逆質問で「調べれば分かること」を聞いてしまうのは、準備をさぼったからというより、どこまで調べれば足りるのかが決まっていないからです。会社の情報は公式サイト、有価証券報告書、厚生労働省のサイトなどに散らばっていて、どれを見れば済むのかが分かりにくいのです。
やることは 3 つです。面接の前に、決まった順番で公開情報を見る。見た結果を「数字で分かったこと」と「数字では分からないこと」に分ける。そして、分からない部分だけを「〇〇と拝見しました。そのうえで△△はどうでしょうか」の形で聞く。この記事では、見る順番と、それぞれの情報で分かること・分からないこと、質問への変え方を順に整理します。
なぜ「調べれば分かること」を聞いてしまうのか
無難な質問ほど、公開情報と重なる
逆質問を「意欲を見せる場」と考えると、どの会社にも使える無難な質問を用意しがちです。「御社の強みは何ですか」「どんな人が活躍していますか」「研修制度はありますか」。こうした質問は、会社がすでに採用ページや報告書で説明している内容と重なりやすくなります。
面接官から見ると、公開している内容をもう一度説明してほしいと頼まれた形になります。限られた時間を使うことになり、準備の程度が伝わってしまうおそれがあります。
公開情報の「限界」を知らない
もう 1 つの原因は、公開情報で何が分からないかを知らないことです。たとえば有価証券報告書の平均年間給与は、会社全体の平均です。自分が入る職種や部署の給与は分かりません。ここが分かっていれば、「平均年収はいくらですか」ではなく「この職種で入った場合、評価によって年収がどう動くか」を聞けます。公開情報を読む目的は、答えを知ることより、聞くべき残りを絞ることです。
面接の前に見る公開情報
見る順番と、それぞれで分かること・分からないことを表にまとめます。上場していない会社や、規模の小さい会社では、載っていない情報もあります。
| 見るもの | 対象になる会社 | 分かること | 分からないこと |
|---|---|---|---|
| 会社の公式サイト・採用ページ・求人票 | すべて | 事業の内容、募集する仕事、示されている労働条件 | 配属先ごとの実態、直近の変化 |
| 有価証券報告書(金融庁の EDINET で無料で見られる) | 上場会社など | 従業員数・平均年齢・平均勤続年数・平均年間給与、事業等のリスク、対処すべき課題、人材育成の方針と指標 | 職種別・部署別の数字、グループ会社の数字 |
| 正規雇用労働者の中途採用比率 | 常時雇用する労働者が 301 人以上の会社 | 直近 3 事業年度の、正社員の採用に占める中途採用の割合 | 中途で入った人の定着や配属 |
| 女性管理職比率・男女間賃金差異 | 2026 年 4 月から常時雇用する労働者が 101 人以上の会社 | 管理職(課長級以上)に占める女性の割合、男女の賃金の差 | 部署ごとの状況 |
| 職場情報総合サイト「しょくばらぼ」(厚生労働省) | 情報を公表・登録している会社 | 採用や働き方に関して会社が公表した情報を、複数社並べて比べられる | 会社が載せていない項目 |
有価証券報告書で見るところ
有価証券報告書は、上場会社などが事業年度ごとに出す書類です。面接の前に見るなら、次の 3 か所で足ります。
- 従業員の状況:提出会社の従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与。平均年収の読み方の注意点(提出会社だけの数字であること、2026 年 3 月期から項目と場所が変わったこと)は、有価証券報告書の平均年収の読み方で詳しく扱っています
- 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等と事業等のリスク:会社がいま何に力を入れ、何を課題と見ているか。配属先の仕事がその中でどこに当たるかを考える材料になります
- サステナビリティに関する考え方及び取組:金融庁の 2023 年 1 月 31 日の内閣府令の改正で新設された記載欄です。2023 年 3 月 31 日以後に終わる事業年度の報告書から、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針、社内環境整備の方針、その方針に関する指標の内容などを書くことになりました。あわせて、女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差を公表している会社は、有価証券報告書にも記載します
法律で公表が決まっている数字
中途採用比率は、転職する人にとって特に役に立つ数字です。労働施策総合推進法にもとづき、2021 年 4 月 1 日から、常時雇用する労働者が 301 人以上の会社は、直近 3 事業年度の各年度について、採用した正規雇用労働者の中途採用比率を自社のホームページなどで公表することになっています(厚生労働省・労働局の案内による)。
女性管理職比率と男女間賃金差異は、2025 年 6 月に公布された改正女性活躍推進法により、2026 年 4 月 1 日から常時雇用する労働者が 101 人以上の会社にも公表が義務付けられました。それまで男女間賃金差異の公表義務は 301 人以上の会社だけでした。3 月決算の会社なら、6 月 30 日までに公表することになっています(栃木労働局の案内による)。公表先として、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」が案内されています。
しょくばらぼで並べて見る
厚生労働省が運営する職場情報総合サイト「しょくばらぼ」は、若者雇用促進総合サイト、女性の活躍推進企業データベース、両立支援のひろばの情報をまとめて検索でき、気になる会社を複数選んで比べられます。掲載企業数は 150,785 件(2026 年 9 月 1 日時点)です。会社が公表・登録した項目だけが載るので、会社によって見られる項目は違います。新卒の採用者数・離職者数など若者雇用促進法にもとづく情報の見方は、早く辞める人が多い会社の見分け方にまとめています。
公開情報を質問に変える手順
1. 応募先ごとに 1 枚の表にまとめる
見た情報を、「項目」「数字や記載」「時点」「出典」の 4 列で書き出します。時点と出典を書くのは、面接で「〇年度の報告書で拝見しました」と言えるようにするためです。複数の会社を受けるときも、同じ列で並べておくと比べやすくなります。
2. 数字から「こうではないか」を 1 つ立てる
数字そのものを質問にするのではなく、数字から読み取れることを 1 つ書きます。
- 中途採用比率が 3 年続けて高い → 中途で入った人の受け入れに慣れているのではないか
- 対処すべき課題に新しい事業の拡大が書かれている → 配属先の仕事の中身が今後変わるのではないか
- 人材育成の指標に研修時間の目標がある → 中途入社でも研修の対象になるのではないか
外れていても構いません。面接で確かめるための仮の答えです。
3. 仮説を、面接官にしか答えられない形にする
公開情報は会社全体の話です。面接官に聞く価値があるのは、配属先・職種・直近の変化のように、公開情報に出てこない部分です。
| 公開情報で分かったこと | 聞くこと |
|---|---|
| 中途採用比率が直近 3 年で上がっている | 中途で入った方は、最初の 3 か月でどんな仕事から任されることが多いですか |
| 対処すべき課題に〇〇事業の拡大がある | 配属予定の部署は、その計画の中でどんな役割を担う予定ですか |
| 人材育成の方針で研修の指標を掲げている | 中途入社の場合も、その研修の対象になりますか。入社何か月目ごろに受けますか |
| 平均年間給与と平均年齢は分かった | この職種で入社した場合、評価によって年収がどう動くのか、目安を教えていただけますか |
前置きに「〇〇と拝見しました」と一言付けると、調べたうえで聞いていることが伝わり、答える側も前提を説明し直さずに済みます。
4. 3 つに絞り、聞く相手に合わせる
用意した質問は、答えによって入社するかどうかの判断が変わるものから順に並べ、上から 3 つを持っていきます。人事、配属先の管理職、役員と、段階によって答えられる範囲が違うので、誰に聞くかも決めておきます。業務の進め方や承認の流れを確かめる質問は、業務の効率を確かめる逆質問で扱っています。
実行するときの落とし穴
数字を突きつける形にしない。 「平均勤続年数が短いようですが、なぜですか」は、責める質問に聞こえます。「平均勤続年数は〇年と拝見しました。中途で入った方が長く働けるよう、配属後に工夫されていることはありますか」と、事実の確認と先の話に分けます。
時点と範囲を取り違えない。 有価証券報告書の数字は提出会社だけのもので、持株会社の場合は応募先の事業会社と違うことがあります。報告書の年度が古いと、面接官の認識とずれます。最新の報告書を開き、どの会社の数字かを確かめてから使います。
数字だけで結論を出さない。 公開情報は会社全体の平均や割合です。平均年収が高い会社でも、応募する職種の給与が高いとは限りません。数字は「何を聞くか」を決める材料にとどめ、良し悪しの判断は面接の答えと合わせて行います。気になる会社がよく見えるときの比べ方は、隣の芝生が青く見えるときの比べ方で整理しています。
公開情報が少ない会社で、質問を諦めない。 上場しておらず、従業員が 100 人以下の会社では、法律で公表が義務付けられた数字がほとんどない場合があります。その場合は、求人票に書かれた条件を 1 つずつ確かめる質問を用意します。面接で聞いた内容は、内定のときに示される労働条件の書面と照らし合わせます。
聞きにくいことを最後まで残さない。 残業や休みの取りやすさは聞きにくい質問ですが、入社後に困るのはここです。「〇〇の時期は忙しいと伺いました。その時期の働き方を教えていただけますか」と、仕事の話として聞けば角は立ちにくくなります。
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