有価証券報告書(有報)の「平均年間給与」は、有報を出している会社(提出会社)で実際に働いている従業員の、1年間の給与の平均です。内閣府令の様式で賞与を含めることが決められています。
一方で、残業代などの基準外賃金を含めるか、出向者をどう数えるかは、様式に細かい決まりがありません。多くの会社は表の下の注記で扱いを書いています。数字をそのまま比べる前に、様式で決まっていることと、会社ごとに違いうることを分けて読むのが、この数字を正しく使うコツです。
平均年間給与は、どの決まりで書かれているか
有報の書き方は「企業内容等の開示に関する内閣府令」(開示府令)の様式と、その「記載上の注意」で決まっています。平均年間給与は「第4 提出会社の状況」の「5 従業員の状況等」にある「(2) 従業員の状況」に載ります。2026年2月20日に公布された改正で、2026年3月31日以後に終わる事業年度から、この欄に従業員数などを書く決まりが次のように整えられました。
| 項目 | 様式で決まっていること |
|---|---|
| 対象の会社 | 提出会社の従業員だけ(連結子会社は含まない) |
| 対象の人 | 従業員数は「就業人員数」で数える |
| 書く項目 | 従業員数・平均年齢・平均勤続年数・平均年間給与 |
| 賞与 | 平均年間給与は「賞与を含む」 |
| 前年との比較 | 平均年間給与の対前事業年度増減率も書く |
| 時点 | 最近日(有報では当事業年度末。連結財務諸表を作る会社は当連結会計年度末) |
| 臨時従業員 | 相当数いる場合は、年間の平均人員を外書き(従業員数の10%未満なら省略できる) |
同じ改正で、有報の「人材戦略に関する基本方針等」の欄に、従業員の給与(賞与を含む)その他の給付の額や内容を決める方針を具体的に書くことも求められるようになりました。平均の数字と合わせて、給与の決め方の考え方を読める欄です。
増減率の計算は様式で決まっており、(最近の事業年度の平均年間給与 − その前の事業年度の平均年間給与)÷ 前の事業年度の平均年間給与、です。会社ごとに計算の仕方が違うということはありません。
様式が決めていないこと:会社の注記を読む
残業代などの基準外賃金
様式が明示しているのは「賞与を含む」ことだけです。時間外手当や深夜手当、休日手当のような、所定の賃金の外で払われる分(基準外賃金)の扱いは書かれていません。
実際の有報では、表の下に「平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります」「時間外勤務手当等を含む」のような注記を置く会社があります。この注記があれば、残業の多い部署の人の手当も平均に入っていると読めます。
「就業人員」と出向者
様式は従業員数を「就業人員数」で書くと決めています。就業人員とは、その会社で実際に仕事をしている人のことで、籍があるかどうかとは必ずしも一致しません。
そのため、注記で「当社から社外への出向者を除き、社外から当社への出向者を含む」と書く会社があります。休職している人を除くと書く会社もあります。親会社から大勢が出向してきている会社では、平均年間給与にもその人たちの給与水準が混ざることになります。
臨時従業員
パートタイマーや嘱託、派遣社員など臨時の人は、従業員数とは別に外書きで示すのが様式の決まりです。平均年間給与は、外書きではない従業員数に対応する人の平均として読みます。臨時従業員の範囲は会社が注記で説明していることが多いので、誰が外書きに回っているかをそこで確かめます。
持株会社は「最大人員会社」も見る
持株会社の有報では、提出会社の従業員は企画や管理の部門の少人数だけ、ということがよくあります。その平均年間給与は、グループで働く多くの人の給与を表していません。
この問題に応えるため、改正後の様式では、提出会社が持株会社の場合、「最大人員会社」についても従業員数・平均年齢・平均勤続年数・平均年間給与などを会社ごとに書くことになりました。最大人員会社とは、連結子会社(外国の会社を除く)のうち、最近の事業年度の従業員数が最も多い会社です。その会社の従業員数が連結全体の半分を超えない場合は、合計が半分を超えるまで、次に多い会社から順に加えます。
架空の例で考えます。持株会社Xホールディングスの有報で、提出会社の従業員が150人、平均年間給与が1,000万円台と書かれていたとします。連結の従業員は8,000人で、最大人員会社の事業子会社が5,000人です。応募先がこの事業子会社なら、比べる相手は提出会社の数字ではなく、最大人員会社の欄の数字です。
注記を読む手順
- 表の下の注記をすべて読む:「賞与」「基準外賃金」「時間外」「出向」「休職」「臨時」の語を探す
- 下の表に当てはめる:注記の書き方ごとに、何が入っているかを整理する
- 提出会社が持株会社かを確かめる:「事業の内容」で持株会社と書かれていれば、最大人員会社の欄に移る
- 増減率を見る:同じ定義で前年と比べた数字なので、給与の動きをそのまま読める
- 比べる会社どうしで条件をそろえる:一方だけが基準外賃金を含むと書いている場合は、差の一部が残業代の違いかもしれない、と割り引いて読む
| 注記の書き方の例 | 読み方 |
|---|---|
| 賞与及び基準外賃金を含む | 残業代などの手当も入った平均 |
| 賞与を含む(ほかに記載なし) | 手当の扱いは分からない。様式どおりの最低限の説明 |
| 社外への出向者を除き、社外からの出向者を含む | 実際にこの会社で働いている人の平均 |
| 休職者を除く | 休んでいる人の低い給与は平均に入っていない |
| 臨時従業員は年間の平均人員を外書き | 平均年間給与は外書きではない従業員の平均 |
有報のどこを開けばよいか、平均値そのものの注意点、国の統計との比べ方は、有価証券報告書で年収を確かめる方法にまとめています。同じ欄の平均年齢・平均勤続年数の読み方は、平均年齢と平均勤続年数から会社を見る方法で扱っています。
読み違えやすい点
- 月給の12か月分と比べる:平均年間給与は賞与を含む金額です。求人票の月給と比べるなら、賞与の支給実績を足した年額で比べます
- 残業代込みの平均を、残業の少ない職種の目安にする:基準外賃金を含む平均には、残業の多い部署の手当が入っています。応募する職種の働き方と同じとは限りません
- 持株会社の少人数の数字をグループ全体と思う:最大人員会社の欄がある場合は、そちらを先に見ます
- 1年だけで高い・低いを決める:増減率が大きい年は、賞与の変動や人員構成の変化が影響していることがあります。前の年の有報の数字とも並べます
上場していない会社は有報を出していないことが多く、この数字自体がありません。その場合に使える公開情報は中小企業の情報の調べ方で整理しています。30代からの転職で使える記事は、30代からの転職の一覧にあります。
提示された給与や労働条件の決め方に疑問があるときは、各都道府県の労働局にある総合労働相談コーナーで相談できます。
まとめ
- 平均年間給与は、提出会社で実際に働く従業員(就業人員)の1年間の給与の平均で、賞与を含む
- 2026年3月31日以後に終わる事業年度から、対前事業年度増減率も書く決まりになった
- 残業代などの基準外賃金や出向者の扱いは様式に細かい決まりがなく、各社の注記で確かめる
- 持株会社は、最大人員会社の欄の数字が、グループの多くの人の給与に近い
- 他社と比べるときは、注記の条件をそろえてから比べる