在宅勤務やデスクワークが続くと、気づけば一日のほとんどを座って過ごしていることがあります。夕方になると体が重い、肩や腰がこわばる、休日に出かける気力が出ない。運動不足を自覚していても、忙しさを理由に後回しになりがちです。

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」(以下、ガイド)は、成人に対して、歩行かそれと同じくらいの強さの身体活動を 1 日 60 分以上(1 日約 8,000 歩以上) 行うこと、そして 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する ことを推奨しています。同時に、全体の方向性として「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」「今よりも少しでも多く身体を動かす」ことを掲げています。

この記事では、ガイドの数字をもとに、デスクワークの人が仕事の流れを崩さずに体を動かす量を増やす手順を整理します。なお、疲れやすさの原因は運動不足だけとは限りません。この記事は原因の判断や診断の代わりにはならないので、疲れが長く続く場合の相談先も最後にまとめています。

座りすぎと運動不足が問題になる仕組み

デスクワークは「座位行動」の時間になる

ガイドは、座ったり寝ころんだりした状態で、エネルギー消費が 1.5 メッツ以下の、起きている間の行動を「座位行動」と呼んでいます。例として挙がっているのが、デスクワークと、座ったり寝ころんだりしてテレビやスマートフォンを見ることです。メッツは体を動かす強さの単位で、安静に座っている状態が 1 メッツ、歩くのが 3 メッツに当たります。

つまり、仕事中の座り時間と、帰宅後のスマートフォンの時間は、どちらも同じ「座位行動」として数えられます。

日本人は座っている時間が長い

ガイドによると、平成 25 年の国民健康・栄養調査では、平日 1 日の総座位時間が 8 時間以上と答えた人は、男性で 38%、女性で 33%でした。世界 20 か国の比較研究でも、日本人の総座位時間は世界的にみてかなり長いと報告されています。

一方で、歩く量は減っています。令和元年の国民健康・栄養調査では、20 歳以上の 1 日の平均歩数は 6,278 歩(男性 6,793 歩、女性 5,832 歩)で、男女とも年々低下傾向にあります。1 回 30 分以上の運動を週 2 回以上、1 年以上続けている人の割合は 28.7%でした。

座りすぎと運動不足について、ガイドが示していること

ガイドに書かれている内容を、デスクワークの人に関係が深いものに絞って並べます。

ガイドに書かれていること中身
座る時間とリスク34 件のコホート研究のメタ解析で、座位時間が増えるほど死亡リスクが高くなることが報告されている
座りっぱなしを区切る長時間の座位行動をできる限り頻繁に(例えば 30 分ごとに)中断することが、食後血糖値や中性脂肪などのリスク低下に重要だと報告されている
軽い動きでもよい強度を問わず、少しでも体を動かすことが健康によい影響を及ぼすと報告されている
10 分増やす1 日あたり 10 分の身体活動を増やすことで、生活習慣病の発症や死亡のリスクが約 3%低下すると推測されている
働く人への影響身体活動不足と長い座位時間は、2 型糖尿病や運動器障害などの健康リスクを高め、腰痛や肩こり、頭痛につながりやすく、労働生産性にも影響する可能性がある

ガイドの「働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント」は、オフィスワーカーのように座って仕事をする時間が長い職種では、歩数が少なく、身体活動のレベルが低くなる可能性が高いとしています。日本の労働者 490 人を対象に 1 日 1 万歩を目標とした歩行の取り組みを 4 週間行ったところ睡眠の質が改善した、という研究も載っています(比較のための対照群は設けていない研究です)。

体を動かす量を増やす手順

1. まず 1 週間、歩数を記録する

スマートフォンや活動量計の歩数を、1 週間そのまま記録します。増やそうとせず、今の生活のままの数字を見るのが目的です。出社の日と在宅の日、平日と休日で分けて見ると、どの日に動いていないかが分かります。

在宅勤務の日は、通勤がない分、歩数が極端に少なくなっていることがよくあります。記録すると、「運動不足」という漠然とした感覚が、「在宅の日は 2,000 歩しか歩いていない」のような具体的な数字に変わります。

2. 今より 1 日 10 分増やす

目標は、いきなり 8,000 歩ではなく、今より 10 分増やすことから始めます。ガイドは、60 分の歩行が約 6,000 歩に相当するとしています。単純に割ると、10 分の歩行はおよそ 1,000 歩です。

増やし方は、仕事の流れの中に組み込むと続きやすくなります。ガイドも、家事や通勤(自転車・徒歩通勤)で身体活動を増やせること、仕事のすきま時間に体操などで体を動かすのも効果的であることを挙げています。

場面増やし方の例
通勤一駅手前で降りて歩く。駅やビルでは階段を使う
在宅勤務の始業前・終業後通勤の代わりに 10 分歩いてから仕事を始める、終えたら歩く
昼休み昼食を少し離れた場所で買う。食後に 5〜10 分歩く
会議・電話音声だけの打ち合わせや電話は、立って受ける
家事買い物・洗濯・掃除を、体を動かす時間として数える

ガイドの Q&A は、「20 分以上続けなければ効果がない」といった最短の持続時間はなく、短い時間の積み重ねでも効果は得られるとしています。5 分を 2 回でも構いません。

3. 座りっぱなしを 30 分ごとに区切る

歩数を増やすのとは別に、座っている時間を区切ります。ガイドが例として挙げている「30 分ごと」を目安に、立ち上がって少し動きます。

  • 作業の区切り(メールを送った、資料を 1 つ仕上げた)で立ち上がる
  • 飲み物は一度に多く用意せず、取りに行く回数を増やす
  • 画面の前を離れて、印刷物や手元の資料を立って読む
  • タイマーを使う場合は、集中が途切れにくい区切りの時刻に合わせる

区切る動きは、歩かなくても、立って伸びをする程度で構いません。ガイドは、強度を問わず少しでも体を動かすことがよい影響を及ぼすとしています。

4. 慣れてきたら、運動と筋力トレーニングを足す

日常の動きが増えてきたら、ガイドの推奨の残りの部分に手を広げます。成人に対しては、次の 2 つも推奨されています。

  • 息が弾み汗をかく程度の運動を、週 60 分以上
  • 筋力トレーニングを週 2〜3 日(腕立て伏せやスクワットのような、自分の体重を使う運動も含まれる)

ガイドの Q&A は、成人であっても推奨事項を必ず満たす必要はなく、あくまで目安と考えてほしいとしています。できる週とできない週があって当然です。

5. 職場の決まりや環境も使う

ガイドの職場向けの資料は、職場で活動的に過ごすことの意義について共通認識がないと、同僚から「仕事をさぼっている」と勘違いされるかもしれず、個人の努力だけでは難しい面があると指摘しています。

立って行う打ち合わせ、昼休みの体操、階段の利用の呼びかけなど、職場として取り組めることがあれば、上司や衛生委員会、健康管理の担当者に提案してみる価値があります。資料には、オフィスの改装で座っている時間が 1 日約 40 分減り、立つ・歩くといった軽い活動が 1 日約 24 分増えた研究や、昼休みに週 3 回の運動指導を 10 週間行った職場で、活力や対人ストレス、仕事の満足度などが改善した研究も載っています。

読み違えやすい点

8,000 歩に届かないなら意味がないと考える。ガイドは、1 日 10 分増やすだけでもリスクの低下が推測されるとし、推奨はあくまで目安だとしています。届かない日を失敗と数えず、記録した数字が先週より増えたかで見ます。

平日の分を週末の激しい運動で取り戻そうとする。ガイドの安全に関する資料は、普段の活動量が少ない人が急に普段以上の運動をしたときや、強度の高い運動をしたときに、運動に関連した体の不調が起きるリスクが高いとしています。低い強度・短い時間から徐々に進めます。

持病や痛みがあるのに、自己判断で始める。同じ資料は、新しく運動を始めるときは、病気の有無や状態、普段の活動量などを踏まえて判断し、必要に応じて医療機関を受診して運動前の健康チェックを受けることを勧めています。高血圧や糖尿病などで治療中の人は服薬や病状によって注意点が変わり、運動で悪化する腰痛や膝の痛みがある人については、あらかじめ医師に相談してから始めることが挙げられています。当てはまる人は、かかりつけの医師に相談してから始めてください。

疲れやすさを全部、運動不足のせいにする。疲れやすさには、睡眠不足、長時間労働、気分の落ち込みなど、ほかの要因が重なっていることがあります。睡眠時間が足りているかは睡眠不足で仕事の質が落ちるときで、気持ちの面の消耗はバーンアウト(燃え尽き症候群)のサインで確かめられます。

仕事の量の問題を、運動で解決しようとする。座りっぱなしの原因が、休憩もとれないほどの仕事量にあるなら、必要なのは運動の工夫ではなく業務量の調整です。相談の仕方は仕事のやる気が出ない原因で整理しています。

疲れが続くときの確かめ方と相談先

体を動かす工夫をしても疲れやすさが続くときは、一人で原因を決めつけないことが大切です。ガイドの安全に関する資料も、普段からの健康管理として、定期的に健康診断を受け、必要に応じて通院することを挙げています。

確かめ方・相談先内容
健康診断の結果を見直す前回の結果で再検査や受診を勧められた項目がないか確かめる
会社の産業医・保健師疲れやすさ、長時間の座り仕事、働き方についての相談
かかりつけ医などの医療機関疲れが長く続く、ほかの体の不調がある、持病がある
こころの耳「働く人の疲労蓄積度セルフチェック 2023」厚生労働省のサイトで、仕事による疲れのたまり具合を 27 問で確かめられる

こころの耳は、不安感やイライラ、やる気が出ない、食欲がない、眠れないといったこころの不調のサインが 2 週間以上続く場合は、精神科や心療内科など専門家に早めに相談することを勧めています。体の疲れと思っていたものが、こうしたサインと重なっている場合は、運動の工夫より相談を先にしてください。

まとめ

  • ガイドは成人に、歩行と同じくらいの強さの身体活動を 1 日 60 分以上(約 8,000 歩以上)と、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意することを推奨している
  • 平日に 8 時間以上座っている人は男性 38%、女性 33%。座りすぎは珍しいことではない
  • まず 1 週間の歩数を記録し、今より 1 日 10 分(およそ 1,000 歩)増やすところから始める
  • 座りっぱなしは 30 分ごとを目安に区切る。立って伸びをする程度でもよい
  • 急に強い運動を始めない。持病や痛みがあるときは医師に相談し、疲れが続くときは健診結果の見直しと相談を先にする

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参考資料