30 代の転職では、年収が上がるかどうかが大きな判断材料になります。ただ、求人票の「年収 400 万〜700 万円」のような幅だけでは、その会社の水準は分かりません。
上場会社などは、有価証券報告書で従業員の平均年間給与を公表しています。この記事では、有価証券報告書の平均年収の読み方と注意点、全国の統計との比べ方、転職で賃金が増えた人の割合を、公的な資料から整理します。
平均年収は有価証券報告書の「従業員の状況」にある
有価証券報告書は、上場会社などが事業年度ごとに出す書類です。金融庁の EDINET(電子開示システム)で、会社名から誰でも無料で見られます。
その中の「従業員の状況」に、提出会社の従業員について、人数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与(賞与を含む)が載っています。
2026 年 3 月期から加わったこと
2026 年 2 月 20 日に公布・施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令」などの改正により、2026 年 3 月 31 日以後に終わる事業年度の有価証券報告書から、次のことが加わりました。
| 加わったこと | 内容 |
|---|---|
| 平均年間給与の対前年の増減率 | 前の事業年度と比べて、平均年間給与が何%増えたか(減ったか) |
| 人材戦略 | 会社の経営戦略と関連付けた人材戦略 |
| 給与などの決定方針 | 従業員の給与(賞与を含む)などを、どういう方針で決めているか |
| 持株会社の場合 | 従業員が最も多い会社の平均給与や、その増減率など |
あわせて、「従業員の状況」は、書類の前のほうの「企業の概況」から、「提出会社の状況」の中に移りました。以前の年度の報告書と見比べるときは、載っている場所が違うことに気をつけます。
読むときの 5 つの注意
有価証券報告書の平均年間給与は公式の数字ですが、そのまま「自分がもらえる年収」とは読めません。次の 5 点に気をつけます。
1. 提出会社だけの数字
平均年間給与は、有価証券報告書を出している会社(提出会社)だけの数字で、グループ会社の社員は入りません。グループの持株会社が上場している場合、提出会社は少人数の本社機能だけ、ということがあります。そのときの平均は、グループの事業会社で働く人の実態と違うことがあります。
2026 年 3 月期からは、持株会社の場合に、従業員が最も多い会社の平均給与も載るようになったので、応募先がグループのどの会社なのかを確かめて、近い数字を見ます。
2. 全従業員の平均
平均年間給与は、若手から管理職まで、職種も含めた全従業員の平均です。平均年齢が高い会社ほど、平均年間給与も高く出やすくなります。
必ず平均年齢と平均勤続年数と一緒に見ます。平均年齢 45 歳で平均年収 700 万円の会社と、平均年齢 33 歳で 600 万円の会社では、30 代で入社する人にとっての意味が違います。
3. 臨時従業員は入らない
従業員数は就業している人数で、パートタイムなどの臨時従業員は含まれず、別に「外書き」で示すことになっています(臨時従業員が従業員数の 1 割未満なら省略できます)。平均年間給与も、原則として臨時従業員を除いた人の平均です。
4. 何を含むかは注記を見る
様式では「賞与を含む」とされています。そのうえで、残業代などの基準外賃金を含むことを注記で書いている会社もあります。残業が多い会社は、その分だけ平均年間給与が高く出ることがあるので、注記を確かめます。
5. 1 年だけで判断しない
平均年間給与は、業績による賞与の増減で年ごとに動きます。2026 年 3 月期からは対前年の増減率も載るので、3〜5 年分を並べて推移を見ると、一時的な数字かどうかが分かります。
全国の数字と比べる
応募先の数字が高いのか低いのかは、全国の統計と比べると見当がつきます。ただし、統計ごとに対象と定義が違います。
国税庁「民間給与実態統計調査」(年間の給与)
国税庁「令和 6 年分 民間給与実態統計調査」(2025 年 9 月公表)では、1 年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は 478 万円でした。給料・手当と賞与を合わせた年間の額です。
| 区分 | 平均給与 |
|---|---|
| 全体 | 478 万円 |
| 正社員(正職員) | 545 万円 |
| 正社員(正職員)以外 | 206 万円 |
| 男性 | 587 万円 |
| 女性 | 333 万円 |
業種別では、電気・ガス・熱供給・水道業が 832 万円、金融業・保険業が 702 万円と高く、宿泊業・飲食サービス業は 279 万円でした。有価証券報告書の平均年間給与は臨時従業員を含まないため、比べるなら正社員の 545 万円や、同じ業種の数字が近い物差しになります。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(年齢別の月の給与)
年齢別に見るなら、厚生労働省「令和 7 年 賃金構造基本統計調査」(一般労働者)が使えます。ここでの「賃金」は 2025 年 6 月分の所定内給与額(残業代や賞与を含まない月の額)です。
| 年齢 | 男女計 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|---|
| 30〜34 歳 | 31 万 2,300 円 | 33 万 400 円 | 28 万 3,200 円 |
| 35〜39 歳 | 34 万 600 円 | 36 万 6,200 円 | 29 万 2,400 円 |
月の所定内給与なので、12 倍しても賞与と残業代が入らず、年収とは比べられません。年齢による上がり方の目安として使います。
転職で年収は上がるのか
厚生労働省「令和 6 年雇用動向調査」(2025 年 8 月 26 日公表)では、2024 年に転職した人の賃金の変化は次のとおりでした。
| 年齢 | 増加 | うち 1 割以上の増加 | 変わらない | 減少 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 40.5% | 29.4% | 28.4% | 29.4% |
| 30〜34 歳 | 46.1% | 36.0% | 29.1% | 24.2% |
| 35〜39 歳 | 45.5% | 35.3% | 28.0% | 24.3% |
30 代では、転職して賃金が増えた人が 4 割台半ばで、減った人の約 2 倍です。一方で、4 人に 1 人程度は賃金が減っています。平均の数字が上がり調子でも、自分の条件で上がるかは、応募先の賃金の中身で確かめる必要があります。
確かめる手順
- EDINET で応募先の有価証券報告書を開き、「従業員の状況」の平均年間給与、平均年齢、平均勤続年数を書き出す
- 持株会社なら、自分が入る会社に近い数字(従業員が最も多い会社の数字など)を探す
- 対前年の増減率と、過去の報告書で 3〜5 年の推移を見る
- 国税庁の正社員の平均や同じ業種の平均と比べて、水準の見当をつける
- 求人票で、応募する職種の賃金の内訳(基本給、固定残業代の時間数と金額、賞与の実績)を確かめる
有価証券報告書を出していない会社では、平均年収の公表はありません。その場合は、求人票の賃金の内訳と、面接や内定のときに示される労働条件で確かめます。
まとめ
- 上場会社などの平均年収は、有価証券報告書の「従業員の状況」にある平均年間給与(賞与を含む)で確かめられる
- 2026 年 3 月期から、対前年の増減率、人材戦略、給与の決定方針、持株会社の場合の主な事業会社の数字が加わった
- 提出会社だけの、全従業員の平均。平均年齢・平均勤続年数と一緒に、複数年で見る
- 全国の平均給与は 478 万円、正社員は 545 万円(令和 6 年分)。比べるなら正社員や同じ業種の数字で
- 30 代の転職で賃金が増えた人は 4 割台半ば、減った人は 4 人に 1 人程度