職場の人間関係で気持ちがすり減るのは、珍しいことではありません。厚生労働省「令和 7 年 労働安全衛生調査(実態調査)」(2026 年 8 月公表)では、仕事や職業生活に強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある労働者のうち、その内容に「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」を挙げた人は 32.9%でした。前年の調査の 26.1%から上がっています。
人間関係の消耗は、「相手が嫌い」という一言でまとめられがちですが、中身はいくつかに分かれます。話し方が合わないだけなのか、連絡の量やタイミングに追われているのか、ハラスメントに当たりうる言動なのか、顧客からの度を越えた要求なのか。中身によって、自分でできることと、会社や外部に任せるべきことが違います。
この記事では、消耗の中身を切り分け、連絡の線引きの手順と記録の残し方、社内と社外の相談先を順に整理します。
人間関係の消耗が起きる仕組み
強いストレスがある人の 3 人に 1 人が、対人関係を挙げている
同じ調査で、強いストレスと感じる事柄がある労働者を 100 としたときの「対人関係」の割合は、属性によって次のように違います。
| 区分 | 対人関係を挙げた割合 |
|---|---|
| 全体 | 32.9% |
| 30〜39 歳 | 37.1% |
| 40〜49 歳 | 36.8% |
| 女性 | 37.6% |
| パートタイム労働者 | 38.5% |
| 契約社員 | 37.8% |
「顧客、取引先等からのクレーム」を挙げた人も 22.1%いました。社内の人間関係だけでなく、社外の相手とのやり取りも消耗の大きな要因です。
職場の人間関係は、避けられない形で続く
厚生労働省の「こころの耳」は、ストレスの原因になりやすい職場での出来事として、「上司や同僚、部下などと人間関係でのトラブルがあった」を挙げています。私生活の人間関係なら距離を置けますが、職場の相手とは業務でつながっているため、会う回数も連絡の経路も自分では選びにくいのが特徴です。気の合わない相手とでも、毎日同じ席で、同じチャットで、締め切りのある仕事を一緒に進めなければなりません。
そのため、気持ちの持ち方を変えるより、接点の形(いつ、どの経路で、何を話すか)を整えるほうが効きやすくなります。
消耗のサインに先に気づく
こころの耳は、こころの不調のサインとして、不安感やイライラ、やる気が出ない、寝つきが悪い・朝早く目が覚める、消極的になり周囲との交流をさけるようになる、飲酒や喫煙の量が増える、などを挙げ、こうした症状が 2 週間以上続くときは専門家(精神科、心療内科)に早めに相談することを勧めています。特定の相手の名前を見ただけで動悸がする、出勤前に体が動かない、という状態は、線引きの工夫より相談を先にする段階です。
消耗の中身を 4 つに分ける
まず、何に消耗しているのかを分けます。対応の主体が違うからです。
| 消耗の中身 | 例 | 主にすること | 相談先 |
|---|---|---|---|
| 1. やり取りのすれ違い | 話し方が合わない、言い方がきつく感じる、意図が読めない | 業務の経路と文字での確認に寄せる | 上司、信頼できる同僚 |
| 2. 連絡の量とタイミング | 勤務時間外の連絡、即答を求められる、細切れの依頼 | 返信の時間と経路を決めて伝える | 上司、チーム |
| 3. ハラスメントに当たりうる言動 | 人格を否定する暴言、無視や仲間外れ、明らかに不要な業務の押し付け | 記録を残し、相談窓口に話す | 社内の相談窓口、総合労働相談コーナー |
| 4. 顧客・取引先からの度を越えた言動 | 理由のない要求、暴言、長時間の拘束 | 一人で対応せず会社の対応方針に乗せる | 上司、社内の担当部署 |
1 と 2 は、自分の工夫と上司への相談で変えられる余地があります。3 と 4 は、本人の工夫で吸収する問題ではなく、事業主が対策を講じる義務を負っている問題です。
ハラスメントに当たるかの考え方
厚生労働省のハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」は、職場のパワーハラスメントを、次の 3 つの要素をすべて満たすものとしています。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに当たりません。一方で、労働者に問題行動があった場合でも、人格を否定するような言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動があれば、パワハラに当たり得るとされています。
代表的な類型として、身体的な攻撃、精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)、人間関係からの切り離し(隔離・仲間外れ・無視)、過大な要求、過小な要求、個の侵害(私的なことへの過度な立ち入り)の 6 つが示されています。これらは限定列挙ではなく、個別の状況で判断が変わることもあります。
顧客からの言動は、2026 年 10 月から事業主の措置義務に
顧客や取引先などからの言動は、「カスタマーハラスメント」として整理されています。あかるい職場応援団によると、①顧客、取引の相手方、施設の利用者など事業に関係する人が行う、②社会通念上許容される範囲を超えた言動により、③労働者の就業環境が害されるもので、3 つの要素をすべて満たすものです。令和 8 年(2026 年)10 月 1 日から、事業主はカスタマーハラスメントを防ぐために雇用管理上必要な措置を講じることが義務になりました。
ただし、顧客からの苦情のすべてが当たるわけではなく、社会通念上許容される範囲の申し入れは正当なものとされています。店舗での対面だけでなく、電話や SNS などでの言動も含まれます。
連絡の線引きの手順
ここからは、主に 1 と 2 の消耗に向けた手順です。3 と 4 に当たりそうなときも、手順 4 の記録は同じように役立ちます。
1. 業務の連絡の経路を決める
業務の連絡は、会社が決めたチャットやメールなど、記録が残り、ほかの人も見られる経路に寄せます。個人の SNS や私用の電話でのやり取りは、時間の境目がなくなりやすく、後から内容を確かめることもできません。相手から私的な経路で業務の連絡が来たら、「確認漏れを防ぎたいので、業務のことは〇〇のチャットでお願いします」と、理由を業務の側に置いて伝えます。
2. 返信する時間を決めて、先に伝える
すぐに返さなければという緊張が続くと、作業も休息も細切れになります。チャットを確認する時間帯を決め、急ぎのときの連絡手段(電話など)を別に決めて、チームに伝えておきます。チームでの決め方はチャットの即レスに疲れたとき、休日の連絡の扱いは休日の仕事連絡の線引きで整理しています。
3. 揉めやすい相手とは、要点を文字で確かめる
口頭での指示が後から変わる、言った・言わないになる相手とは、話した直後に「先ほどの件、〇〇を△日までに対応する、という理解で合っていますか」と文字で送ります。相手を責める文面にはせず、自分の理解を確かめる形にするのが要点です。感情的なやり取りが続くときに、話題を業務の中身に戻す効果もあります。同僚の嫌みへの返し方は同僚の嫌みへの対応と線の引き方で詳しく扱っています。
4. 記録を残す
ハラスメントかどうか迷う段階でも、記録は残しておきます。あかるい職場応援団は、総合労働相談コーナーに相談するときに、事実関係を整理しやすいよう次のことを持っていくとよい、としています。
| 記録すること | 書き方の例 |
|---|---|
| いつ | 日付と時刻 |
| どこで | 会議室、執務室の席、オンライン会議、チャットのどの場所か |
| 何を言われたか、何を強要されたか | 言われた言葉はできるだけそのまま |
| 誰に | 名前と役職 |
| 誰が見ていたか | その場にいた人 |
チャットやメールは画面の保存も残します。あわせて、そのあと眠れなくなった、受診した、といった自分の体調の変化も書いておくと、相談の場で状況が伝わりやすくなります。
5. 相談する順番を決める
相談先は、中身によって選びます。業務の分担や連絡の量なら上司、上司本人との関係なら人事やさらに上の上司、ハラスメントに当たりうる言動なら社内の相談窓口、社内で話しにくい・取り合ってもらえないときは社外の窓口、という順が基本です(相談先の一覧は後の章)。
会社が講じるべき措置を知っておく
パワーハラスメントの防止は、労働施策総合推進法で事業主の義務とされています。あかるい職場応援団と、厚生労働省のパワーハラスメント防止の指針(令和 2 年厚生労働省告示第 5 号)は、事業主が講ずべき措置として、主に次のものを挙げています。
- ハラスメントの内容と、あってはならないという方針の明確化と周知、行為者への厳正な対処方針の規定化
- 相談窓口の設置と、相談への適切な対応
- 事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者への配慮と行為者への措置、再発防止
- 当事者などのプライバシーを守る措置
- 相談したことや協力したことを理由に、不利益な取扱いをしてはならない旨の定めと周知
社内の相談窓口は、こうした措置の一つとして置かれているものです。窓口が何をしてくれて、何をしてくれないかの具体的な使い方は、コンプライアンス窓口とパワハラ相談の使い分けにまとめています。
相談先
同じ労働安全衛生調査では、ストレスを相談できる人がいる労働者は 94.8%で、相談できる相手は「家族・友人」が 74.8%、「上司」が 63.8%でした。家族や友人に話すことは大切ですが、職場の問題を動かせるのは、職場や公的な窓口です。
| 相談先 | 向いている内容 |
|---|---|
| 上司・人事 | 業務の分担、連絡のルール、席や担当の見直し |
| 社内のハラスメント相談窓口 | ハラスメントに当たりうる言動。事実確認と措置を求める |
| 会社の産業医・保健師 | 眠れない、体調が崩れているなど健康面の相談 |
| 総合労働相談コーナー | いじめ・嫌がらせ、パワハラなどあらゆる労働問題。都道府県労働局や全国の労働基準監督署内など 378 か所。予約不要・無料で、面談か電話で対応(土日・祝日・年末年始は閉庁) |
| こころの耳 電話相談(0120-565-455)・SNS 相談・メール相談 | 匿名・無料。気持ちの整理や不調の相談。電話は平日 17〜22 時、土日 10〜16 時(祝日・年末年始を除く) |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 法的な解決を考えるとき。問い合わせの内容に合った法制度や相談窓口を無料で案内 |
| みんなの人権 110 番 | 差別や虐待、ハラスメントなどの人権問題の電話相談。最寄りの法務局につながる |
公務員や公立学校の教員は、総合労働相談コーナーではなく、人事院や人事委員会、教育委員会などの窓口が相談先になる場合があります。あかるい職場応援団の「相談窓口のご案内」で確かめてください。
社内に話せる人がいないときの考え方は、職場に相談できる人がいないときでも扱っています。
読み違えやすい点
厳しい指導はすべてパワハラだと考える。業務上必要かつ相当な範囲の指示や指導は当たりません。指導の内容(何を直すよう言われたか)と、言い方(人格の否定や大声での叱責が続いているか)を分けて記録すると、相談の場で判断しやすくなります。
1 回きりならハラスメントにならないと考える。あかるい職場応援団は、言動の頻度や継続性は考慮されるものの、強い身体的・精神的苦痛を与える言動の場合は、1 回でも就業環境を害する場合があり得るとしています。
上司からのものだけがパワハラだと考える。優越的な関係には、業務上必要な知識や経験を持つ同僚や部下の言動や、同僚や部下の集団による、抵抗や拒絶が難しい行為も含まれます。
慣れれば平気になると考えて、我慢を続ける。こころの耳は、ストレスのサインを放っておくと、治療が必要な疾患に移る可能性があるとしています。眠れない、食欲がないといった状態が 2 週間以上続くなら、相談を先にします。
消耗したまま、退職を急いで決める。人間関係の問題は、異動や担当替えで変わることもあります。判断が狭くなっているときほど、まず社内外の相談先に事実を話してから決めるほうが、取り返しのつかない判断を避けられます。心身の消耗が強い場合の休み方は、バーンアウト(燃え尽き症候群)のサインと休む目安を参照してください。
まとめ
- 強いストレスの内容に対人関係を挙げた労働者は 32.9%。人間関係の消耗は珍しいことではない
- 消耗の中身を「すれ違い」「連絡の量」「ハラスメントに当たりうる言動」「顧客からの言動」に分け、後の 2 つは一人で吸収しない
- 業務の連絡は記録の残る経路に寄せ、返信する時間を決めて先に伝える
- 迷う段階から、いつ・どこで・何を・誰に・誰が見ていたかを記録する
- 社内の窓口で進まないときは、総合労働相談コーナーやこころの耳など、無料の社外の窓口を使う
心と体の消耗を防ぐほかの記事は、メンタル・自己管理の一覧から探せます。
参考資料
- 厚生労働省「令和 7 年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」個人調査(2026 年 8 月 7 日)
- 厚生労働省 こころの耳「ストレス軽減ノウハウ 3 ストレスへの気づき」
- 厚生労働省 こころの耳「ストレス軽減ノウハウ 4 ストレスへの対処」
- 厚生労働省 こころの耳「こころの耳の相談窓口」
- 厚生労働省 あかるい職場応援団「パワーハラスメントとは」
- 厚生労働省 あかるい職場応援団「カスタマーハラスメントとは」
- 厚生労働省 あかるい職場応援団「ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置」
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和 2 年厚生労働省告示第 5 号)
- 厚生労働省 あかるい職場応援団「改正労働施策総合推進法等特設ページ」
- 厚生労働省 あかるい職場応援団「相談窓口のご案内」
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」

