業務範囲が曖昧な職場で仕事が増え続けるのは、新しく生まれた仕事の担当を決める人がおらず、引き受けてくれる人のところに流れ着くからです。一度引き受けると、その仕事はいつの間にかあなたの担当になり、誰も外そうとしません。

線を引き直すには、増えた仕事を3つに分けます。契約の範囲の問題か、量の問題か、担当の決め方の問題かです。契約の範囲は、労働条件通知書の「従事すべき業務」と、2024年4月から明示が義務になった「業務の変更の範囲」で確かめられます。ただ、多くの職場で問題になるのは量と担当の決め方のほうです。1週間の棚卸しから担当表を作り、新しい仕事を受けるときに「何を後ろに回すか」を上司に決めてもらう形にすると、増え方が止まります。

仕事が増え続ける仕組み

新しい仕事には、最初の担当がいない

新しいシステムの問い合わせ窓口、取引先から来た想定外の依頼、退職した人が抱えていた細かな作業。こうした仕事は、発生した時点で担当が決まっていません。誰かが決める前に、目についた人が手を付けます。

一度やると「担当」として覚えられる

前任者がいない仕事は、最初に手を付けた人の名前で覚えられます。次に同じ仕事が来たとき、周りは自然とその人に回します。本人が「一回だけのつもりだった」と思っていても、周りの認識は変わっています。

増えた分が、上司から見えていない

同僚や他部署から直接頼まれた仕事は、上司を通っていません。上司は割り振った覚えがないので、あなたの仕事がどれだけ増えたかを知りません。本来の業務が遅れたときにだけ、遅れとして目に入ります。

足すときに、引く話をしない

仕事を足す場面はあっても、何をやめるか、何を後ろに回すかを決める場面がありません。足し算だけが続くので、特定の人の仕事量が上がり続けます。

増えた仕事を3つに分ける

まず、増えた仕事がどの種類の問題かを見分けます。種類によって、確かめるものと相談する相手が違います。

分け方確かめるものよくある例
契約の範囲の問題労働条件通知書、就業規則事務職で採用されたのに、恒常的に現場の作業を担当している
量の問題自分の作業時間の記録、36協定担当業務の範囲内だが、毎月の残業が増え続けている
担当の決め方の問題分担表、依頼の経路誰の担当でもない仕事が、頼みやすい人に集まっている

契約の範囲:労働条件通知書の「業務の変更の範囲」

働く条件は、労働契約を結ぶときに書面で示すことが会社の義務です(労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条)。その中に「就業の場所及び従事すべき業務」があります。

厚生労働省のパンフレット「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」によると、2024年4月1日から、雇い入れ直後の業務に加えて、業務の「変更の範囲」も書面で示すことになりました。変更の範囲とは、今後の見込みも含め、その労働契約の期間中に業務がどこまで変わりうるかのことです。パート・アルバイト、契約社員、派遣労働者、定年後の再雇用の人も含め、すべての労働者が対象です。

同じパンフレットには、書き方の例が限定の程度ごとに載っています。

限定の程度記載の例(従事すべき業務)
限定がない(雇入れ直後)広告営業 (変更の範囲)会社内での全ての業務
一部に限定がある(雇入れ直後)運送 (変更の範囲)運送及び運行管理
完全に限定(雇入れ直後)ピッキング、商品補充 (変更の範囲)雇入れ直後の従事すべき業務と同じ

自分の通知書を読むときは、次の点に気をつけてください。

  • 変更の範囲の明示が義務になるのは、2024年4月1日以降に契約を結んだ人、または有期契約を更新した人です。それより前から働いている人の通知書には、書かれていないことがあります(厚生労働省は、トラブル防止のため明示を検討するよう会社に求めています)
  • 「会社の定める業務」と書かれていれば、職種を越える業務も契約の範囲内と読まれやすくなります
  • 臨時的な他部門への応援、出張、研修のように一時的に業務が変わる場合は、変更の範囲には含まれないとされています

就業規則も確かめます。常時10人以上を雇う会社は就業規則を作って労働基準監督署に届け出る必要があり(労働基準法第89条)、働く人がいつでも確かめられるよう周知することが義務です(同法第106条)。

量:範囲内でも、多すぎないか

契約の範囲に収まっていても、量が多すぎれば別の問題になります。残業の上限は、原則として月45時間・年360時間です(2019年4月施行、中小企業は2020年4月)。

厚生労働省のパワーハラスメントの指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、「過大な要求」に該当しないと考えられる例として、業務の繁忙期に、業務上の必要性から、担当者に通常時よりも一定程度多い業務を任せることや、育成のために現状より少し高いレベルの業務を任せることを挙げています。一方で、業務とは関係のない私的な雑用を強制的に行わせることや、新卒採用者に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できないことを厳しく叱責することは、該当すると考えられる例です。

一時的に仕事が増えること自体は、多くの場合、業務の範囲の中の話です。問題になるのは、「一時的」が終わらずに続いているときです。

担当の決め方:職場の状態を確かめる

次のうち当てはまるものが多いほど、担当の決め方の問題です。

  • 自分の業務を、すべて書き出せない
  • 引き受けた仕事のうち、依頼した人が上司ではないものがある
  • 新しい仕事を誰が割り振るのか、決まっていない
  • 上司は、自分の今の仕事量を数字で知らない
  • 引き受けた仕事が、評価面談の話題に出たことがない

線を引き直す手順

1. 1週間、業務を棚卸しする

まず、実際にやっている仕事を1週間分書き出します。記憶で書くと漏れるので、その日のうちに記録します。

業務依頼元頻度1回の時間週の合計
月次の売上集計課長週1回3時間3時間
新システムの問い合わせ対応他部署から直接1日5件15分6時間15分
備品の発注前任の退職後に自然と週2回30分1時間

時間の数字があると、上司と話すときに「大変です」ではなく「週に7時間、担当の決まっていない仕事をしています」と言えます。

2. 3つの色に分ける

棚卸しした業務を、次の3つに分けます。

  • 本来の担当:配属時や上司の指示で任された仕事
  • 一時的に引き受けたもの:期限つきで手伝っているはずの仕事
  • 誰の担当でもないもの:自然と自分のところに来た仕事

2つ目と3つ目が、線を引き直す対象です。

3. 上司と担当表を作る

分けた結果を持って、上司に相談します。不満を伝えるのではなく、担当を決めてもらう形にします。

業務を1週間分書き出しました。集計と見積もりは引き続き私の担当として進めます。新システムの問い合わせ対応は週6時間ほどかかっていて、今月末までは対応しますが、その後はどなたの担当にするか決めていただけますか。

決まったことは、表にして上司と共有します。これが、職場の担当表の最初の版になります。

4. 新しい依頼は「何を後ろに回すか」とセットで受ける

担当表ができたあとに新しい依頼が来たら、受ける前に、今の仕事とのやりくりを確かめます。

お受けできます。その場合、金曜の集計が月曜にずれますが、よろしいですか。

同僚や他部署から直接来た依頼は、「課長に優先順位を確認してからお返事します」と、上司を通す形にします。依頼の中身があいまいなときは、依頼の期待値をすり合わせる手順で、完成の形と期限を先に確かめてください。受けたあとで指示が変わる場合の記録の残し方は、上司の指示が二転三転するときの確認と記録にまとめています。

5. 担当表を定期的に見直す

担当表は、作って終わりではありません。四半期に一度、または異動や退職があったときに見直します。「一時的に引き受けたもの」の期限が過ぎていないかも、このときに確かめます。

実行するときの落とし穴

契約の文言から話を始める

最初から「契約にない仕事です」と切り出すと、話が対立から始まります。通知書に「会社の定める業務」とあれば、その主張はそもそも通りません。契約の確認は自分の判断材料として持っておき、上司との話は、量と担当の決め方から始めます。

棚卸しを、不満の一覧にする

「これも押し付けられた」「あれも私ばかり」という書き方をすると、上司は身構えます。表には業務名・依頼元・時間の事実だけを書きます。

「一時的」に期限をつけない

手伝うときに終わりの日を決めないと、そのまま担当になります。引き受けるときに「今月末まで」「後任が決まるまで」と、終わりの条件を言葉にして残します。

引き受けた仕事を、評価の場で伝えない

担当外の仕事をどれだけ引き受けても、評価面談で話さなければ、なかったことと同じ扱いになりがちです。棚卸しの表は、面談の資料としても使えます。

一人で断り続ける

担当の決まっていない仕事を個人で断り続けると、断る側だけが消耗します。頼まれたときの断り方は同調圧力を数字とルールで退ける方法にまとめていますが、仕事が特定の人に寄る構造は、担当を決める立場の上司に直してもらう問題です。

相談できる窓口

  • 社内:上司で解決しない場合は、さらに上の役職者か人事部門
  • 都道府県労働局(監督課)・労働基準監督署:労働条件が書面で示されないなど、労働基準法に反すると思われるとき
  • 都道府県労働局(雇用環境・均等部(室)):配置転換や業務の変更をめぐる、会社との民事上のトラブル
  • 総合労働相談コーナー:どこに相談すればよいか分からないとき。無料で相談できます
  • 弁護士(法テラスなど):法的な手続きを考えるとき

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