企画が通らないとき、原因は中身の出来より、「何を満たせば通るのか」が決まらないまま作り始めていることにある場合が多くあります。決裁者の判断基準は、たいてい企画書を見てはじめて言葉になります。そのため却下の理由が後から出てきて、作る側には「後出し」に見えます。
打ち手は、作り始める前に決裁者と短く話し、目的・判断基準・足切り条件・決める人の 4 つをそろえて文字に残すことです。骨子の段階で一度見せ、出すときは基準の順に並べます。却下されたら「どの基準に、どれだけ届かなかったか」を聞き返します。これで、作り直しが「当てずっぽうのやり直し」から「足りない一点の補強」に変わります。
却下の理由が後から出てくる仕組み
判断基準は、企画を見てから言葉になる
決裁者は、判断基準を最初から一覧で持っているわけではありません。「費用はいくらまでなら出せるか」「どの部署に負担がかかると困るか」といった基準の多くは、具体的な案を見て「これは困る」と感じたときに初めて言葉になります。
作る側から見ると、1 回目は「費用が高い」、直して出すと 2 回目は「現場の負担が大きい」と、理由が毎回変わるように見えます。けれど決裁者の中では、基準は最初からあって、案を見るたびに一つずつ表に出てきているだけ、ということがよくあります。
決める人が 1 人ではない
企画を最終的に決めるのが、目の前の上司とは限りません。上司が了承しても、その上の役職者や予算を見る部署、影響を受ける部署の意見で止まることがあります。上司の基準だけに合わせて作ると、上の段階で別の基準が出てきて差し戻されます。
「任せる」が、基準を渡さずに任せることになっている
「自由に考えていいよ」と任される企画は、一見やりやすく見えます。けれど、やり方を任されることと、通る基準が決まっていることは別です。基準が渡されていない「任せる」は、作る側が決裁者の頭の中を当てにいく形になり、外れたぶんだけ作り直しが続きます。
却下の言葉があいまいで、直す先が分からない
「インパクトが弱い」「もう少し練って」「全体的に違う」という返し方は、どこをどれだけ直せばよいかを含んでいません。このまま直すと、作る側は別の方向に大きく作り替えることになり、また別の理由で止まります。
着手前にそろえる 4 つの項目
作り始める前に、決裁者(または決裁者に近い上司)と次の 4 つをそろえます。仕事を受けるときの範囲・仕上がり・期限のすり合わせは仕事を受けるときの期待値調整で整理しているので、ここでは「通るかどうかを決める物差し」に絞ります。
| 項目 | 確かめること | 聞き方の例 |
|---|---|---|
| 目的 | この企画で何が変われば成功か。なぜ今なのか | 「この件で、半年後に何が変わっていれば成功と言えますか」 |
| 判断基準 | 何で比べるか。複数あるなら、どれが一番重いか | 「費用、効果の出る早さ、現場の手間のうち、一番重く見るのはどれでしょうか」 |
| 足切り条件 | これを超えたら中身に関係なく通らない線 | 「予算の上限や、使えない手段、触れてはいけない領域はありますか」 |
| 決める人と決め方 | 誰が、いつ、どの場で決めるか。途中で誰の了承が要るか | 「最終的にどなたが決めますか。その前に話を通しておくべき方はいますか」 |
判断基準は、多くても 3〜4 個に絞ります。基準が多すぎると、全部を満たす案はなくなり、結局は決裁者のその場の印象で決まります。
そろったかどうかを確かめる
次の 5 つに「はい」と答えられれば、作り始めて大丈夫です。一つでも「いいえ」なら、その項目だけを確かめに戻ります。
- この企画が成功したときの状態を、1 文で言える
- 判断基準のうち、一番重いものがどれか分かっている
- 予算や期間の上限など、超えたら通らない線を知っている
- 最終的に決める人と、その前に了承が要る人の名前が分かっている
- ここまでの内容が、文字で残っていて、決裁者に見てもらっている
基準をそろえて通すまでの手順
1. 15 分の相談を取り、1 枚のメモを持っていく
企画書を作る前に、決裁者に 15 分ほどの相談を申し込みます。持っていくのは完成した企画書ではなく、「解決したい問題」「今考えている方向」「確かめたいこと(上の 4 項目)」を書いた 1 枚のメモです。
相手の時間を短くするために、聞きたいことは先に書いて送っておきます。中身がまだ粗いことを伝えておけば、相手も細部ではなく方向について答えてくれます。
2. 基準は「選んでもらう」形で聞く
「判断基準を教えてください」と白紙で聞くと、相手は答えにくく、「それを考えるのが君の仕事だ」と返されることもあります。自分で候補を書き、そこから選んでもらいます。
今回は、次の 3 つで案を比べるつもりです。 ・導入にかかる費用 ・効果が出るまでの期間 ・現場の作業がどれだけ増えるか この中で一番重く見るのはどれでしょうか。ほかに見るべき点があれば教えてください。
選ぶだけで済む形にすると、相手の負担は小さく、基準に重みまで付きます。
3. 足切り条件を先に聞く
「予算は 50 万円まで」「来期の人員は増やせない」「取引先の契約には触れない」といった足切り条件は、中身の良さとは関係なく企画を止めます。これを最後に知ると、それまでの作業がすべて無駄になります。聞きにくい項目ですが、4 つの中で最初に確かめる価値があります。
4. 決める人の順番を確かめ、上の基準も聞いておく
上司が最終決裁者でないなら、「部長に上げるとき、部長はどこを気にされそうですか」と聞いておきます。上の段階で出てきそうな基準を、先に企画に織り込めます。関係する部署があるなら、その部署の了承がいつ必要かも確かめます。
5. そろえた内容を、その日のうちに文字で送る
口頭でそろえた内容は、双方の記憶の中で少しずつ形を変えます。相談の直後に、次のような短い文面で送ります。
本日はありがとうございました。企画の前提を、次のとおり理解しました。 ・目的:受注から出荷までの確認の手間を減らす ・判断基準:一番は現場の作業時間、次に費用 ・足切り:初年度の費用は 50 万円以内、人員は増やさない ・決め方:来月の部内会議で部長が判断。その前に物流課の了承をもらう 違っている点があればお知らせください。
この文面があれば、途中で基準が変わったときも「前提のどこが変わったか」を具体的に話せます。
6. 骨子の段階で一度見せる
全体の 2〜3 割、見出しと結論と大まかな数字だけの段階で見せます。見せるときは、合意した判断基準ごとに 1 行ずつ、この案がどうなるかを書いておきます。
・現場の作業時間:1 件あたりの確認を 2 回から 1 回に減らす見込み ・費用:初年度 40 万円(上限 50 万円の範囲内) ・人員:増やさない
決裁者は、基準ごとに「ここは足りない」と言いやすくなり、方向のずれが早く見つかります。
7. 提出するときは、基準の順に並べる
企画書の本文も、合意した基準の順に組み立てます。比べる相手として「今のまま続けた場合」を横に置くと、判断しやすくなります。
| 判断基準 | この案 | 今のまま続けた場合 |
|---|---|---|
| 現場の作業時間 | 1 件あたり約 10 分減る見込み | 変わらない |
| 費用 | 初年度 40 万円 | 追加なし |
| 人員 | 増やさない | 増やさない |
| リスク | 導入後 1 か月は旧手順と並行 | 確認漏れが続く |
数字に見込みが含まれるなら、何を前提にした見込みかを書き添えます。結論から組み立てる書き方は結論から話せない原因と直し方でも扱っています。
8. 却下されたら、基準のどこに届かなかったかを聞き返す
却下の言葉があいまいなときは、合意した基準に引き戻して聞き返します。
| 却下の言葉 | 聞き返し方 |
|---|---|
| インパクトが弱い | 「作業時間と費用のうち、どちらが足りないでしょうか。どのくらいあれば検討の対象になりますか」 |
| もう少し練って | 「一番気になる点を一つ挙げるとしたら、どこでしょうか」 |
| 今じゃない | 「時期の問題でしょうか。いつ頃なら検討できそうですか」 |
| 全体的に違う | 「前提として合意した目的のところから、ずれているでしょうか」 |
こうして聞き返すと、直す範囲が一点に絞れます。基準そのものが変わったのなら、変わった理由を聞き、手順 5 の文面を書き直してから作業に戻ります。
実行するときの落とし穴
- 合意した基準を盾にする。 「最初にこう決めましたよね」と突きつけると、決裁者は立場を守るために反対に回りやすくなります。基準が変わったときは、責めるのではなく「前提が変わったので、ここを直します」と更新の話にします。
- 「任せる」を合意と取り違える。 「任せるよ」は、判断基準をもらえたことにはなりません。自分で仮の基準を書いて返し、「この基準で進めます」と確認をもらって、はじめて合意になります。
- 数字を作り込みすぎる。 根拠の薄い試算を細かく並べると、前提の一つを突かれたときに全体の信用が落ちます。見込みは前提と一緒に書き、分からないところは分からないと書きます。
- 決裁者以外の反対を見落とす。 上司が賛成でも、関係部署の負担が増える企画は、その部署の了承で止まります。手順 4 で名前が挙がった人には、提出の前に話を通しておきます。
- 通らない理由を、自分の力不足だけに求める。 手順を踏んでも基準が毎回変わる、理由を聞いても答えが返ってこない、という状態が続くなら、個人の工夫の問題ではなく、決め方そのものの問題かもしれません。指示や方針が変わり続けるときの記録の残し方は上司の指示が二転三転するときの確認と記録で整理しています。
目的と手段を分けて企画の芯を確かめる考え方は目的と手段の違いに、社内での合意の取り方にかかわる記事は対人関係・調整の一覧にまとめています。



