部署間のトラブルの多くは、担当者どうしの相性ではなく、仕事を受け渡す境目で、何がそろえば受け付けるのか、いつまでに返すのか、例外のときに誰が決めるのかが決まっていないことから起きます。決まっていない部分は、その場の担当者の判断で埋めることになり、判断が食い違うたびに揉めます。

減らし方は、社外のサービスの契約で使われる SLA(サービスレベル合意)の考え方を、社内の受け渡しに借りることです。依頼の窓口、受け付ける条件、回答までの時間、例外の判断者、見直しの時期を、両部署で1枚の紙に書いて合意します。最初から細かく決めすぎず、揉めた回数の多い受け渡しから始めるのがこつです。

部署間のトラブルが起きる仕組み

揉めるのは、決まりのない境目

毎月決まった形で流れてくる仕事は、手順が決まっているので揉めにくいものです。揉めるのは、急ぎの依頼、情報が足りない依頼、どちらの部署の担当か決まっていない仕事のような、決まりの外にある仕事です。部署ごとの担当業務を定めた規程があっても、こうした例外の扱いまでは書かれていないことがよくあります。

部署ごとに、急ぐ理由と守りたいものが違う

営業は顧客への回答を急ぎ、経理は締めの正確さを守り、情報システム部門は障害を起こさないことを優先します。どれも正しいので、境目ではぶつかります。どちらが譲るかを決める基準がないと、声の大きさや関係の深さで決まり、負けた側に不満が残ります。

個人間の約束で回している

「この件は田中さんに言えば早く通る」という個人のつながりで回している職場は、その人が異動した瞬間に止まります。個人間の約束は文字にならないので、別の担当者との間では同じ揉めごとが繰り返されます。

判断できる人が、両部署の上にしかいない

2つの部署の意見が割れたとき、両方に指示できるのは、さらに上の役職者だけです。その人に上げる手順が決まっていないと、担当者どうしが押し問答を続けることになります。

SLA とは何か、社内にどう借りるか

総務省「地方公共団体における ASP・SaaS 導入活用ガイドライン」(2010年4月)は、SLA を、サービスの提供者と利用者が、サービスの内容と品質について事前に合意した内容を明文化したもの、と説明しています。同じガイドラインは、SLA の一般的な構成要素として、対象となるサービスの内容、評価の項目と設定値、その測定方法、利用者側の義務、免責事項、報告や連絡などの運営ルールを挙げています。

社外との契約の道具ですが、「頼む側」と「受ける側」の間で、先に条件を文字にしておくという考え方は、部署間の受け渡しにそのまま使えます。

ガイドラインの構成要素部署間の取り決めに置き換えると
対象サービスとその内容どの依頼を対象にするか(例:見積もり用の原価の確認)
評価項目と設定値回答までの時間などの目安(例:受付から2営業日以内)
測定方法受付と回答の日時をどこに残すか(例:依頼の共有表)
利用者側の義務頼む側がそろえる情報(例:品番・数量・希望納期)
免責事項目安の対象外にする場合(例:月末の締めの3日間)
運営ルール窓口、連絡の手段、例外のときに誰が決めるか

ポイントは、頼む側の義務も書くことです。受ける側の期限だけを決めると、情報が足りない依頼まで期限に縛られ、受ける側の不満がたまります。

どの取り決めが欠けているかを診断する

最近の揉めごとを思い出し、症状から欠けている取り決めを見つけます。

よく見る症状欠けている取り決め
依頼したのに「聞いていない」と言われる窓口と、依頼の手段
何度も差し戻され、往復が続く頼む側がそろえる情報
「いつ返ってくるのか」で揉める回答までの時間の目安
急ぎの依頼が割り込み、通常の依頼が遅れる急ぎの定義と、急ぎを決める人
どちらの担当か押し付け合いになる例外のときの判断者と、上げる手順
決めたはずのことが、いつの間にか守られていない測る方法と、見直しの時期

1つの受け渡しで3つ以上当てはまるなら、個人のやり取りの工夫より、取り決めを作るほうが早く効きます。

取り決めを作る手順

1. 揉めた件を10件集める

過去3か月の揉めごとを、日付、依頼の内容、何が問題だったかの3点で書き出します。感想ではなく事実で書きます。10件並べると、揉めごとが特定の受け渡しに偏っていないかが見えてきます。

2. 受け渡しの境目を1つ選ぶ

最初から全部の業務を対象にしません。揉めた回数がいちばん多い受け渡しを1つ選びます。総務省のガイドラインも、導入当初から多岐にわたる SLA を結ぶと管理の負担が重くなり、実効性の少ないものになりやすいとして、当初の範囲を必要最小限にとどめ、運用しながら追加することを勧めています。

3. 1枚の取り決めを下書きする

次の項目を、A4で1枚に収めます。

項目記入例
対象見積もり用の原価の確認依頼
窓口製造管理課の受付担当(共有の依頼表に書き込む)
頼む側がそろえる情報品番、数量、希望納期、顧客への回答期限
回答までの目安情報がそろった日から2営業日以内
目安の対象外月末の締めの3日間、新規の品番
急ぎの扱い営業課長が急ぎと判断したものだけ。月3件まで
例外のときの判断者両課長で決まらない場合は、事業部長が決める
記録受付日と回答日を依頼表に残す
見直し3か月後に、件数と遅れた件を見て両課長で直す

数字は、いまの実績をもとに決めます。「今は平均で3日かかっている」なら、いきなり1日にせず、まず3日を守れる形にします。

4. 両部署の責任者と、共通の上位者に合意してもらう

担当者どうしで決めた取り決めは、上の人の判断で簡単に覆ります。両部署の課長が合意し、例外の判断者になる上位者にも見てもらいます。合意の場では、どちらが悪かったかの話はしません。「次から揉めないための決まり」として話します。判断の基準を先に決める人とそろえる進め方は、企画が通らないときに判断基準を先にそろえる手順も参考になります。

5. 例外は、上げる先を決めて上げる

取り決めの外の依頼が来たら、担当者どうしで押し問答をせず、決めておいた判断者に上げます。上げるときは、両方の言い分を並べ、「どちらを優先するか決めてください」と選ぶ形にします。

6. 測って、3か月で見直す

依頼表に残した受付日と回答日から、目安を守れた割合と、遅れた件の理由を数えます。ガイドラインも、SLA は利用を始めてからも業務の実態に合わせて継続的に見直す必要があるとしています。守れない目安は、相手を責める材料にせず、目安のほうを直します。

実行するときの落とし穴

項目を増やしすぎる。 思いつく項目を全部入れると、誰も読まず、守れているかも測れません。揉めた件に関わる項目だけで始めます。

測れない項目を入れる。 「丁寧に対応する」「速やかに回答する」は、守れたかどうかを誰も判断できません。総務省のガイドラインも、測定できない項目は評価項目にできないとしています。時間や件数で書きます。

相手の部署を縛る道具にする。 受ける側の期限だけを書き、頼む側の義務を書かないと、取り決めは一方的な要求になります。合意は得られず、得られても守られません。

罰を付ける。 社外の SLA には、守れなかったときの減額などの定めが入ることがありますが、社内で罰を付けると、遅れを隠す方向に働きます。社内では、遅れた理由を見直しに使うだけにします。

役割と担当の話を混ぜる。 部署間の受け渡しの取り決めと、1つの決定について誰が動き誰が責任を持つかは別の話です。後者は会議で決まったことに担当と責任者を付けるRACI表で扱います。個人に担当外の仕事が積み上がっている場合は、業務範囲が曖昧で仕事が増えるときの担当表が先です。

調整役を一人に任せきりにする。 境目の揉めごとを特定の人が毎回まとめていると、その人の時間が調整で埋まります。調整役に回っている側の考え方は、社内調整ばかりでキャリアが止まると感じるときで整理しています。

言い方の問題を放置する。 取り決めを作っても、他部署の人から人格を否定されるような言動が続く場合は、仕組みではなくハラスメントの問題として扱います。厚生労働省は、業務上必要な知識や経験を持つ同僚などで、その協力がなければ業務が進めにくい相手からの言動も、パワーハラスメントの要素の1つ「優越的な関係を背景とした言動」に当たりうるとしています。日時と言葉を記録し、社内の相談窓口や、都道府県労働局などにある総合労働相談コーナーに相談してください。


部署間のトラブルは、境目の決まりがないところで繰り返し起きます。次に揉めたら、相手を説得する前に、その受け渡しに窓口・条件・期限・判断者が決まっているかを確かめてください。社内の合意形成に関するほかの記事は対人関係・調整の記事一覧にあります。

参考資料

  • 総務省「地方公共団体における ASP・SaaS 導入活用ガイドライン」(地方公共団体 ASP・SaaS 活用推進会議 平成21年度報告書、2010年4月)
  • 厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」(パンフレット)