休んでも疲れが抜けず、以前は気にかけていた仕事や相手のことが、どうでもよく感じられる。こうした状態は「バーンアウト(燃え尽き症候群)」と呼ばれます。世界保健機関(WHO)は、国際疾病分類の第 11 版(ICD-11)でバーンアウトを QD85 として載せていますが、その位置づけは病気(medical condition)ではなく「職業上の現象」です。うまく対処されないまま続いた職場の慢性的なストレスから生じる状態、と説明されています。
ここから分かることは 2 つあります。1 つは、燃え尽きは本人の弱さではなく、職場のストレスとの関係で起きるものとして扱われていること。もう 1 つは、「燃え尽き症候群」という言葉が診断の代わりにならないことです。ICD-11 は、気分障害や不安・恐怖関連症、適応障害などを、バーンアウトとは別のものとして分類しています。眠れない、食欲がない、気分の落ち込みが続くといった状態があるなら、自分で名前を付けるより先に医師に相談するのが順番です。
この記事では、サインの確かめ方、休む・受診する・相談するの判断の目安、休んでいる間の収入を支える傷病手当金の条件を、一次資料にもとづいて整理します。この記事は診断に代わるものではありません。
バーンアウトはどういう状態か
ICD-11 が挙げる 3 つの側面
ICD-11 は、バーンアウトを次の 3 つの側面で特徴づけています。右の列は仕事の場面に置き換えた例で、ICD-11 の文言ではありません。
| 側面 | ICD-11 の説明(要約) | 仕事の場面での表れ方の例 |
|---|---|---|
| 1. 消耗 | エネルギーが尽きた、疲れ果てたという感覚 | 休日に休んでも、月曜の朝から疲れている |
| 2. 仕事との心の距離 | 仕事から心理的に距離を置く、仕事に否定的・冷笑的な気持ちになる | 顧客や同僚のことを「どうでもいい」と感じる。仕事の話題を避ける |
| 3. 効力感の低下 | 自分は役に立っていない、やり遂げた感じがしない | 何をしても成果につながらない気がする |
ICD-11 は、この言葉を職業上の文脈に限って使い、生活のほかの場面の経験には当てはめないとしています。家事や介護、勉強での消耗は、同じ「燃え尽き」という言葉で語られることがあっても、この分類の対象ではありません。
「慢性的」で「対処されないまま」がポイント
定義の中心は、職場のストレスが慢性的に続き、うまく対処されていないことです。忙しい 1 週間のあとにぐったりするのは、それだけではバーンアウトとは言えません。問題は、負荷が下がる見込みがないまま、回復の機会もなく続いていることです。
厚生労働省の「こころの耳」は、「よく眠れない」「イライラすることが多くなった」といったストレスのサインを放っておくと、治療が必要なストレス性の疾患に移ることがあるとして、サインに気づいた時点で相談や対処をすることを勧めています。
働く人の 3 分の 2 が強いストレスを抱えている
厚生労働省「令和 7 年 労働安全衛生調査(実態調査)」(2026 年 8 月公表)では、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある労働者は 67.5%でした(前年の調査は 68.3%)。
| ストレスの内容(主なもの 3 つ以内) | 割合 |
|---|---|
| 仕事の量 | 39.5% |
| 仕事の失敗、責任の発生等 | 39.5% |
| 対人関係(セクハラ・パワハラを含む) | 32.9% |
| 仕事の質 | 30.7% |
割合は、強いストレスと感じる事柄がある労働者を 100 としたものです。年齢別では、20〜29 歳が 72.0%、40〜49 歳が 71.5%と、全体より高くなっています。強いストレスを抱えながら働くこと自体は珍しくありません。だからこそ、どこからが休む・相談する段階なのかを、気分ではなく目安で決めておく必要があります。
自分の状態を確かめる
こころの不調のサイン
こころの耳は、こころの不調としてのストレスサインとして、主に次のものを挙げています。
- 不安感、イライラ感、緊張感
- 無力感、やる気が出ない
- 食欲がなくなる、やせてきた
- 寝つきが悪い、朝早く目が覚める
- 動悸がする、血圧が上がる、手や足の裏に汗をかく
- 消極的になる、周囲との交流をさけるようになる
- 飲酒、喫煙量がふえる
- 身だしなみがだらしなくなる、落ち着きがない
こころの耳は、これらの症状が 2 週間以上続く場合は「うつ」が疑われるとして、精神科や心療内科など専門家に早めに相談することを勧めています。
「食う・寝る・遊ぶ」ができているか
こころの耳は、疲労の回復を支える働きとして、食事を楽しめること(食う)、よく眠れること(寝る)、興味・関心のあることを楽しめること(遊ぶ)の 3 つを挙げています。調子が悪くなると、本来は「したくなる」はずのこの 3 つが「やらなければならないこと」に感じられてくるため、自分が「したい」と思ってできているかを定期的に確かめると、自分の状態に気づきやすくなるとしています。
休日に趣味へ手が伸びない、食事が作業になっている、という変化は、仕事の場面より先に表れることがあります。
2 つのセルフチェックを使う
数字で確かめたいときは、こころの耳の 2 つのチェックが使えます。どちらも診断ではなく、自分の状態を把握するための道具です。
| チェック | 内容 |
|---|---|
| 働く人の疲労蓄積度セルフチェック 2023 | 最近 1 か月の自覚症状と勤務の状況を 27 問で確かめる。厚生労働省「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト(2023 年改正版)」にもとづく |
| 5 分でできる職場のストレスセルフチェック | 仕事・最近 1 か月の状態・周りの人・満足度の 57 問で、職場でのストレスの度合いを見る。厚生労働省「職業性ストレス簡易調査票」のフィードバックプログラムにもとづく |
結果は、医師や産業医に相談するときの材料にもなります。
休む・受診する・相談するの判断の目安
ここまでのサインと、休日に回復するかどうかを合わせて、次の順で判断します。
| いまの状態 | 次にすること |
|---|---|
| 忙しい時期に疲れるが、休日に休めば戻る | 業務の量や期限を、数字を持って上司と相談する |
| 休日に休んでも疲れが戻らない日が続く。食う・寝る・遊ぶのどれかが崩れている | 会社の産業医・保健師、またはかかりつけ医に相談する |
| こころの不調のサインが 2 週間以上続いている | 精神科・心療内科など専門家に早めに相談する |
| 医師から仕事を休むよう勧められた | 勧めに従い、休み方を会社と相談する |
| 消えてしまいたい、死にたいという気持ちがある | 期間に関係なく、すぐに医療機関や相談窓口に連絡する |
最初の段階での業務量の相談の仕方は、仕事のやる気が出ない原因で、量と責任を分けて数字で伝える形を整理しています。睡眠が削られている場合は、睡眠不足で仕事の質が落ちるときの手順から始めてください。
医師に休むよう勧められたら
こころの耳の職場復帰のガイダンスは、メンタルヘルス不調からの回復には、心身の休養が専門家による治療と並んで非常に大切だとしています。そのうえで、次のことを書いています。
- 無理をして勤務を続けたために病状がひどくなり、回復に時間がかかってしまうことは非常に多い。主治医から休んで治療するよう勧められたら、従うのが賢明である
- メンタルヘルス不調は多くの場合、集中力や判断力の低下をもたらす。迷惑をかけられないと仕事を続けても成果は上がりにくく、ミスが増えることもある
- 休業に入ったら仕事から気持ちを切り離して休む。復帰のタイミングは自分の判断だけで進めず、主治医とよく相談する
- 必要な休養期間が半年から 1 年以上に及ぶことも稀ではない
「あと少しで繁忙期が終わるから」と休みを先送りしたくなるときほど、この 2 点目を思い出してください。
休む手段を確かめる
休むと決めたら、使える手段を順に確かめます。
- 年次有給休暇:残りの日数を確かめる
- 会社の休職制度:休職できる期間、手続き、休職中の給与の扱いは、会社の就業規則で確かめる。人事や上司に、どの書類(医師の診断書など)が要るかを聞く
- 傷病手当金:給与が出ない期間の収入を支える健康保険の給付(次の章)
- 長時間労働が背景にある場合:労働安全衛生法にもとづき、長時間の労働で疲労が蓄積した人は、本人の申し出により医師の面接指導を受けられます。労働者数 50 人未満の事業場で働く人は、地域産業保健センター(地さんぽ)の無料の健康相談も使えます(事前の申し込みが必要)
休んでいる間の収入:傷病手当金
会社の健康保険に加入している人が、業務外の病気やけがで仕事を休み、給与が十分に受けられないときに支給されるのが傷病手当金です。以下は全国健康保険協会(協会けんぽ)の説明です。健康保険組合や共済組合に加入している人は、加入先で確かめてください。
受けられる条件
次の 4 つをすべて満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 1. 業務外の病気やけがの療養のための休業 | 自宅療養の期間も対象。仕事や通勤が原因のもの(労災保険の対象)は対象外 |
| 2. 仕事に就くことができない | 療養担当者(医師など)の意見をもとに、本人の仕事の内容を考えて判断される |
| 3. 連続する 3 日間を含み 4 日以上仕事に就けなかった | 連続 3 日間の「待期」のあと、4 日目以降に支給。待期には有給休暇や土日・祝日などの公休日も含まれる |
| 4. 休業した期間に給与の支払いがない | 給与が出ていても傷病手当金の額より少なければ、差額が支給される |
「燃え尽き症候群かどうか」が条件になっているわけではありません。見られるのは、医師などの意見にもとづいて仕事に就くことができない状態かどうかです。
期間と金額
- 支給期間:支給を開始した日から通算して 1 年 6 か月
- 1 日あたりの額:支給開始日以前の継続した 12 か月の標準報酬月額を平均した額の 30 分の 1 の、3 分の 2 が目安です。協会けんぽの計算例では、標準報酬月額の平均が 17 万円の場合、17 万円 ÷ 30 ≒ 5,670 円、その 3 分の 2 で 1 日あたり 3,780 円になります
- 加入期間が 12 か月に満たない場合は、別の計算方法になります
退職する場合
退職日の前日までに被保険者期間が継続して 1 年以上あり、退職日の前日に傷病手当金を受けているか、受けられる状態(上の条件 1〜3 を満たす)であれば、退職後も引き続き受けられます。ただし、いったん仕事に就ける状態になると、その後また仕事に就けなくなっても支給されません。退職を考えている人は、退職日を決める前に加入先の健康保険に確かめてください。退職後の健康保険や年金の手続きは、退職したあとの手続きにまとめています。
仕事が原因の場合
業務上の病気は労災保険の対象です。厚生労働省のハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」は、職場のハラスメントによる強いストレスでうつ病などの精神障害を発症した場合、認定の条件を満たせば労災補償の対象になることがある、としています。長時間労働やハラスメントが背景にあるときは、労働基準監督署などに相談してください。
退職を決めるのは、体調が戻ってから
燃え尽きた状態では、「この職場を離れれば楽になる」という考えが強くなりがちです。しかし前に書いたとおり、メンタルヘルス不調は集中力や判断力の低下をもたらします。退職のような取り消しにくい判断は、休養と治療で体調が戻ってから、主治医や産業医の意見も聞いて行うほうが安全です。
退職そのものが誤りなのではありません。順番の問題です。休んでいる間に、業務の量・責任の範囲・人間関係のどれが重かったのかを書き出しておくと、戻るにしても移るにしても、同じ条件を繰り返さないための材料になります。
読み違えやすい点
「病気ではないから受診しなくてよい」と考える。ICD-11 がバーンアウトを病気に分類していないのは、言葉の位置づけの話です。似た状態に見えて、別の病気が隠れていることがあります。こころの不調のサインが 2 週間以上続くなら、受診する目安です。
自分で「燃え尽き症候群」と決めて、それで説明を終える。名前を付けると安心することがありますが、必要なのは名前より、休むか、負荷を下げるか、受診するかの判断です。
休めばすぐ戻ると考えて、短い休みを繰り返す。こころの耳は、休養期間が半年から 1 年以上に及ぶことも稀ではないとしています。焦って復帰して再び休むことになると、結果として働けない期間が長くなることもある、としています。
一人で抱え込む。同じ労働安全衛生調査では、仕事や職業生活のストレスを相談できる人がいる労働者は 94.8%でしたが、そのうち実際に相談したことがある人は 71.2%でした。相談できる相手がいても、使っていない人が一定数います。
相談先
| 相談先 | 向いている内容 |
|---|---|
| 会社の産業医・保健師、人事 | 業務量や働き方の調整、休職の手続き、長時間労働の面接指導の申し出 |
| 地域産業保健センター(地さんぽ) | 労働者数 50 人未満の事業場で働く人の健康相談(無料・事前申し込み) |
| 医療機関(精神科・心療内科、かかりつけ医) | こころの不調のサインが続く、眠れない、食欲がない。こころの耳の「全国医療機関検索」で探せる |
| こころの耳 電話相談(0120-565-455) | 匿名・無料。平日 17〜22 時、土日 10〜16 時(祝日・年末年始を除く) |
| こころの耳 SNS 相談・メール相談 | 文字で相談したいとき。メールは 24 時間受け付け、1 週間以内に返信 |
| 総合労働相談コーナー(都道府県労働局・労働基準監督署内など) | 長時間労働、休職の扱い、ハラスメントなど労働条件の問題。予約不要・無料 |
| 加入している健康保険(協会けんぽの支部など) | 傷病手当金の申請と条件 |
社内に話せる人がいない場合の相談先の選び方は、職場に相談できる人がいないときで整理しています。つらい気持ちが強いときは、こころの耳の「つらい気持ちを抱えている方へ」のページにも相談窓口がまとめられています。
まとめ
- バーンアウトは、ICD-11 で「職業上の現象」とされ、病気としては分類されていない。消耗、仕事との心の距離、効力感の低下の 3 つが特徴
- 「燃え尽き症候群」は診断の代わりにならない。こころの不調のサインが 2 週間以上続くなら、精神科・心療内科など専門家に相談する
- 休日に回復するか、食う・寝る・遊ぶができているかで、自分の段階を確かめる
- 医師に休むよう勧められたら従い、有給休暇・休職制度・傷病手当金を順に確かめる
- 退職のような大きな判断は、体調が戻ってから、主治医や産業医の意見も聞いて行う
心と体の消耗を防ぐほかの記事は、メンタル・自己管理の一覧から探せます。
参考資料
- WHO「Burn-out an “occupational phenomenon”: International Classification of Diseases」(2019 年 5 月 28 日)
- WHO「ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics」QD85 Burnout
- 厚生労働省「令和 7 年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」個人調査(2026 年 8 月 7 日)
- 厚生労働省 こころの耳「ストレス軽減ノウハウ 3 ストレスへの気づき」
- 厚生労働省 こころの耳「ストレス対処法としての生活習慣 - 食う・寝る・遊ぶの充電法」
- 厚生労働省 こころの耳「働く人の疲労蓄積度セルフチェック 2023(働く人用)」
- 厚生労働省 こころの耳「5 分でできる職場のストレスセルフチェック」
- 厚生労働省 こころの耳「職場復帰のガイダンス(働く方へ)1 メンタルヘルス不調の治療と休業」
- 厚生労働省 こころの耳「こころの耳の相談窓口」
- 厚生労働省 こころの耳「地域産業保健センター(地さんぽ)」
- 厚生労働省 こころの耳「つらい気持ちを抱えている方へ」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」
- 厚生労働省 あかるい職場応援団「相談窓口のご案内」
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」

