社内の「コンプライアンス窓口」にパワハラを相談するときは、まず会社の窓口が2種類の法律にもとづいて別々に置かれていることを知っておくと迷いが減ります。1つは労働施策総合推進法にもとづくハラスメントの相談窓口、もう1つは公益通報者保護法にもとづく内部通報(公益通報)の窓口です。

消費者庁は、パワハラそのものは原則として公益通報の対象に当たらないとしています。つまりパワハラの相談は、どちらの名前の窓口に出しても、ハラスメント相談として扱われるのが基本です。社内で話が進まないときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に、無料で助言・指導や調停を求められます。以下、窓口の役割と限界、相談の前に決めておくこと、社外の相談先の使い分けを順に整理します。

「窓口に相談しても解決しない」と感じる理由

窓口を使う人が少なく、期待もされていない

厚生労働省の委託調査「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(2024年公表)では、過去3年間にパワハラを受けた人のうち、その後「何もしなかった」人が36.9%で最も多く、「社内の相談窓口に相談した」人は4.5%でした。何もしなかった理由で最も多いのは「何をしても解決にならないと思ったから」(65.6%)、次いで「職務上不利益が生じると思ったから」(20.7%)です。

同じ調査で、勤務先がパワハラを知っていたと答えた人にその後の対応を尋ねると、「特に何もしなかった」が53.2%で最も多く、会社がハラスメントと認めたかどうかについても「あったともなかったとも判断せずあいまいなままだった」(61.4%)が最多でした。一方で、勤務先の取り組みへの評価が高い人ほど、上司や同僚に相談した割合が高く、「何もしなかった」割合は低くなっています。窓口が働くかどうかは、会社ごとの仕組みで大きく変わります。

窓口は代理人ではなく、事実を確かめて措置をとる係

厚生労働省のパワハラ防止の指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年)が事業主に求めているのは、次のようなことです。

  • 相談窓口をあらかじめ定めて周知する。該当するか微妙な段階の相談にも広く応じる
  • 相談があれば、相談者と行為者の双方から事実関係を確かめる。主張が食い違えば第三者からも聞く
  • パワハラが確認できたら、被害者への配慮(配置転換など)と行為者への措置(懲戒など)を行う
  • 相談者と行為者のプライバシーを守り、相談したことを理由に不利益な扱いをしない旨を定めて周知する

窓口は、相談者の側に立って相手と交渉する代理人ではありません。双方の言い分を聞いて、会社としての判断と措置を出す係です。「話したのに動いてくれない」と感じる場面の多くは、この役割の違いと、言い分がぶつかったときの裏づけの不足から起きます。

2つの窓口は、根拠の法律も扱う中身も違う

見るところハラスメント相談窓口内部通報(公益通報)窓口
根拠の法律労働施策総合推進法(パワハラ)、男女雇用機会均等法(セクハラ)など公益通報者保護法
設置すべての事業主の義務(中小企業も2022年4月から)常時使用する労働者が301人以上の事業者は義務、300人以下は努力義務
扱う中身パワハラ・セクハラなど通報対象となる法律(2026年6月1日現在で509本)の、刑事罰や過料につながる違反
相談者の保護相談したことを理由とする解雇その他の不利益な扱いの禁止通報を理由とする不利益な扱いの禁止、担当者(従事者)の守秘義務

消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」(2026年5月29日時点)は、パワハラとセクハラは法律に規定があるものの、犯罪行為や過料の対象行為とはされていないため、通報対象の事実に当たらないとしています。ただし、暴行や脅迫に当たるパワハラ、不同意わいせつに当たるセクハラの通報は、公益通報に当たり得る例として挙げられています。残業代の不払いや安全対策の不備のように、労働基準法や労働安全衛生法の違反が絡む話も、通報対象の法律に含まれます。

相談の中身ごとの行き先

相談の中身最初の相談先そこでできること
暴言、長時間の叱責の繰り返し、無視など社内のハラスメント相談窓口、人事部門事実確認、配置や担当の変更、行為者への措置
殴られた、物を投げられた、脅された社内窓口に加えて内部通報窓口。警察への相談も選択肢刑法に当たる行為は公益通報になり得る
残業代の不払い、安全対策の不備内部通報窓口、労働基準監督署労働基準法・労働安全衛生法の違反の是正
社内で進まない、相談後に不利益を受けた都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)労働局長の助言・指導・勧告、調停
どこへ行けばよいか分からない総合労働相談コーナー相談先の整理と案内
損害賠償や退職条件の交渉弁護士、法テラス法的な手続きの助言と代理
通報が公益通報に当たるか知りたい消費者庁 公益通報者保護制度相談ダイヤル制度の説明と通報先の案内
眠れない、朝に体が動かない産業医、医療機関、こころの耳受診や相談の案内

相談先を内容で分ける考え方は、相談先の選び方と使い分けでキャリアや働き方の相談まで広げて整理しています。

社内の窓口に相談するときの手順

1. 規程を先に読んでおく

就業規則、ハラスメント防止規程、内部通報規程で、次の点を確かめます。

  • 窓口の担当は誰か(人事部門か、社外の弁護士や専門機関に委託した窓口か。指針は外部への委託も認めています)
  • 匿名で相談できるか
  • 調査の流れと、結果が相談者に知らされるか
  • 相談の内容が誰まで共有されるか

2. 何を求めるかを決めてから行く

「話を聞いてほしい」「調査してほしい」「席や担当を離してほしい」「行為者に注意してほしい」。求めることによって窓口の動き方は変わります。調査を望むのか、まずは記録として残してほしいのかも、最初に伝えます。求めることが決まっていないと、窓口は何をすれば相談が終わるのかを判断できません。

3. 記録を時系列の1枚にまとめる

日時、場所、言われたこと、続いた時間、周りにいた人、仕事や体への影響を、時系列で1枚にまとめて持っていきます。記録の取り方そのものは、詰められたときの記録の残し方で項目ごとに書いています。窓口では、この1枚の最後に「求めること」を1行添えると、話が早く進みます。

4. 相談の場で4つのことを確かめる

  • この相談の内容を、誰に、どこまで伝えますか
  • 行為者に伝える前に、私に確認してもらえますか
  • 調査をする場合、いつごろまでに、どんな形で結果を知らせてもらえますか
  • 相談したことで不利益な扱いを受けたと感じたら、どこに伝えればよいですか

5. 相談の後、内容をメールで残す

本日はお時間をいただきありがとうございました。確認のため、お話しした内容をお送りします。 ・相談した内容:〇月〇日から〇月〇日の、〇〇さんの言動について(別紙の時系列のとおり) ・お願いしたこと:事実関係の調査と、担当業務の変更の検討 ・今後の予定:〇月〇日ごろまでに、調査の進め方をご連絡いただく 認識に違いがあればご指摘ください。

これで、相談した日と内容が双方に残ります。期日を過ぎても連絡がなければ、このメールに返信する形で状況を尋ねます。

社内で進まないときの社外の相談先

都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)

労働施策総合推進法にもとづき、パワハラをめぐる労働者と事業主のトラブルについて、労働局長による助言・指導・勧告と、弁護士や学識経験者などの調停委員による調停を行っています。費用は無料で、調停の手続きは非公開です。援助を求めたことや調停を申請したことを理由とする解雇などの不利益な扱いは禁止されています(厚生労働省「職場でのトラブル解決の援助を求める方へ」)。

総合労働相談コーナー

厚生労働省の案内によると、各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内など378か所に置かれ、予約不要・無料で、面談か電話で相談できます。いじめ・嫌がらせ、パワハラを含むあらゆる分野の労働問題が対象です。どこに行けばよいか分からない段階で使えます。

弁護士・法テラス

損害賠償を求めたい、退職の条件を交渉したいなど、法的な手続きを考える段階では弁護士に相談します。費用が心配な場合は、法テラス(日本司法支援センター)が相談窓口の案内をしています。

法令違反が絡むときは行政機関への通報も

罰則のある法令違反なら、処分や勧告の権限を持つ行政機関に通報できます。通報先は消費者庁の「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」で調べられ、分からないときは公益通報者保護制度相談ダイヤルに問い合わせられます。

なお、改正公益通報者保護法が2026年12月1日に施行されます。通報を理由に解雇や懲戒をした者と法人への刑事罰、通報から1年以内の解雇・懲戒は通報を理由としたものと推定する規定が新たに加わり、フリーランスも保護の対象になります。これは公益通報についての規定で、パワハラの相談をした人の保護は、労働施策総合推進法の不利益な扱いの禁止で扱われます。

相談するときの落とし穴

  • 匿名にこだわりすぎる。 事実確認は双方から話を聞く形で進むため、誰の件か分からないと確認が進みにくくなります。匿名にするかどうかは、規程と窓口の説明を聞いてから決めます。
  • 会社の資料を持ち出す。 消費者庁のQ&Aは、通報のために法令や内部規程に反して資料を持ち出した場合、持ち出したこと自体の処分の当否は事案ごとに判断されるとしています。持ち出す前に弁護士に相談します。
  • 先にSNSや社外に公表する。 報道機関などへの通報が保護される要件は、社内や行政機関への通報より厳しく定められています。事実と違う点があれば別のトラブルにもなるため、まず社内か行政機関を使います。
  • 1回の相談で終わったと思う。 連絡の期日を決め、過ぎたら問い合わせます。進まないときは、社外の相談先へ移ります。
  • 体調を後回しにする。 眠れない、食欲が落ちた、朝に体が動かないといった状態が続くなら、相談の準備より先に、産業医や医療機関、こころの耳の相談窓口を使ってください。

相談する前に、上司の言動が指導の範囲なのかを行動で見分けたいときは、部下を潰す上司の言動の見分け方を参考にしてください。ハラスメントや上司との関係についての記事は、対人関係・調整の一覧にまとめています。