社内調整ばかりでキャリアが止まっていると感じるとき、問題は調整そのものではありません。厚生労働省のポータブルスキルの整理では、社内の関係者と調整して合意を作る力は、会社や職種が変わっても通用する力の1つに数えられています。
止まっている感覚の正体は、調整の中身が「連絡・伝言・日程合わせ」にとどまり、判断や交渉が自分に残っていないことです。まず2週間、調整に使った時間と中身を記録し、段階ごとに分けます。伝言型の調整は、決め方の仕組みがないことから生まれるので、上司に仕組みを変えてもらって減らします。交渉型の調整は、経験として記録します。それでも本来の仕事が圧迫され続けるなら、異動や転職を比べる材料にします。
調整ばかりになる仕組み
決める人が決まっていないと、調整が増える
AとBのどちらで進めるかを決める人が決まっていれば、関係者に聞いて回る必要はありません。決める人があいまいな職場では、全員の了解を集めることが決定の代わりになります。その集めて回る役が、調整役です。調整の量は、個人の段取りより、組織の決め方で決まる部分が大きいということです。
部署ごとに目標が違うと、間に立つ人が必要になる
営業は受注の件数、製造は不良の少なさ、経理は締めの期限と、部署ごとに追っている目標が違います。目標がぶつかる境目では、どちらかが譲る理由を誰かが作らなければなりません。その役が毎回同じ人に回ると、その人の仕事は調整で埋まっていきます。部署の境目の揉めごとを取り決めで減らす方法は、部署間のトラブルを取り決めで減らす手順にまとめています。
調整は「できる人」に集まり、成果物が残らない
一度うまくまとめると、次も頼まれます。ところが調整の結果は、会議の決定や他の人の成果物として残り、調整した人の名前は残りません。評価の場で説明しないと、忙しかったことだけが残ります。
学ぶ時間が削られる
厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」(2026年7月公表)では、自己啓発を行う上で問題があるとした正社員は82.8%で、問題点の内訳では「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」が58.5%で最も多くなっています。調整で日中が埋まり、専門の仕事や学習が後回しになるのは、珍しいことではありません。
経験になる調整と、ならない調整
厚生労働省の「社内対応」の5段階
厚生労働省の「ポータブルスキル見える化ツール キャリアコンサルタント等支援者向け活用教材(Ver 1.0)」(令和3年度の事業で作成)は、ポータブルスキルの1つ「社内対応」を「価値観の異なる人々や利害の対立する社内関係者と調整し、合意形成を図る」と定義し、次の5つの段階を示しています。
| 段階 | 教材での水準 |
|---|---|
| 1 | 所属する部署の人に、業務連絡や担当業務の説明を行っている |
| 2 | 所属する部署の人と、合意を得るための交渉や折衝を行っている |
| 3 | 他部署の人に、業務連絡や担当業務の説明を行っている |
| 4 | 他部署の人と、合意を得るための交渉や折衝を行っている |
| 5 | 他部署の人と、新たな価値を生み出すためのコミュニケーションを行っている |
この表で見ると、同じ「社内調整」でも中身に差があることが分かります。連絡や説明(段階1・3)と、合意を得るための交渉(段階2・4)は別のものです。他部署と毎日やり取りしていても、中身が伝言と日程合わせだけなら、段階3にとどまります。
9つのポータブルスキルの全体と、社内の経験を社外でも通じる言葉に言い換える方法は、会社の肩書きが外部で通用しない理由と持ち出せる力の作り方で扱っています。この記事では、調整の中身を分けて減らすほうに絞ります。
自分の調整を分ける表
| 調整の種類 | 例 | 段階の目安 | 経験として残るか |
|---|---|---|---|
| 伝言 | 上司の指示を他部署に伝える、返事を持ち帰る | 1・3 | 残りにくい |
| 日程・資料の往復 | 会議の日程合わせ、資料の版の取りまとめ | 1・3 | 残りにくい |
| 条件のすり合わせ | 納期や仕様について、双方の条件を聞いて落としどころを出す | 2・4 | 残る |
| 合意づくり | 反対している部署の懸念に答えて、決定まで持っていく | 4 | 残る |
| 新しい仕組みの提案 | 繰り返し揉める点の決まりを作り、関係部署の了解を取る | 5 | 残る |
調整を経験に変える手順
1. 2週間、調整の時間を記録する
1日の終わりに5分、調整に使った時間を書き出します。相手、用件、かかった時間、自分が何かを決めたかどうか、の4つで十分です。
| 日付 | 相手 | 用件 | 時間 | 自分が決めたこと |
|---|---|---|---|---|
| 10/1 | 製造部 | 納期の変更を伝える | 30分 | なし(課長の判断を伝えただけ) |
| 10/2 | 営業部・製造部 | 納期と仕様の落としどころを探す | 90分 | 仕様を2案に絞って提示した |
2週間分がたまったら、上の表の種類ごとに合計します。「週に12時間が調整で、うち9時間が伝言と日程合わせ」のように数字にできれば、何を減らすべきかが見えます。
2. 伝言型は、仕組みで減らしてもらう
伝言と日程合わせが多いなら、原因は決め方にあります。個人の工夫で速くするより、上司に仕組みを変えてもらうほうが効きます。
- 決める人を決めてもらう。会議で決まったことに担当と責任者を付ける方法は会議で決まったことが実行されないときのRACI表が使えます
- 他部署との窓口を1本にし、依頼の書き方を決める
- 関係者の多い件は、個別に回らず、決める人がいる場で一度に決める
- 決まったことを文字で共有し、同じ説明を何度もしなくて済むようにする
上司には、記録の数字を持っていきます。
2週間、調整の時間を記録しました。週に約12時間のうち9時間が、指示の伝達と日程合わせでした。製造部との窓口と、判断する方を決めていただければ、このうち半分ほどは減らせると思います。
3. 交渉型は、決めたことを記録する
条件のすり合わせや合意づくりは、経験として残る調整です。ただし記録しなければ残りません。月に一度、次の3点を短く書きます。
- 何と何がぶつかっていたか(部署名ではなく、目標や条件の違いで書く)
- 自分が何を判断し、どんな案を出したか
- 何が決まり、その後どうなったか
4. 評価の場で、調整を仕事として伝える
調整の結果は、他の人の成果物として残りがちです。評価面談の前に、交渉型の調整の記録を上司に渡し、「この件は私が条件を整理し、決定まで持っていきました」と具体的に伝えます。評価の項目に調整が入っていない場合は、入れてもらえないか聞いてみる価値があります。
5. 役割を上司と話す
調整が仕事の半分を超えているなら、それを正式な役割にするか、減らすかを上司と決めます。
- 役割にする:調整を担当として明記し、決める権限の範囲と、評価での扱いを決めてもらう
- 減らす:伝言型を仕組みで減らし、空いた時間を専門の仕事に戻す
どちらにしても、「なんとなく自分に回ってくる」状態を終わらせることが目的です。
6. 変わらないときは、比べる材料にする
仕組みの変更を頼んでも伝言型の調整が減らず、専門の仕事に戻れる見込みもないなら、異動や転職を比べる段階です。その際、同じ職種の求人でどんな経験が求められているかを見ると、いまの調整のどこが外で通じるかが分かります。測り方は自分の市場価値の測り方で整理しています。
実行するときの落とし穴
調整を全部やめようとする。 交渉型の調整まで手放すと、経験として残る部分も減ります。減らすのは伝言型です。
記録を不満の一覧にする。 「また頼まれた」「私ばかり」と書くと、上司は身構えます。相手、用件、時間、決めたことの事実だけを書きます。
調整の段階を上げようと、決める権限のない判断をする。 交渉型にしたいあまり、自分の権限の外で約束すると、あとで覆されて信頼を失います。どこまで自分で決めてよいかを、先に上司と確かめます。
「調整は外で通用しない」と思い込む。 厚生労働省の整理では、社内関係者との合意づくりは持ち出せる力の1つです。通用しないのは調整そのものではなく、中身を説明できない調整です。
一人で抱え続ける。 調整が特定の人に集まるのは、決め方の問題です。個人の努力で吸収し続けると、職場は変わらないまま本人だけが消耗します。社内政治や合意形成の関連記事は対人関係・調整の記事一覧にあります。
参考資料
- 厚生労働省 人材開発統括官「ポータブルスキル見える化ツール キャリアコンサルタント等支援者向け活用教材 Ver 1.0」(令和3年度職業能力診断ツール活用促進等事業)
- 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」調査結果の概要(2026年7月公表)



