退職届は、決めた日に辞める意思を、会社の承諾を待たずに伝える書類です。法律で決まった書式はなく、書くのは「退職届」という表題、退職日、理由(自分の都合なら「一身上の都合により」)、提出日、所属と氏名、宛名(会社の代表者)の6つです。
退職願とは扱いが違います。退職願は「辞めさせてください」という申し込みで、会社が承諾するまで効果が出ません。確実に決めた日で辞めたいなら、退職届のほうが向いています。この記事では、2つの違い、見本、日付の決め方、渡し方と郵送のしかた、撤回の扱いを、厚生労働省の「確かめよう労働条件」をもとに説明します。
退職届と退職願の違い
厚生労働省の「確かめよう労働条件」では、退職を2つに分けて説明しています。
| 書類 | 法的な意味 | 効果が出る時期 | 撤回 |
|---|---|---|---|
| 退職願 | 合意による退職の申し込み | 会社が承諾したとき | 会社が承諾するまでは撤回できる |
| 退職届 | 一方的な退職の申し入れ | 会社が承諾したとき。承諾しなくても、無期の契約なら申し入れから2週間後 | 会社の同意が要る |
同じ資料では、確実に一定の期日で辞めたいなら、必要な期間を見込んだうえで、合意退職の申し込みと受け取られない書き方で退職の意思をはっきり書いた「退職届」を出すのが無難、とされています。
ただし、実際に争いになったときは、表題だけでなく、書かれている内容や当事者の言動から判断されるとも書かれています。表題を「退職届」にしたうえで、本文に退職日をはっきり書くことが大切です。
退職届の見本
退職届は、法律で書式が決まっていないので、手書きでもパソコンで作っても、縦書きでも横書きでも構いません。会社に決まった様式があれば、それに合わせます。
退職届
私儀
このたび、一身上の都合により、令和8年11月30日をもって退職いたします。
令和8年10月15日
営業部 第二課
(氏名) 印
株式会社〇〇〇〇
代表取締役 (氏名) 殿
書く項目ごとの注意は次のとおりです。
| 項目 | 書き方 | 注意 |
|---|---|---|
| 表題 | 「退職届」 | 「退職願」と書くと承諾を求める申し込みと受け取られやすい |
| 冒頭 | 「私儀」(わたくしぎ)または「私事」 | 手紙の慣習で、省いても効力は変わらない |
| 理由 | 「一身上の都合により」 | 自分の都合で辞める場合は詳しく書かなくてよい |
| 退職日 | 「令和8年11月30日をもって退職いたします」 | 日付をはっきり書く。「〇月末頃」のようにぼかさない |
| 提出日 | 実際に出す日 | 退職日と取り違えない |
| 所属・氏名 | 部署名と自分の氏名 | 押印は会社の様式に合わせる |
| 宛名 | 会社名と代表者の役職・氏名 | 直属の上司あてではなく、会社の代表者あてにする |
本文は「〇月〇日をもって退職いたします」と言い切る形にします。「退職させていただきたく、お願い申し上げます」と書くと、退職願と同じ申し込みの形になります。
退職日の決め方
退職日は、次の3つを見て決めます。
- 法律の期間:期間の定めのない雇用(無期の契約)なら、原則として退職の申し入れから2週間で契約が終わります(民法第627条第1項)
- 就業規則の手続き:多くの会社は就業規則に退職の申し出の時期を定めています。「確かめよう労働条件」は、就業規則の手続きも確かめ、ルールを守った手続きをとることがトラブル防止に大切だとしています
- 有給休暇と引き継ぎ:残っている有給休暇を使うなら、その日数を見込んで最終出社日と退職日を分けて考えます
なお、同じ資料では、就業規則で申し入れの期間を大幅に延ばしたり、会社の許可を退職の条件にしたりする定めは、無効とされた裁判例も紹介されています。
有期の契約の場合
契約期間が決まっている雇用(有期の契約)では、期間の途中で辞めるには「やむを得ない事由」が必要とされています(民法第628条)。ただし、契約期間が1年を超える契約では、1年を過ぎた日以後はいつでも辞められます(労働基準法第137条。高度の専門知識を持つ人や60歳以上の人との契約などは除く)。有期の契約の人は、契約期間の終わりを退職日にするのが基本です。
渡し方
手渡しの手順
- 先に口頭で伝える:直属の上司に、退職の意思と退職日を口頭で伝える
- 退職届を出す:上司に手渡す。上司が受け取らないときは、人事部門に出す
- 写しを残す:出す前にコピーを取り、いつ誰に渡したかを控える
封筒に入れて渡す場合は、白い無地の封筒の表に「退職届」、裏に所属と氏名を書くのが一般的です。
受け取ってもらえないときの郵送
上司も人事も受け取らない、出社が難しいといったときは、郵送で出せます。届いた日と中身を後から示せるように、記録が残る方法を選びます。
日本郵便の内容証明は、いつ、どんな内容の文書を、誰から誰あてに出したかを、差出人が作った謄本(文書の写し)で証明する仕組みです。一般書留で送ることになり、配達証明を付けることもできます。証明されるのは文書が存在したことで、書かれた内容が正しいかどうかではありません。インターネットで24時間受け付ける「e内容証明」もあります。
メールで退職の意思を伝えることもできますが、受け取っていないと言われると確かめにくいので、メールで伝えたうえで退職届を郵送しておくと確かです。
撤回はできるか
「確かめよう労働条件」では、撤回について次のように説明しています。
- 退職願(合意退職の申し込み)は、会社が承諾するまでは撤回できる
- 退職届(一方的な申し入れ)は、会社に届いた後、会社が承諾すればその時点で効果が出て、承諾しなくても2週間後に効果が出る
- 承諾の後や、一方的な申し入れの後に撤回したいときは、会社の同意が要る
退職の意思表示はたやすくは撤回できないので、出す前に慎重に考えることが大切、とも書かれています。転職先が決まっている場合は、内定が書面で確定してから出すのが安全です。
読み違えやすい点
- 退職願と退職届を同じものと思う:退職願は会社の承諾が要る申し込み、退職届は一方的な申し入れです
- 会社が受け取らなければ辞められないと思う:無期の契約なら、申し入れから原則2週間で契約は終わります。受け取りを拒まれたら、記録が残る方法で届けます
- 提出日と退職日を取り違える:2つの日付を別々に書きます
- 宛名を上司にする:退職届は会社に対する申し入れなので、代表者あてに書きます
退職日を認めない、退職届を受け取らないといった状態が続くときは、都道府県労働局や労働基準監督署などにある総合労働相談コーナーに無料で相談できます。
切り出し方と引き止めへの返し方は退職の引き止めがしつこいとき、辞めるときに損害賠償などを持ち出されたときは退職で損害賠償と言われたらで詳しく説明しています。辞めた後の健康保険や年金の手続きは退職したあとの手続きにまとめています。
まとめ
- 退職届は一方的な退職の申し入れ、退職願は会社の承諾を求める申し込み
- 書くのは表題・退職日・理由・提出日・所属と氏名・宛名(会社の代表者)
- 本文は「〇月〇日をもって退職いたします」と言い切り、退職日をはっきり書く
- 無期の契約なら申し入れから原則2週間で契約が終わる。就業規則の手続きも確かめる
- 受け取ってもらえないときは、内容証明など記録が残る方法で郵送する
- 出した後の撤回には会社の同意が要るので、内定が確定してから出す



