「自分の市場価値がわからない」。この不安が厄介なのは、考えても答えが出ないところです。自己分析の本を読んでも、強みの棚卸しをしても、「で、いくらなのか」は出てきません。

出てこないのは当然です。市場価値は自分の中にある性質ではなく、外との関係で決まる数字だからです。他社が、同じような経験を持つ人に、いくら払っているか。それを見ないまま自分の中を探しても、何も出てきません。

この記事は、市場価値をどう測り、どう高めるかの全体像をまとめた案内です。測り方を先に示し、そのあとで、どこが足りないときに何をするかを、個別の記事に分けて示します。

測る前に:社内評価と市場価値は別のものさし

前提として、2つの評価を分けておきます。

社内評価市場価値
決める人自社の上司と評価制度他社の採用担当
基準自社の役割定義、過去の経緯、人間関係他社が必要としている業務を任せられるか
変わるきっかけ異動、上司の交代、制度改定求人の需要、経験の積み方

社内で高く評価されていても、その働きが自社固有の事情への対応で成り立っている場合、外では同じように評価されません。逆に、社内で目立たない業務が、外では必須要件として求められていることもあります。

この2つがどうずれるのか、なぜ肩書きが外で効かないのかは、会社の肩書きが外部で通用しない理由で整理しています。この記事を読む前提として、先に読んでおくと理解が早くなります。

測り方:3つのステップ

必要なのは、外から与えられる基準です。誰でも同じものを見られる材料を使います。

ステップ1 同じ職種の公開求人を10件以上集める

自分の職種、または移りたい職種の求人を、10件以上集めます。1社や2社では、その会社の事情なのか一般的な要求なのかが分かりません。

集めるときは、応募するかどうかを考えないでください。判断が入ると、都合のよい求人だけを見てしまいます。条件を絞りすぎず、同じ職種名で並べます。

職種名そのものが曖昧なときは、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」(日本版O-NET)が使えます。約500の職業について、仕事内容を細かく分解した「タスク」や、必要とされる「スキル」が掲載されています。職種ごとに都道府県別の平均賃金、平均年齢、求人賃金、有効求人倍率も見られるので、相場の幅を知る材料にもなります。

ステップ2 必須要件として繰り返し出てくる項目を書き出す

集めた求人の「必須要件」「応募条件」の欄だけを読みます。10件並べると、繰り返し出てくる項目が見えてきます。3件以上に出てくるものだけを書き出してください。1件にしか出てこない項目は、その会社の個別事情である可能性が高いためです。

書き出したら、1つずつ自分に当てはめます。

判定意味
実務でやったことがあり、やり方を説明できる
やったことはあるが、人に説明できるほどではない
×やったことがない

○がいくつあるかが、いまの位置です。10項目中7つ以上が○なら、その求人群は現実的な候補です。半分以下なら、いまの経験とは別の職種を見ていることになります。

ステップ3 提示されている年収の幅を見る

同じ求人群の年収欄を並べます。多くは幅で書かれているので、下限と上限をそれぞれ並べてください。

見るのは平均ではなく、下限の集まり方です。下限がいまの年収を上回っているなら、動くことで上がる余地があります。下限がいまの年収を下回る求人ばかりなら、その職種では現在の条件が相場より上ということになります。

年収がどの条件で動くのか(役職、業種、企業規模、転職)をもう少し細かく見たい場合は、給料が上がらない理由を数字で比べるで公的な統計を並べています。

結果をどう読むか

3つのステップが終わると、数字が出ます。ここで気をつけたいのが、読み方です。

「市場価値が低い」は結論ではありません。 ○が3つしかなかったとしても、それは「いまの位置が3」という情報にすぎません。使えるのは、×がついた7項目のほうです。そのうち、いまの職場で経験できるものはどれか。半年で1つ埋められるなら、次の測定では4になります。

低く出た理由が2種類あることにも注意してください。

  1. 経験そのものがない
  2. 経験はあるが、社内の言葉でしか説明できない

2のほうは、今日から直せます。業務を分解して社内の言葉を消す手順は、経験の言い換え方にまとめました。40代向けに書いていますが、作業の中身は年代を問いません。

他人と比べないでください。 SNSで見かける年収や実績は、書き手が見せたい部分を選んだものです。職種も業界も経験年数も揃っていないため、比較の対象になりません。比べる相手は、誰でも同じものを確認できる公開求人と公的な統計です。

測る頻度は、半年から1年に一度で十分です。 求人の内容は少しずつ変わります。転職の予定がなくても、定期的に測っておくと、自分の位置が動いているかどうかが分かります。

高め方:足りない場所ごとに手を打つ

測った結果、次にやることは人によって違います。よくある4つの状態と、それぞれの進め方です。

経験を積む場所がない

いまの職場で、求人の必須要件に当たる経験を積めそうにない。この場合、会社の教育制度に期待しても状況は変わりにくいのが実情です。会社の中にいながら社外でも通じる経験を積む方法は、会社でのスキルアップは意味ない?で、公的な統計を確認しながら整理しています。

職場の非効率に消耗している

やり方が古い、決まらない、手戻りが多い。その環境にいること自体が、市場価値を削ります。ただし勢いで動くと、同じような環境に移りがちです。留まる場合に何が減るのか、次の職場をどこで見極めるのかは、残るか動くかの判断基準に順序をまとめました。

相談する相手がいない

一人で判断し続けると、やり方が自己流に寄り、一般的かどうかを確かめる機会もなくなります。相談の中身を分けて、無料で使える公的な窓口も含めて使い分ける方法は、相談先の選び方と使い分けにまとめました。

動くと決めたが、選ぶ基準がない

求人を見るたびに気持ちが揺れる状態です。不満を条件に言い換え、3つだけを数字で固定する進め方は、20代の転職の軸の決め方に整理しています。年代を問わず使える手順です。

測ることの本当の効果

市場価値を測る目的は、転職することではありません。選べる状態かどうかを知ることです。

いまの条件が相場と比べてどうかを把握していれば、不利な条件を長く受け入れ続ける理由がなくなります。逆に、相場より恵まれていると分かれば、根拠のない焦りも消えます。どちらに転んでも、判断の材料が増えます。

そして、測った結果は、いまの職場でも使えます。何が足りないかが分かっていれば、次に取りにいく仕事を選べます。上司との面談でも、「この経験を積みたい」と具体的に言えるようになります。

気をつけたいところ

1回の測定を結論にしない

求人は時期によって偏ります。採用が活発な時期とそうでない時期では、条件も件数も変わります。半年後にもう一度測って、同じ傾向が出るかを確認してください。

求人票の記載を実態と同じだと思わない

必須要件は、採用する側が「これくらいは欲しい」と書いたものです。全部を満たしていないと通らないわけではありませんし、逆に全部満たしていても他の理由で見送られることもあります。目安として扱ってください。

統計を個人の予測に使わない

公的な統計は集団の平均です。自分がどうなるかを示すものではありません。思い込みを外す材料、確認すべき点を知る材料として使ってください。

測るだけで終わらせない

測った後に何もしないと、半年後も同じ数字が出ます。×がついた項目から1つだけ選んで、次の半年でやることを決めてください。1つでも○が増えれば、測定は機能しています。


市場価値は、自分の中を探しても出てきません。外の基準を10件集め、要件と突き合わせ、金額の幅を見る。この3つで数字になります。数字になれば、次に何をするかも決められます。