同僚の嫌みがこたえるのは、批判がはっきりした言葉ではなく、遠回しな形で届くからです。「さすが、余裕がありますね」「定時で帰れる人はいいよね」。言い返せば「冗談なのに」と自分が過敏に見え、黙っていると同じ言葉が繰り返されます。
対処は3段で考えます。まず字面どおりに受け取り、仕事の話で返して終わらせます。嫌みの奥に仕事の要望が隠れていそうなら、具体的に聞き返します。同じ嫌みが続くなら、一度だけ、日時と言葉と困っていることをはっきり伝えます。そのうえで、やり取りを業務の経路に寄せて接点を減らします。嫌みが育児休業や短時間勤務の利用、性別や性的な内容に向いている場合は、パワハラとは別の法律と指針の対象になることがあります。
嫌みがこたえる仕組み
否定できる形の批判だから、言い返しにくい
嫌みは、批判の中身を言葉の外に置いた言い方です。「仕事が遅い」とは言わずに「ゆっくりでいいですね」と言うので、言った側は後から「褒めただけ」と言い逃れができます。受けた側が反論すると、中身ではなく受け取り方の問題にすり替わります。言い返しにくいのは、あなたの気が弱いからではなく、そういう形の言葉だからです。
奥に、口にしにくい不満が隠れていることがある
「定時で帰れる人はいいよね」の奥には、自分の仕事量への不満や、分担の偏りへの不満があることも少なくありません。本人が正面から言えない、または言う場がない不満が、近くの人への嫌みとして出てきます。この場合、嫌みを止めても不満は残ります。
反応が、次の嫌みを呼ぶ
言われて顔色が変わる、むきになって説明する、といった反応は、相手にとって「効いた」という手応えになります。逆に、字面どおりに受けて仕事の話に戻ると、嫌みは会話の中で行き場を失います。
文字の嫌みは、読み違いのこともある
チャットやメールの短い文面は、声の調子が乗らないぶん、読む側の不安で冷たく見えることがあります。嫌みだと決める前に、書かれている言葉そのものを読み直します。読み違いを防ぐ確かめ方は、チャットの文面が怒って見えるときの読み方にまとめています。
嫌みの中身で、対応を分ける
同じ嫌みでも、何に向いているかで対応が変わります。
| 向いている先 | 例 | 奥にありそうなもの | 対応の方向 |
|---|---|---|---|
| 仕事ぶり | 「さすが、丁寧すぎて時間がかかりますね」 | 仕事の進め方への要望 | 具体的に聞き返す |
| 働き方・休み方 | 「定時で帰れる人はいいよね」 | 仕事量や分担への不満 | 字面で返し、分担は上司と話す |
| 私生活・外見・持ち物 | 「そんな服で来るんだ」 | 仕事とは関係がない | 返さずに流す。続けば一度伝える |
| 育休・短時間勤務・介護の制度の利用 | 「自分だけ短時間勤務なんて、周りを考えていない」 | ― | 記録して相談する |
| 性的な内容・性別 | 性的な冗談やからかい | ― | 記録して相談する |
1人で抱えず相談に進む目安
次のどれかに当てはまるなら、返し方の工夫より、記録と相談を先にします。
- 同じ相手から、週に何度も続いている
- ほかの人の前で言われる、または複数人から言われる
- 嫌みの後に、仕事を外される・情報が回ってこないといった扱いが続いている
- 相手が、自分の仕事に欠かせない知識や経験を持っていて、協力を断られると仕事が進まない
- 制度の利用、性別、性的な内容に向いている
受け流し方と、線の引き方
1. 字面どおりに受けて、仕事の話で返す
嫌みの裏の意味には応じず、表の言葉にだけ短く応じて、次の用件に移ります。
| 言われたこと | 裏の意味に応じた返し | 字面で受ける返し |
|---|---|---|
| 「さすが、余裕がありますね」 | 「余裕なんてありませんよ」 | 「ありがとうございます。では〇〇の件、進めておきます」 |
| 「定時で帰れる人はいいよね」 | 「私だって大変なんです」 | 「今日の分は終わっています。お先に失礼します」 |
| 「新人さんは気楽でいいね」 | 「そんなことないです」 | 「覚えることが多いので、また教えてください」 |
言い訳や説明を足すほど、相手に言葉を返す足場を渡すことになります。一言で終えるのがこつです。
2. 仕事への要望が隠れていそうなら、具体的に聞き返す
仕事ぶりへの嫌みなら、中身を確かめる質問で返します。
時間がかかっていて、困らせていることがあれば教えてください。いつまでに、どこまであれば助かりますか。
具体的な要望が出てくれば、嫌みは仕事の打ち合わせに変わります。何も出てこなければ、それ以上付き合う必要はありません。どちらに転んでも、自分が責められる形にはなりません。
3. 続くなら、一度だけ、1対1で伝える
同じ嫌みが続くときは、その場ではなく、後で1対1の場を作り、事実・困っていること・お願いの順に一度だけ伝えます。
先週の会議と昨日の朝に、「定時で帰れる人はいいよね」と言われました。周りの人の前で言われると、仕事を放り出していると受け取られそうで困っています。仕事の分担で気になることがあれば、直接言ってもらえますか。
相手の人柄や意図は話題にしません。「嫌みを言わないで」ではなく、「気になることは直接言ってほしい」と、代わりにしてほしいことを添えます。伝えた日時と内容は、自分のメモに残しておきます。やめてほしいと伝えた後も続いたかどうかは、相談するときの大事な事実になります。
4. やり取りを、業務の経路に寄せる
嫌みの多くは、雑談や立ち話のような、記録が残らず周りに人が少ない場面で出ます。仕事の依頼や確認はチャットや共有の場で行い、1対1の立ち話を減らします。休憩の時間や場所を少しずらすだけでも、接点は減ります。
ただし、業務の連絡まで細らせないようにします。挨拶と必要な連絡は普段どおりに続け、距離を置くのは雑談の場だけにします。
5. 分担の不満が背景なら、上司と仕組みの話をする
「定時で帰れていいね」のような働き方への嫌みが続き、実際に仕事の偏りがあるなら、嫌みを言う人ではなく上司に、分担の見直しとして相談します。個人の言い合いではなく、仕事の量と担当を見える形にする話にすると、相手の不満の元も小さくなります。
実行するときの落とし穴
嫌みで返す
気の利いた皮肉で返すと、その場はすっきりしても、周りからは言い合いに見えます。自分の記録の信頼性も下がります。
周りに言って回る
嫌みを言われたことを同僚に話して回ると、今度は自分が悪口を広める側になります。話すなら、相談窓口や上司のように、状況を変えられる人にします。悪口の輪との距離の取り方は、職場の愚痴や悪口から距離を取る方法で扱っています。
「一度だけ伝える」を、人前で何度もする
人前で指摘すると、相手は引くに引けなくなります。伝えるのは1対1で一度だけにして、それでも続くなら上司や窓口に移ります。
相手の意図を決めつける
嫌みに聞こえた言葉が、実は不器用な冗談や本当の褒め言葉だったということもあります。意図を決めつけて伝えると、話がこじれます。伝えるのは言葉と自分が困っていることだけにします。
記録の取り方を自己流にする
相談に使う記録は、日時・場面・言葉どおりの発言・仕事への影響を1行ずつ残します。仕事への影響の書き方は、職場のマウントを記録で扱う手順で表の形にしています。
ハラスメントに当たりうるときと相談先
同僚からの嫌みでも、パワハラになりうる場合
厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)は、パワハラの要素の1つである「優越的な関係」に、同僚や部下による言動で、その人が業務上必要な知識や豊富な経験を持っていて協力を得なければ仕事が円滑に進まないもの、同僚や部下の集団による行為で抵抗や拒絶が難しいものも含めています。判断では、言動の態様・頻度・継続性なども総合的に考慮するとされています。
制度の利用に向く嫌みは、別の指針の対象
妊娠・出産・育児休業・介護休業などの制度の利用に関する言動は、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法にもとづく指針の対象です。厚生労働省・都道府県労働局のパンフレット(令和4年1月作成)は、同僚も行為者になりうるとし、典型的な例として、上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ」と繰り返しまたは継続的に言い、就業する上で看過できない程度の支障が生じている場合を挙げています。この例には、意に反することを明示した後に、さらに行われる言動も含むと添えられています。やめてほしいと一度伝えておくことが、ここでも意味を持ちます。
性的な冗談やからかいは、セクハラの対象
男女雇用機会均等法第11条は、職場の性的な言動により就業環境が害されることのないよう、事業主に措置を義務付けています。同じパンフレットは、性的な言動の例に「性的な冗談やからかい」を挙げ、同僚も行為者になりうること、異性に対するものだけでなく同性に対するものも該当することを示しています。
相談できる窓口
- 社内のハラスメント相談窓口・人事部門:パワハラ・セクハラ・育児休業等に関するハラスメントの相談に応じる体制は、事業主の義務です
- 総合労働相談コーナー:各都道府県労働局や労働基準監督署の中にあり、無料・予約不要で相談できます
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):社内で進まないときの助言・指導や調停
- こころの耳(厚生労働省):眠れない、職場に向かうと体調が崩れるといった状態が続くときの相談窓口の案内
窓口の使い分けは、社内の窓口と外部の相談先の使い分けで詳しく整理しています。職場の人間関係と距離の取り方は、対人関係・調整の記事の一覧から探せます。
参考資料
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号、PDF)
- 厚生労働省・都道府県労働局「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」(令和4年1月作成)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「令和7年の労働施策総合推進法等の一部改正について」



