職場のマウントで限界を感じるのは、1回ずつは小さな比較の言葉と、仕事に支障が出ている言動とが混ざったまま、区別されずに溜まっていくからです。どれも「気にしすぎ」で片付けられそうで相談できず、気づいたときには出勤前から気が重くなっています。

対処の出発点は、この2つを分けることです。比較の言葉には乗らずに短く返して終わらせ、仕事への影響が出ているものだけを日付つきで記録します。記録がたまったら、相手の人柄ではなく「業務の支障」として上司や相談窓口に出します。同僚からのマウントでも、相手が仕事に欠かせない知識を握っている場合や、複数人で行われる場合は、厚生労働省の指針でパワハラの「優越的な関係」に含まれうるとされています。

マウントで消耗していく仕組み

比較の言葉は、1回ずつは相談しにくい

ここでいうマウントは、経歴・知識・忙しさ・持ち物などを比べて、自分を相手より上に置く言動のことです。「その資格、私は3年目で取ったよ」「私が新人のころはもっと大変だった」といった言葉は、1回だけなら悪意があるとも言い切れず、誰かに相談するほどのことでもないように思えます。

ところが、同じ相手から週に何度も続くと、受ける側の負担は積み上がります。1回が小さいぶん、件数も影響も見えないまま増えていくのが、限界まで我慢してしまう理由です。

言い返すと「お互いさま」になる

比較に比較で返したり、感情的に反論したりすると、周りからは2人の相性の問題に見えます。上司に相談しても「うまくやって」で終わりやすく、本来は仕事の問題として扱うべき部分まで、人間関係のもめごととして処理されてしまいます。

評価の基準が見えない職場ほど、比較が効く

何ができれば評価されるのかが文字になっていない職場では、人前での比較が評価の代わりに働きます。知識や手順が一部の人の頭の中にしかない職場では、その人の言葉に逆らいにくくなります。マウントの多さは、個人の性格だけでなく、評価の基準と仕事の手順が共有されていないことの表れでもあります。

厚生労働省の委託調査「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(2024年公表)は、マウントそのものを数えた調査ではありませんが、現在の職場でパワハラを受けた人とそうでない人とで職場の特徴を比べています。差が大きかったのは「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」(19.4ポイント差)、「ハラスメント防止規定が制定されていない」(17.5ポイント差)、「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」(15.5ポイント差)でした。人を追い詰める言動が続く職場には、仕組みの側の特徴が重なっていることが分かります。

聞き流すもの、記録するもの、相談するもの

受けている言動を、次の3つの段に分けます。段によって、することが変わります。

段言動の例仕事への影響すること
1. 比較の言葉「私のときはもっと早かった」「その程度で忙しいの?」気分は悪いが、仕事は進む乗らずに短く返す。記録は件数だけ
2. 仕事の支障人前で細かく訂正して発言を止める、必要な手順や情報を教えない、共同の成果を自分一人の話にする作業が止まる、評価に響く日付と影響を記録し、上司に業務の問題として出す
3. ハラスメントの類型に近い人格や能力を否定する、否定する内容のメールを複数人に送る、集団で無視する、仕事を与えない就業に支障が出ている記録をまとめ、相談窓口に出す

同僚からでもパワハラに当たりうる場合

厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)は、職場のパワハラを、優越的な関係を背景とし、業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境が害されるもの、の3つをすべて満たすものとしています。

「優越的な関係」は上司だけではありません。指針は、同僚や部下による言動で、その人が業務上必要な知識や豊富な経験を持っていて、協力を得なければ仕事が円滑に進まないものと、同僚や部下の集団による行為で、抵抗や拒絶が難しいものも含まれるとしています。手順を知っている先輩が教えないことを盾に比較を繰り返す場面は、ここに近づきます。

同じ指針は、該当すると考えられる例として、人格を否定するような言動、相手の能力を否定し罵倒するような内容の電子メール等を本人を含む複数の労働者に送ること(精神的な攻撃)、一人の労働者を同僚が集団で無視して孤立させること(人間関係からの切り離し)、気に入らない労働者に嫌がらせのために仕事を与えないこと(過小な要求)を挙げています。就業環境が害されたかどうかは、本人の感じ方だけでなく、同じ状況で社会一般の労働者が看過できない支障と感じるか(「平均的な労働者の感じ方」)を基準に判断するとされています。当たるかどうかを自分で決めきる必要はなく、段3に近いと思ったら相談に進みます。

記録で線を引く手順

1. 段1の言葉は、比較に乗らずに返す

比較の言葉には、事実の部分にだけ短く応じて、手元の仕事に戻ります。張り合うのも、必要以上にへりくだるのも、会話を長くします。

言われたこと会話が長引く返し短く終わる返し
「その資格、私は3年目で取ったよ」「私も仕事が忙しくて…」「3年目で取られたんですね。では、先ほどの件を進めます」
「私のころはもっと大変だった」「今も十分大変ですよ」「そうだったんですね」
「その程度で忙しいの?」「〇〇さんには分からないと思います」「今週は〇〇の締め切りがあるので、そちらを優先します」

段1は記録に言葉まで書く必要はありません。手帳の隅に「正」の字で件数だけ残しておけば、続いているかどうかが後で分かります。

2. 段2・段3は、1行1件で記録する

仕事に影響が出たものは、その日のうちに次の形で残します。感想は最後の欄に分け、事実の欄には入れません。

日付・時刻場面言動(言葉どおり)仕事への影響段自分の状態
9/24 10:15週次会議、6名報告の途中で「それ前も言ったよね、基本でしょ」と3回遮った報告が終わらず、決めるはずの納期が翌週に持ち越し2午後の作業に集中できなかった
9/26 14:00チャット手順を尋ねたが「自分で調べれば」と返され、手順書の場所も示されない作業が2時間止まった2―

大事なのは「仕事への影響」の欄です。「嫌なことを言われた」だけでは、相談を受けた側は何を直せばよいのか判断できません。止まった時間、持ち越した決定、やり直した作業のように、仕事の言葉で書いてある記録は、そのまま業務の問題として扱えます。

会話が文字で残るチャットやメールは、その画面を保存しておきます。記録の取り方の基本は、上司に詰められたときの記録の残し方にも項目ごとにまとめています。

3. 月末に数えて、段ごとの件数を見る

月に1回、記録を見返して、段2と段3の件数、止まった時間の合計を出します。「今月は段2が5件、作業が合計6時間止まった」と言える状態になると、我慢の限界という気持ちの話が、仕事の損失という数字の話に変わります。件数が減っていれば、今の対処が効いているということでもあります。

4. 上司には「人」ではなく「仕組み」を頼む

段2が続くときは、上司に相談します。相手を注意してほしいと頼むより、支障をなくす仕組みを頼むほうが通りやすく、相手の反発も招きにくくなります。

今月、〇〇の手順が分からずに作業が止まったことが2回、合わせて6時間ありました。手順書を共有フォルダに置く場所を決めていただけないでしょうか。会議でも報告が途中で終わることが続いているので、報告は1人5分と決めて、質問はその後にする形にできればと思います。

手順が文字になれば、知識を握っていることが比較の足場になりにくくなります。発言の順番と時間が決まれば、人前で遮られる場面も減ります。

5. 段3に当たる、または上司が動かないときは窓口へ

人格や能力の否定、集団での無視、仕事を外されるといった段3の言動があるとき、上司に相談しても変わらないときは、記録を時系列の1枚にまとめて社内の相談窓口に出します。窓口の使い方と社外の相談先の違いは、社内の窓口と外部の相談先の使い分けで整理しています。

実行するときの落とし穴

マウントを取り返す

相手より上の実績を並べて黙らせようとすると、周りからはどちらも比較をしているように見えます。記録の信頼性も下がります。段1には短く応じて終わらせるだけにします。

記録に相手の人柄を書く

「性格が悪い」「見下している」と書いた記録は、相談を受けた側から見ると感想の記録です。言葉どおりの発言と、仕事への影響だけを書きます。気持ちは「自分の状態」の欄に分けます。

記録を相手に見せて牽制する

「全部記録しています」と相手に告げると、対立がはっきりし、証拠の扱いをめぐって別のもめごとになりがちです。記録は相談のための材料として手元に置きます。

何もかも記録して疲れる

段1まで細かく書き始めると、相手の言葉を毎日思い出し続けることになります。段1は件数だけにして、記録にかける時間を1日数分に抑えます。

似た悩みを混ぜて扱う

遠回しの皮肉が中心なら同僚の嫌みへの返し方、自慢話や称賛の催促に時間を取られているなら承認を求める行動への対応のほうが合う場合があります。困っている行動がどれかで、打ち手は変わります。

体の不調を後回しにする

眠れない、出勤前に動悸がする、休日も相手の言葉が頭から離れないといった状態が続くなら、記録や相談の準備より先に、産業医や医療機関に相談してください。厚生労働省の「こころの耳」には、働く人向けの電話・SNS・メールの相談窓口がまとめられています。

相談できる窓口

  • 社内のハラスメント相談窓口・人事部門:パワハラの相談に応じる体制を整えることは、企業規模にかかわらず事業主の義務です。指針は、該当するか微妙な場合でも広く相談に対応するよう求めています
  • 総合労働相談コーナー:各都道府県労働局や労働基準監督署の中にあり、無料・予約不要で相談できます
  • 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):社内で進まないときの助言・指導や調停
  • 弁護士(法テラスなど):法的な手続きを考えるとき

職場の人間関係と距離の取り方は、対人関係・調整の記事の一覧から探せます。

参考資料