睡眠不足で仕事の質が落ちるのは、気合いや根性の問題ではありません。厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」(2024 年 2 月)は、睡眠不足が日中の眠気や疲労に加え、注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下を招き、事故などの重大な結果につながる場合もあるとしています。
同じガイドは、成人について「6 時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」ことを推奨しています。やることは、睡眠を「仕事が終わって余った時間」ではなく先に予定に入れる時間として扱い、起床時刻を固定して逆算し、休日の寝だめに頼らないことです。1〜2 週間試しても眠れない、休めた感じがしない、日中の眠気が強いといった状態が続くなら、医療機関に相談する目安です。長時間労働が原因なら、個人の工夫ではなく働き方の問題として会社に相談します。
睡眠不足で仕事の質が落ちる仕組み
眠気と判断力の低下が、ミスとして出てくる
ガイドは、睡眠不足の影響として、日中の眠気や疲労、頭痛などの心身の不調、情動の不安定さ、注意力や判断力の低下による作業効率の低下を挙げています。仕事の場面に置き換えると、確認の見落とし、同じ説明を何度も読み返す、いつもならしない言い方で相手とぶつかる、といった形で表れます。
睡眠の問題が慢性化すると、肥満、高血圧、2 型糖尿病、心疾患や脳血管障害の発症リスクの上昇などに関連することも、ガイドに書かれています。うつ病などの精神疾患では早い段階から睡眠の問題が出ること、睡眠の問題そのものが精神障害の発症リスクを高めるという報告があることにも触れています。
働く時間が長いほど、睡眠は削られる
睡眠不足は、多くの場合、本人の生活習慣だけでなく働く時間の長さと結び付いています。ガイドのコラムでは、1 日の労働時間が 7 時間以上 9 時間未満の人に比べて、睡眠時間が 6 時間未満になるリスクが、男性では 9 時間以上で 2.76 倍、11 時間以上で 8.62 倍になるという国内の研究を紹介しています(女性は 2.71 倍、5.59 倍)。退勤から次の出勤までの間隔が 12 時間未満の人は、睡眠で休めた感覚が欠け、疲労感やストレスを強く感じているという調査も紹介されています。
ガイドによれば、令和元年国民健康・栄養調査で、20〜59 歳の各世代では睡眠時間が 6 時間未満の人が約 35〜50%を占めています。睡眠不足は、一部の人の特別な悩みではありません。
休日の寝だめでは取り戻せない
平日の不足を休日にまとめて寝て取り戻そうとしても、ガイドは「実際には眠りを『ためる』ことはできません」としています。休日に長く寝ないと持たないのは平日の睡眠が足りていないサインで、休日の起床時刻が大きく遅れると体内時計がずれる「社会的時差ボケ」が起き、健康を損なうおそれがあるとされています。
自分の状態を確かめる
まず、次の項目に当てはまるかを見ます。
- 平日の睡眠時間が 6 時間未満の日が続いている
- 休日に長く寝ないと、平日を乗り切れない
- 朝起きたときに、眠って休めた感じがしない
- 会議中や運転中など、眠ってはいけない場面で強い眠気がくる
- 夕方以降にコーヒーやエナジードリンクを飲む、寝る前にお酒を飲む、寝床でスマートフォンを見る
- 退勤から次の出勤までが 12 時間に満たない日がある
- 時間外・休日労働が月 80 時間を超え、疲れが抜けない
当てはまる項目が多いほど、睡眠を先に確保する必要があります。最後の 2 つは、個人の工夫だけでは解決しにくい項目です。
1 週間の記録を付ける。ガイドは、まず自分の睡眠の状態を 1 週間記録することを勧め、そのとき寝床に入っている時間と実際に眠っている時間を分けて書くことを要点に挙げています。あわせて、朝起きたときに眠って休めた感じがあったか(睡眠休養感)も書いておくと、ガイドが示す 2 つの物差し(量と質)がそろいます。数字にすると、平日と休日の差や、仕事の忙しさと睡眠時間の関係が見えます。
疲れのたまり具合は、厚生労働省の「こころの耳」で「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト(2023 年改正版)」を使って確かめられます。2023 年の改正で、睡眠や勤務間インターバルに関する項目が加わっています。
睡眠時間を先に確保する手順
1. 起床時刻を固定して、寝る時刻を逆算する
平日と休日で同じ起床時刻を決めます。そこから 6 時間以上の睡眠と、寝床に入ってから眠るまでの時間を引いて、寝床に入る時刻を決めます。起床時刻から決めるのは、寝る時刻はその日の仕事に押されやすく、起きる時刻のほうが守りやすいからです。
2. 寝る時刻の前に、仕事を終える時刻を決める
寝る時刻を決めても、仕事の連絡が続けば守れません。夜に届いた連絡を翌朝に回してよいものと、すぐ対応が要るものに分け、通知を止める時刻を決めます。送る側・受ける側の線引きは、休日の仕事連絡の扱い方で整理しています。
3. 夜の過ごし方を見直す
ガイドの参考情報から、仕事をしている人が取り入れやすいものを挙げます。
| 見直すこと | ガイドに書かれていること |
|---|---|
| カフェイン | 1 日の摂取量が 400mg(ドリップコーヒーでカップ 4 杯、約 700cc)を超えないようにし、夕方以降は控える |
| お酒 | 晩酌での深酒や、眠るために飲む寝酒は、睡眠の質を悪化させる可能性がある |
| たばこ | ニコチンを含むものは、睡眠の質を悪化させる可能性がある |
| 光 | 起床後に朝日を浴び、日中はできるだけ日光を浴びる。寝室にはスマートフォンやタブレットを持ち込まず、できるだけ暗くして寝る |
| 入浴 | 就寝の約 1〜2 時間前に入浴して体を温めてから寝床に入ると、寝つきやすくなる |
| 寝つけないとき | 無理に眠ろうとせず、いったん寝床を離れ、眠気が来てから戻る |
4. 働く時間そのものが原因なら、会社に相談する
睡眠が削られている原因が長時間労働なら、個人の工夫で吸収し続けることはできません。労働安全衛生法にもとづき、時間外・休日労働が月 80 時間を超え、疲労の蓄積が認められる人は、本人が申し出れば医師による面接指導を受けられます。退勤から次の出勤までに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」制度は、企業の努力義務とされています。まずは上司や人事、産業医に、記録した睡眠時間と労働時間を持って相談します。
受診と相談の目安
ガイドは、ここまでのような見直しをしても、十分な時間眠れない、睡眠で休養感が得られない、日中の眠気が強いといった状態が続き、日中の生活に影響しているときは、速やかに医師に相談するよう勧めています。睡眠の病気が隠れていることがあるためです。いびきが大きく頻繁な場合や、眠っている間に呼吸が止まっていると言われた場合も、医師に相談する目安として挙げられています。
眠れない状態に加えて、気分の落ち込みや意欲の低下が続いているときは、仕事の工夫より先に相談を優先してください。
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| かかりつけ医・睡眠を診る医療機関 | 不眠、日中の強い眠気、いびきや呼吸の停止など |
| 会社の産業医・保健師 | 長時間労働による疲れ、面接指導の申し出、働き方の調整 |
| こころの耳(厚生労働省) | 働く人と家族向けの無料・匿名の相談。電話は平日 17〜22 時と土日 10〜16 時、LINE の SNS 相談、メールは 24 時間受け付けて 1 週間以内に回答 |
| 総合労働相談コーナー(都道府県労働局など) | 長時間労働や休息が取れない働かせ方についての相談 |
気持ちの面で意欲が戻らないときの切り分けは仕事のやる気が出ない原因で、社内に話せる人がいないときの相談先の選び方は職場に相談できる人がいないときで扱っています。
実行するときの落とし穴
休日の寝だめで帳尻を合わせる。前に書いたとおり、ガイドは眠りをためることはできないとしています。休日も起床時刻をそろえ、平日の睡眠時間を増やすほうを先にします。
眠気をカフェインで消し続ける。一時的に眠気は減っても、夕方以降の摂取や 1 日 400mg を超える摂取は、その夜の睡眠を浅くする可能性があります。眠気は、睡眠が足りていないという知らせとして扱います。
寝つくためにお酒を飲む。寝酒は、寝つきをよくするように感じても、睡眠の質を悪化させる可能性があるとされています。
睡眠不足のまま大きな判断をする。転職や退職のような判断を、寝不足の週に決めると、今の職場の悪い面ばかりが目に入ります。比べ方は隣の芝生が青く見えるときの比べ方で整理しています。
仕事の量の問題を、自分の睡眠で吸収し続ける。睡眠を削って締め切りに間に合わせることが続くなら、足りないのは睡眠の工夫ではなく、人手や期限の見直しです。記録を持って相談することが、個人でできる最も確実な一歩です。
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