生成AIで作った職務経歴書の下書きで一番危ないのは、文章の上手下手ではありません。あなたの経歴にない数字や役割が、自然な文の中に紛れ込むことです。「業務効率を30%改善」「チームを牽引」といった一文は読みやすい一方で、入力していない数字や、実際より大きな役割が書かれていることがあります。
直す順番は決まっています。まずAIが足したものを探して消し、残った記述を手元の記録で確かめ、数字には根拠をメモで残し、文体を整えるのは最後です。基準は1つで、面接で聞かれたときに自分の言葉で説明できない行は、書類に残さないことです。
AIの下書きに事実と違う内容が混ざる理由
もっともらしい文を作る仕組みだから
個人情報保護委員会は「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月)で、生成AIの応答結果には不正確な内容が含まれることがあり、その文章は確率的な相関関係にもとづいて生成される、と注意を促しています。職務経歴書に当てはめると、AIは「職務経歴書によく出てくる言い回し」を並べるのが得意で、あなたの経歴が本当にそうだったかは知りません。
入力が足りない場所ほど、AIはそれらしい言葉で埋めます。「営業を3年担当」とだけ入力すると、「新規顧客を開拓し売上拡大に貢献」のように、していないかもしれない仕事まで書き足されることがあります。
職種の一般的な説明が、自分の経験として書かれる
もう1つの原因は、職種の一般的な仕事内容が、あなた個人の実績のように書かれることです。たとえば経理職と入力すると、決算・税務申告・監査対応がひととおり並びますが、実際に担当していたのが月次の仕訳と支払いだけなら、残りは事実と違います。
応募書類は本人が書いた事実として読まれます。面接では書類の行を一つずつ掘り下げて聞かれるので、身に覚えのない行は、そこで説明に詰まります。
AIが足しやすい誤りの見分け方
下書きを読み返すときは、次の6種類を重点的に探します。
| 種類 | よくある例 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 数字 | 「売上120%達成」「工数を30%削減」 | 自分が入力した数字か。入力していなければ削除 |
| 役割の格上げ | 担当 → 主導、メンバー → 統括、補助 → 推進 | 決めたのは誰か。自分が決めていなければ元の言葉に戻す |
| 期間・日付 | 在籍年月、プロジェクトの期間 | 公的な記録や雇用契約書と照らす |
| 固有名詞 | 資格の名称、ツール名、社名の表記 | 合格証・登録証、公式の表記と照らす |
| 一般論の混入 | 職種の説明がそのまま実績として並ぶ | 実際に担当した業務だけ残す |
| 社外に出せない情報 | 取引先名、未公表の売上や価格 | 就業規則や秘密保持の約束に触れないか |
1行ずつ、次の3つを自分に問いかけると、残す行と消す行を分けやすくなります。
- この行に書かれた動作を、自分が実際にしたか
- それを裏づける記録(書類・メール・評価面談の資料など)が手元にあるか
- 面接でこの行について聞かれたら、1分間具体的に話せるか
3つとも「はい」と言えない行は、書き直すか、消します。
事実を確かめる手順
手順1 下書きを1行1事実に分ける
AIの文章は、1文に複数の事実が入っていることがよくあります。「5名のチームを率いて新システムを導入し、処理時間を半減させた」は、チームの人数・自分の役割・導入したこと・処理時間の変化、の4つの事実です。1つずつ分けて、それぞれに「確認済み」「要確認」「削除」の印を付けます。
手順2 在籍期間と入社日を公的な記録で確かめる
在籍期間は、雇用保険や年金の記録と照らせば食い違いがすぐ分かる項目です。月単位で覚えていないときは、次の方法で確かめられます。
- 雇用保険の加入記録: ハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」を出すと、加入していた事業所、資格を取得した年月日(入社日)、離職年月日が書かれた回答書を受け取れます。本人確認の書類が必要です
- 年金の加入記録: 日本年金機構の「ねんきんネット」で、加入していた公的年金制度とその期間を確認できます
- 手元の書類: 雇用契約書、労働条件通知書、源泉徴収票、退職時の書類
手順3 資格は正式名称と取得年月を写す
資格名はAIが略称や似た名前に置き換えやすい部分です。合格証や登録証を見て、正式名称・取得年月・(ある場合は)登録番号の有無を書き写します。勉強中のものは「取得に向けて学習中」と分けて書き、取得済みの資格と並べて一覧にしないようにします。
手順4 実績の数字に「期間・分母・自分の関わり」を添える
数字は、次の3点をメモに残せるものだけを書きます。
- 期間: いつからいつまでの話か(例: 2024年4月〜2025年3月)
- 分母: 何に対する割合か(例: 月平均の問い合わせ件数に対して)
- 自分の関わり: チーム全体の成果か、そのうち自分が担当した部分か
たとえば「問い合わせ対応時間を30%短縮」は、「2024年度、よくある質問の回答例を作り、1件あたりの平均対応時間が約10分から約7分になった(チーム5名の合計の記録から)」まで言えれば残せます。言えなければ、「回答例を作って対応を標準化した」と、数字を外した事実だけを書きます。数字を事実に直す考え方は報告の曖昧な表現を数字に直す手順も参考になります。
公表されていない売上や価格は、書く必要があるなら「前年比」や「約◯割」のような比率にとどめます。確かめるために会社の資料を自宅へ持ち出すことは、就業規則に触れるおそれがあるので避け、自分の手帳や評価面談で受け取った資料など、手元にある記録の範囲で確かめます。
手順5 根拠のメモを、応募書類と一緒に保管する
確かめた内容は、書類の行と対応させたメモにまとめておきます。面接の前に読み返せば、深掘りの質問にもそのまま答えられます。
AIに入力する前と、出力を受け取ったあと
入力する前に、人と会社の情報を外す
同じ注意喚起で、個人情報保護委員会は、入力した個人情報が生成AIの機械学習に使われることがあると述べ、利用規約やプライバシーポリシーを確認したうえで判断するよう求めています。職務経歴書の下書きをAIに頼むときは、同僚や顧客の名前、取引先の名前、社外秘の数字を入力しないでください。「大手小売業の顧客」「従業員300名規模の取引先」のように、特定できない言い方に置き換えてから入力します。
作らせ方で、足される量を減らす
指示の出し方で、AIが勝手に足す量はかなり減らせます。
次のメモをもとに、職務経歴書の職務内容欄を書いてください。 ・メモにない数字・役割・固有名詞を足さないでください ・情報が足りない所は、推測で埋めず【要確認】と書いてください ・「主導」「牽引」「統括」は、メモにそう書いた場合だけ使ってください
出力を受け取ったら、入力と見比べる
出力された文を、自分が入力したメモと並べ、メモにない名詞と数字に印を付けます。印の付いた所が、AIが足した可能性の高い部分です。最後に文体だけ整えさせた場合も、整えたあとに数字や固有名詞が変わっていないかを、もう一度見比べます。
経験そのものを他社に通じる言葉に置き換える作業は、AIより先に自分でやるほうが確実です。手順は40代転職で「スキルなし」と感じるときの経験の言い換え方にまとめています。
直すときの落とし穴
- 「だいたい合っている」で残す。 少し盛った数字でも、面接で計算の根拠を聞かれて答えられなければ、ほかの行まで疑われます。書類全体の信頼は、一番弱い行で決まります。
- チームの成果を、自分だけの成果として書く。 「チームで◯◯を達成し、うち自分は△△を担当」と分けて書けば、規模も伝わり、面接でも説明がぶれません。
- 求人ごとに書き分けて、版によって事実がずれる。 同じ経歴なのに、応募先ごとに人数や期間が違う書類ができてしまうことがあります。事実の部分は1つの原本に固定し、書き分けるのは「どの経験を先に書くか」だけにします。
- 経歴の食い違いを軽く見る。 応募書類の内容が事実と違っていたことがあとで分かった場合にどう扱われるかは、会社の就業規則や個別の事情によって違い、ここで一律には言えません。迷う書き方は採らず、確かめられる事実だけを書くのが一番確実です。
- AIの文を自分の強みだと思い込む。 AIがきれいにまとめた強みは、読み手にとっては誰にでも当てはまる言葉に見えることがあります。自分の経験が外からどう見えるかを確かめる方法は、市場価値の測り方が参考になります。
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