議事録と発言録の違いは、何のために残すかにあります。発言録は「誰が何を言ったか」を時系列で残す記録で、議事録は「何が決まり、誰がいつまでに何をするか」を残す記録です。会社法の取締役会の議事録でも、求められているのは発言の全文ではなく「議事の経過の要領及びその結果」です。

社内の定例やプロジェクトの会議なら、まず作るべきは議事録です。発言録は、発言の正確さが後から問われる場面に限って、議事録の裏付けとして残します。迷ったときは「冒頭の 3 行を読めば、決まったことと次の行動が分かるか」で判断してください。

議事録・議事要旨・発言録は何が違うのか

会議の記録は、残す中身で大きく 3 つに分けられます。呼び名は組織によって揺れるので、名前ではなく中身で見分けます。

種類残すもの向いている場面
発言録(逐語録)発言をほぼそのまま、発言者と順番つきで発言の正確さが後で問われる場(交渉、事故の聞き取り、公開の審議)
議事要旨議題ごとの発言の要点と経過経過は残したいが、全文までは要らない場
議事録(決定の記録)決定事項、次の行動(担当・期限)、保留社内の定例会議、プロジェクト会議、顧客との打ち合わせ

法令が求める議事録は「要領と結果」

会社の議事録の中身を法令で定めている例として、会社法施行規則があります。第 101 条第 3 項は、取締役会の議事録に載せる事項として、開催の日時と場所、議事の経過の要領及びその結果、特別の利害関係がある取締役の氏名、出席した執行役などの氏名、議長の氏名などを挙げています。株主総会の議事録(同規則第 72 条第 3 項)も同じく「議事の経過の要領及びその結果」が柱です。

発言そのものを残すよう求めているのは、監査役の意見など特定の規定にもとづく発言に限られ、それも「内容の概要」です。法定の議事録でさえ、中心は「どう進んで、何が決まったか」だと分かります。

行政では「議事録」が詳しい記録を指すこともある

一方、国の審議会では言葉の使い方が逆に近くなります。「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」(1999 年 4 月 27 日閣議決定)は、会議または議事録を速やかに公開することを原則とし、特段の理由で会議と議事録を非公開にする場合は、理由を示したうえで議事要旨を公開するとしています。ここでの「議事録」は発言者つきの詳しい記録で、「議事要旨」はその要約です。

国会の本会議や委員会の発言も「会議録」として残され、国立国会図書館の「国会会議録検索システム」で読めます。こちらは発言録の代表例です。

同じ「議事録」という言葉でも、会社の取締役会と国の審議会では中身が違います。社内で「議事録を取って」と頼まれたら、依頼した人がどちらを想定しているかを最初に一言確かめると、書き直しを防げます。

議事録が発言録になってしまう理由

記録係を任された人の多くは、はじめ発言録を書きます。怠けているのではなく、そうなる理由があります。

書き起こしは判断がいらない。 発言をそのまま写すだけなら、「これは決定か、まだ意見か」を自分で判断せずに済みます。決定として書いて間違っていたら責任を問われそう、という不安があるほど、全文を残す方向に傾きます。

会議そのものが決めずに終わる。 論点を出し合っただけで時間切れになった会議では、決定事項の欄に書けることがありません。この場合、記録の書き方ではなく会議の進め方の問題です。記録係は「決まらなかった」ことをそのまま保留として書くのが役割です。

全文が手に入るようになった。 オンライン会議の録画や自動の文字起こしで、全文は手間なく手に入るようになりました。全文を送れば記録係の仕事は終わったように見えますが、読む人は 1 時間分の文字を読んで結論を探すことになります。書き手の手間が、そのまま読み手に移っただけです。

読む人を想定していない。 議事録を最も必要とするのは、欠席した人、判断だけを求められる上司、半年後に経緯を調べる後任です。出席者が自分のために書くと、その場の流れを知っている前提の記録になります。

自分の記録を点検するチェックリスト

書いた記録が議事録になっているかは、次の 6 項目で確かめられます。

  • 冒頭の 3 行で、決まったことが分かる
  • 次の行動のすべてに、担当者の名前と日付の期限がある
  • 決まらなかったことが「保留」として分けてあり、次にいつ決めるかが書いてある
  • 発言者の名前は、決定の根拠・反対意見・引き受けにだけ付いている
  • 欠席した人が読んで、自分が次に何をすればよいか分かる
  • 前回の保留が、今回どうなったかを追える

当てはまらない項目が 3 つ以上あれば、発言録に近い状態です。次の手順で直せます。

会議の種類ごとの目安は次のとおりです。

会議の種類作るもの発言録を残すか
社内の定例・進捗会議議事録残さない
方針を決める会議議事録+主な意見の要旨反対意見だけ要旨で
顧客・取引先との打ち合わせ議事録(相手にも送る)要望や条件の言い回しは原文で
事故・トラブルの聞き取り発言録+議事録残す

発言録を議事録に直す手順

議事録の型は、次の 4 つの見出しで足ります。

会議名/日時/出席者(欠席者)

1. 決定事項
2. 次の行動(担当・期限・終わったと言える形)
3. 保留(論点・次に決める場・材料を用意する人)
4. 共有事項(決定ではないが知っておくこと)

手元に発言録や文字起こしがある場合は、次の順で組み替えます。

  1. 議題ごとに区切る。 話が行き来していても、同じ議題の発言を 1 か所に集めます。
  2. 区切りごとに 3 つに振り分ける。 「決まった」「決まらなかった」「共有しただけ」のどれかに分けます。迷ったものは「決まらなかった」に入れます。
  3. 決まったことを 1 文にする。 主語と数字を入れます。「価格は据え置く方向」ではなく「10 月からの価格は現行の 1 万 2,000 円で据え置く」と書きます。
  4. 次の行動に担当と期限を付ける。 担当は部署やチームではなく個人名にします。期限は「次回まで」ではなく日付にします。
  5. 保留に、次に決める場と材料を書く。 「10 月 7 日の定例で決める。比較表は佐藤さんが 10 月 3 日までに用意」のように、保留が宙に浮かない形にします。
  6. 出席者全員に送り、修正の期限を切る。

直す前と後を並べると、違いがはっきりします。

直す前: 田中:先方からまた値下げの話が来ていて。 鈴木:前回も下げたので、今回は難しいのでは。 田中:ただ、競合が安い見積もりを出しているらしいです。 課長:条件次第だね。数量が増えるなら考えてもいい。

直した後: 【決定】値下げは、年間の発注数量が現行より増える場合に限り検討する 【次の行動】田中:先方に数量の見込みを確認する(10 月 2 日まで) 【保留】値下げ幅は数量の回答を見て 10 月 7 日の定例で決める

直した後の 3 行には、誰の発言かはほとんど残っていません。それでも、欠席者が読んで次に何が起きるかが分かります。

次の行動を、議事録の中に書いたままにせず、担当者の手元のタスクとして動かす方法は打ち合わせの ToDo をその場でチケットにする手順で扱っています。会議中に画面を共有しながらこの型を埋めていくと、会議の終わりに記録もほぼ仕上がります。

書くときの落とし穴

決まっていないことを、決まったように書く。 「〜の方向で調整」「〜が望ましいとの意見で一致」といった書き方は、読む人によって決定にも保留にも読めます。決定と言い切れないものは保留に入れ、「何が決まれば決定になるか」を書き添えます。記録係が結論を補うと、後から「そんな決定はしていない」という食い違いになります。

事実と解釈が混ざる。 「先方は乗り気ではなかった」は、記録係の解釈です。残すなら「先方は『社内で再検討する』と回答」と、言われたことをそのまま書きます。解釈を分けて書く考え方は事実と解釈を分ける考え方で整理しています。

あいまいな言葉のまま期限を書く。 「早めに」「適宜」「なる早」は、担当者と依頼者で思い浮かべる日が違います。期限と量は数字にします。言い換えの型は報告のあいまいな言葉を数字に直すルールにまとめています。

発言録を捨ててしまう。 議事録を作ったら発言録は要らない、とは限りません。顧客の要望の言い回しや、トラブルの聞き取りのように、元の言葉が後で意味を持つ記録は残し、議事録からたどれるようにしておきます。議事録は結論を早く伝えるための記録で、発言録の代わりではありません。

保留を毎回書き写すだけになる。 同じ保留が 3 回続けて載っているなら、決める人か材料が欠けています。保留の欄に「決める人」を書き足し、次の会議の議題の先頭に置きます。


議事録を書く人の仕事は、会話を写すことではなく、会話の中から「決まったこと」「次の行動」「決まらなかったこと」を取り出すことです。次の会議では、記録の冒頭にこの 3 つの見出しを先に置いてから始めてみてください。書く場所が決まっていると、会議の途中で「これは決まりましたか」と確かめるきっかけにもなります。ほかの記事はビジネス基礎の記事一覧にまとめています。