部下を次々に不調や退職に追い込む上司は、ネット上では強い呼び名で語られますが、法律上の用語ではありません。見分けるときに見るのは人柄ではなく、繰り返されている行動です。人格を否定する言葉、必要以上に長い叱責の繰り返し、人前での威圧的な叱責、教えないまま課す到底無理な目標、仕事を外す・与えない。こうした行動は、厚生労働省のパワハラ防止の指針が「該当すると考えられる例」として挙げているものと重なります。

当てはまる行動が続いているなら、相性や自分の弱さの問題として抱え込まず、行動を記録して相談先に持ち込むことが身を守る近道です。以下、そうした上司が生まれて残る仕組み、行動で見分けるチェック表、身を守る手順の順に整理します。

部下を潰す上司が生まれ、残り続ける仕組み

職場の特徴と重なっている

厚生労働省の委託調査「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(2024年公表)では、過去3年間に勤務先でパワハラを受けたと答えた人は19.3%でした。この調査で、パワハラを受けた人と受けなかった人の職場の特徴を比べると、差が大きかったのは次の3つです。

職場の特徴受けた人と受けなかった人の回答の差
上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない19.4ポイント
ハラスメント防止規定が制定されていない17.5ポイント
失敗が許されない/失敗への許容度が低い15.5ポイント

部下を潰す上司は、個人の気質だけで生まれるわけではありません。失敗を許さない空気の中で、日常の対話がなく、止める規定も無い職場では、強い叱責が「指導」として通りやすくなります。

本人に自覚がないことが多い

同じ調査で、過去3年間に「ハラスメントをしたと感じた、またはしたと指摘された」人は全体の5.2%でした。対象も数え方も違うので単純には比べられませんが、受けたと感じる側の数字とは開きがあります。強い叱責をしている本人は、それを熱心な指導だと考えていることが少なくありません。本人に気づかせようと正面から議論しても話が進みにくいのは、このためです。

周りが止めにくい関係の上で起きる

指針はパワハラの要素の1つを「優越的な関係を背景とした言動」とし、受ける側が抵抗や拒絶をしにくい関係を指すとしています。評価や配置を握っている上司に部下が直接異を唱えるのは難しく、成果が出ている間は周りもやり方を問いにくくなります。個人の工夫だけでは止まらないので、会社の仕組み(相談窓口や人事)を使う必要があります。

行動で見分けるチェック表

厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年)は、パワハラの代表的な6つの類型と、該当すると考えられる例・該当しないと考えられる例を示しています。上司の行動を、この例に照らして確かめます。

繰り返されている行動指針の類型同じ類型で「該当しない」とされる例
「使えない」「辞めたら」など人格を否定する言葉精神的な攻撃遅刻などを再三注意しても直らない人に、一定程度強く注意する
必要以上に長い時間の厳しい叱責を、何度も繰り返す精神的な攻撃重大な問題行動をした人に、一定程度強く注意する
ほかの社員の前で、大声で威圧的に叱る精神的な攻撃—
能力を否定し罵倒する内容のメールを、複数人に送る精神的な攻撃—
教育をしないまま、到底無理な目標を課して厳しく叱る過大な要求育成のため、今より少し高い仕事を任せる
仕事と関係のない私的な雑用を強制する過大な要求繁忙期に、一定程度多い業務を任せる
気に入らない部下に仕事を与えない、長く別室に置く過小な要求/人間関係からの切り離し能力に応じて業務量を一定程度減らす
職場の外でも監視する、病歴などを本人の了解なく広める個の侵害配慮のために家族の状況を聞き取る

指針は、判断にあたって言動の目的、相手の問題行動の内容や程度、言動の態様・頻度・継続性などを総合的に考えるとしています。1回だけ強く言われたことと、同じことが繰り返されていることは、分けて見てください。例は限定されたものではなく、当てはまるか迷う段階でも相談に応じるよう事業主に求めています。

自分の側に出ているサイン

上司の行動と同時に、自分の状態も確かめます。同じ調査で、パワハラを受けたことによる心身への影響として多かったのは、「怒りや不満、不安などを感じた」(68.5%)と「仕事に対する意欲が減退した」(61.1%)でした。眠れない、食欲が落ちた、出勤前に動悸がする、休日も上司の言葉が頭から離れないといった状態が続くなら、それは行動を起こす合図です。

厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」(2026年公表)では、精神障害で労災と認められた1,082件のうち、原因となった出来事で最も多かったのは「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の222件でした。上司の言動による不調は、珍しいことではありません。

身を守る手順

1. 行動を類型に当てはめて書き留める

チェック表に当てはまる行動があった日は、日時、場所、言葉、続いた時間、周りにいた人を、その日のうちに残します。書き方は詰められたときの記録の残し方にまとめています。ここで加えたいのは、それぞれの記録に表の類型を1語添えることです。「精神的な攻撃:人前での叱責(3回目)」のように書いておくと、相談を受けた側が程度と繰り返しを一目で把握できます。

2. 仕事の条件を文字で確かめる

目標、期限、評価の基準といった仕事の条件は、口頭で受けたらメールかチャットで確認を返します。無理な目標を課されて叱られる形が続いている場合、「いつ、何を、どの水準で求められたか」が文字で残っていることが、後で過大な要求かどうかを確かめる材料になります。

3. 1対1の長い場面を短くする

長時間の叱責が続きそうなときは、「次の予定があるので、直す点を3つに絞って確認させてください」と区切りを提案します。反論ではなく、話を「次に何をするか」に戻す言い方にします。区切れないまま続く場合は、それ自体を記録に残します。

4. 上司の上か、相談窓口に持ち込む

記録がそろったら、上司のさらに上の役職者、人事部門、社内のハラスメント相談窓口のいずれかに相談します。相談のときは「〇月から〇回、人前での叱責があった。担当を変えてほしい」のように、事実と求めることをセットで伝えます。社内の窓口と社外の相談先の違い、社内で進まないときの労働局の調停などは、社内と社外の相談先の使い分けで整理しています。

5. 体と生活を先に守る

体調のサインが続いているなら、手順の途中でも先に医療につなぎます。会社の産業医、かかりつけ医、心療内科のほか、厚生労働省の「こころの耳」には、働く人向けの電話・SNS・メールの相談窓口と、「5分でできる職場のストレスセルフチェック」があります。休むかどうかは医師と相談して決めます。意欲が落ちたときの立て直し方は、やる気が出ない原因の切り分け方も参考になります。

6. 離れる選択肢も並べておく

異動の希望、社内公募、転職。どれを選ぶかは今すぐ決めなくて構いません。ただ、選べる先があると分かっているだけで、目の前の上司の言葉を「ここで生きていくための絶対条件」として受け止めずに済みます。

実行するときの落とし穴

  • 呼び名やレッテルで話す。 相談の場で強い呼び名を使うと、相手が身構え、話が人物評価の言い合いになります。行動と日時と回数だけで伝えます。
  • 同僚に広めて味方を集める。 悪口として受け取られると、自分の立場が弱くなります。話すのは、相談先と、実際に同じ場面を見た人に限ります。
  • 自分の弱さのせいにする。 ミスがあったことと、その叱り方が妥当かどうかは別の話です。直すべき点は直し、叱り方の問題は記録と相談で扱います。
  • 本人に直接やめさせようとする。 自覚のない相手に正面から指摘しても、関係が悪化するだけになりがちです。止める役目は会社の仕組みに任せます。
  • 限界まで待つ。 体調を崩してからでは、記録も相談も手が回らなくなります。サインが出た時点で動きます。

上司の不機嫌さに振り回される形の悩みは、機嫌に左右されない段取りで扱っています。上司との関わり方全体は、対人関係・調整の記事の一覧から探せます。