存の作品に似ていないかを確かめる:同チェックリストは、生成物を使う前にまず既存の著作物と類似していないかを確かめることが必要だとし、その方法としてインターネットの文章検索や画像検索の活用を挙げています
- 生成できることと、使ってよいことは別:同チェックリストは、社内の検討の過程などで生成すること自体は法律の範囲内で行える場合でも、インターネットでの配信や複製物の譲渡などの利用は、その範囲を外れる場合が多いとしています
- 生成に使った指示を残しておく:同チェックリストは、依拠性がないことや生成物の著作物性を説明できるよう、生成に使った指示(プロンプト)など生成の過程を確認できる状態にしておくことが望ましいとしています
もう1つ、混同しやすい点があります。「AIで作ったものに著作権があるか」と「AIで作ったものが他人の著作権を侵害していないか」は、別の問題です。同チェックリストも、この2つを混同する誤解を例に挙げ、従業員の著作権の理解を確かめておくことが必要だとしています。
なお、前出の考え方は、生成AIへの指示が表現に至らないアイデアにとどまる場合には、生成物に著作物性は認められないとしています。一方で、人がAIの生成物に創作的な表現といえる加筆や修正をした部分には、通常、著作物性が認められるとしています。また、この考え方自体は法的な拘束力を持つものではないと明記されています。個別の判断が必要なときは、法務の担当や弁護士に相談してください。
入力する前の確認表
使う前に、次の項目を上から確かめます。1つでも「いいえ」や「分からない」があれば、入力を止めて担当の部署や上司に確かめてください。
| 確認すること | はい/いいえ |
|---|---|
| 会社が使ってよいと認めているサービスか | |
| 今回の用途は、社内で認められている範囲か | |
| 入力する内容に、顧客や社員の個人情報が含まれていないか(含まれる場合は、入力してよいと確かめたか) | |
| 社外秘・未公表の情報が含まれていないか | |
| 取引先から預かった情報が含まれていないか(含まれる場合は、契約上使ってよいと確かめたか) | |
| 他人の文章や画像をそのまま入力していないか | |
| 出力を社外に出す場合、誰がどう確かめるかが決まっているか |
名前を消したり置き換えたりしてから入力する方法もあります。ただし、日付・部署・出来事の組み合わせで誰のことか分かる場合もあります。置き換えれば何を入れてもよい、とはならないので、置き換えた後の内容も社内の決まりに照らして確かめます。
ルールがない職場での進め方
確かめた内容を文字で残す
口頭で「使っていいよ」と言われただけでは、どのサービスで、何を入れてよいのかが残りません。「◯◯のサービスで、公開済みの資料の要約に使ってよいか」のように、サービス名と用途と入力する情報を具体的に書いて確認し、返事も文字で残します。口頭のやり取りを文字で残すやり方は、口頭の指示を文字で返す方法で整理しています。
決まるまでは、公開済みの情報だけで使う
社内の決まりができるまでは、入力するのを公開済みの情報や、一般的な書き方の相談にとどめるのが安全です。業務の情報を、私物の端末や個人のアカウントで扱うのは避けます。会社がサービスの規約や入力の記録を管理できなくなるためです。
決まりを作るときの材料
チームや会社で決まりを作る立場になったら、ゼロから考えなくて済む材料があります。
- AI事業者ガイドライン:総務省のページで、本編・別添とあわせて、チェックリストとワークシートが公開されています。別添にはAI利用者向けの具体的な手法がまとめられています
- AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス:AI利用者(業務利用者)の項で、生成AIの利用に関する社内ルールの策定などの予防措置や、著作権侵害が起きた場合の対応をあらかじめ検討しておくことが望ましいとしています
最初から細かく作り込まず、使ってよいサービス、入力してはいけない情報、社外に出す前の確認の3つを決めて始め、使いながら見直すほうが続きます。
読み違えやすいところ
「学習に使わない設定なら、何を入れてもよい」
学習に使われないことは、入力してよい条件の1つにすぎません。個人情報保護委員会の注意喚起は、学習に使わないことの確認とは別に、利用目的の範囲内であることの確認も求めています。社内の決まりや取引先との契約で入力が認められているかも、別に確かめる必要があります。
「よく知られたサービスなら、規約を読まなくてよい」
個人情報保護委員会の注意喚起は、利用者に、サービスの利用規約やプライバシーポリシーを十分に確認したうえで利用を判断するよう求めています。AI事業者ガイドラインも、AI利用者が守る事項にAI提供者の定めたサービス規約を挙げています。入力内容がどう扱われるかは規約で確かめるもので、サービスの知名度では分かりません。自分で使っている個人の契約と、会社が認めた契約を同じものと考えず、会社が使ってよいと認めた契約で使います。
「社外に出さなければ問題ない」
入力した時点で、情報は外部のサービスに渡っています。出力を社内だけで使う場合でも、入力の段階で社内の決まりに沿っているかを確かめます。
「AIで作ったものには著作権がないから、自由に使える」
これは、生成物の著作物性の話と、他人の著作権を侵害していないかの話を混ぜています。生成物に著作物性がない場合でも、既存の作品に似ていれば、その作品の著作権を侵害することがあります。
「方針がないのだから、使ってよい」
前出の白書の調査では、方針を明確に定めていない企業は少なくありません。方針がないときこそ、入力する前に確かめておかないと、後から問題になったときに個人の判断の責任になりかねません。
生成AIを仕事で使う前に確かめるのは、会社のルール、入力してよい情報、出力の扱い、著作権の4つです。まずは、自分の会社に生成AIの決まりがあるか、使ってよいサービスはどれかを確かめるところから始めてください。古い仕組みのまま新しい道具が入ってこない職場で困っている場合は、古いIT環境の会社に限界を感じたときの見分け方も参考になります。ほかの記事は業務効率・ITの一覧にまとめています。



