評価の項目を満たすための作業に追われ、本来の成果につながっていない。件数は増えたのに、お客様の反応は変わらない。こうした状態は、働く人の意識が低いから起きるのではありません。評価されるものに人が力を注ぐのは、ごく自然な反応だからです。

評価の項目が、測りやすい手段(件数、時間、提出の有無など)に寄っていると、人はその手段を増やすことに力を注ぎます。こうして、手段が目的に置き換わります。直すべきなのは評価の設計ですが、それは組織の仕事です。個人にできるのは、自分の評価項目が本来何を見たいものなのかを確かめ、指標の外にある成果を記録で見せることです。

この記事では、評価が手段の目的化を生む仕組み、よくある指標とゆがみの対応、個人と組織それぞれの打ち手を整理します。手段の目的化の全体像は手段の目的化が起きる理由で扱っています。

人は、評価されるものに合わせる

経営学者スティーブン・カーは、1975 年の論文「On the Folly of Rewarding A, While Hoping for B」(B を望みながら A に報いる愚かさ、学術誌 Academy of Management Journal)で、組織が望んでいる行動と、実際に報いている行動がずれている例を数多く挙げました。

よく知られているのが大学の例です。社会は大学の教員に良い授業を望んでいますが、大学が昇進や評価で報いているのは主に研究と論文です。その結果、教員は研究に力を注ぎます。教員が不真面目なのではなく、報われる行動を選んでいるだけです。

カーは、こうしたずれが生まれる原因として、客観的に見える基準に頼りすぎること、目に見えやすい行動ばかりを重く見ることなどを挙げています。そのうえで、働く人の善意や心がけに期待するより、何に報いるかそのものを変えることを勧めています。

職場に当てはめると、「お客様との関係を深めてほしい」と言いながら訪問件数で評価していれば、件数の稼げる短い訪問が増えるのは当然の結果です。

数字が目標になると、数字だけが動く

測るための数字を目標にすると、その数字が本来の役目を果たさなくなる。この考え方には、別々の分野から同じ指摘があります。

  • グッドハートの法則:経済学者チャールズ・グッドハートが 1975 年の論文で、英国の金融政策の経験から、観察された統計上の規則性は、管理の目的で圧力をかけると崩れやすいと述べました
  • ストラザーンの言い換え:人類学者マリリン・ストラザーンは 1997 年の論文(学術誌 European Review)で、英国の大学の評価制度を論じる中で、これを「測定値が目標になると、それは良い測定値ではなくなる」という形で紹介しました。一般に知られているのはこちらの言い方です
  • キャンベルの法則:社会心理学者ドナルド・T・キャンベルは 1979 年の論文(学術誌 Evaluation and Program Planning)で、数値の社会指標が意思決定に使われるほど、ゆがめる圧力を受け、測ろうとしていた活動そのものをゆがめやすくなると述べました

数字は、本来見たいもの(成果、品質、顧客の満足)の代わりに置かれます。代わりの数字が評価に使われると、本来見たいものを動かさずに、数字だけを動かす方法が選ばれるようになります。

よくある指標と、起きやすいゆがみ

自分の評価項目が、次の表のどれに近いかを見てください。表のゆがみは、どの職場でも起こりうる典型例です。

評価の指標本来見たいもの起きやすいゆがみ組み合わせたい指標
訪問件数・架電件数取引先との関係、受注短く件数を稼げる相手ばかり回る受注に至った割合、継続の取引
処理件数・対応時間問題の解決難しい案件を後回しにする、早く閉じて再発する同じ件の再問い合わせ
残業時間の削減業務量の適正化記録に残らない持ち帰り、作業の先送り期限を過ぎた件数、仕事量
目標達成率挑戦と成果達成しやすい低い目標を立てる目標の水準の妥当性を面談で確かめる
不具合・ミスの件数ゼロ品質報告されなくなる報告の件数、発見から対処までの時間
資料・報告の提出数情報の共有、判断の速さ読まれない資料が増えるその資料で決まったこと
研修の受講数・資格の数能力の向上受講すること自体が目的になる学んだことを使った仕事

また、職場で次のようなことが起きていれば、評価が手段の目的化を生んでいる可能性があります。

  • 期末になると、特定の数字だけが急に伸びる
  • 数字は良いのに、顧客や他部署からの苦情が減らない
  • 評価の対象外の仕事(後輩の指導、引き継ぎの資料など)を誰もやりたがらない
  • 「それは評価に入らないから」という言葉が職場で使われる
  • 数字の伸びた理由を聞かれることがない

個人でできること

評価の仕組みそのものは、個人では変えられません。ただし、自分の仕事が手段に偏るのを防ぎ、評価の外にある成果を見える形にすることはできます。

1. 評価項目ごとに「本来見たいもの」を書く

自分の評価項目を並べ、上の表と同じように「この数字は、何の代わりに置かれているのか」を書きます。分からない項目は、評価者に聞きます。

評価項目の「訪問件数」について確認させてください。受注につながる関係づくりを見るためのもの、という理解で合っていますか。そうであれば、件数とあわせて、受注に至った件の経過も面談で報告したいと考えています。

2. 指標の外の成果を、週に 1 行記録する

評価に入らない成果は、記録がなければ評価の場で存在しないのと同じです。「何をして、その結果どうなったか」を事実と数字で 1 行ずつ残します。形容詞ではなく数字で書く方法は、報告の曖昧な表現をやめるで整理しています。

3. 面談では、ずれを事実で伝える

「評価制度がおかしい」と言っても、話は進みません。伝えるのは、指標と本来見たいもののずれが起きている具体的な事実です。

処理件数を優先すると、難しい案件が後回しになり、先月は同じお客様からの再問い合わせが 5 件ありました。再問い合わせの件数もあわせて見ていただけると、優先の付け方を変えやすくなります。

組織の側でできること

評価を付ける管理職や、制度を作る担当者の側では、次のような直し方があります。

  • 対になる指標を置く:量の指標には質の指標を、速さの指標には再発の指標を組み合わせ、片方だけを動かせないようにする
  • 指標を定期的に見直す:同じ指標を長く使うほど、数字だけを動かす方法が広まる。期ごとに、本来見たいものと合っているかを確かめる
  • 数字の背景を面談で聞く:数字が伸びた理由、伸びなかった理由を聞くことで、数字の外の行動も評価に入る
  • 評価に入らない仕事を明示する:指導や引き継ぎのように欠かせないのに測りにくい仕事は、誰がどれだけ担っているかを把握する

実行するときの落とし穴

指標を増やしすぎる

ゆがみを防ごうと指標を足し続けると、どれが大事か分からなくなり、今度は「すべての項目を埋めること」が目的になります。1 つの目的に対して、主な指標と、対になる指標の 2 つ程度に絞ります。

数字をすべてやめる

数字のゆがみを嫌って、評価を評価者の印象だけに任せると、基準が見えなくなり、公平さへの疑いが生まれます。数字は捨てるのではなく、背景とあわせて読むものです。

個人が一人でゆがみに逆らう

評価の仕組みが変わらないまま、自分だけ本来の成果を優先すると、評価が下がることがあります。まずは記録を残し、面談で事実を伝える順番を守ります。それでも変わらない職場で、成果を出す人ほど離れていく状況については、優秀な人から辞めていく職場で整理しています。

数字を動かした人を責める

指標に合わせて動いた人は、制度が示したとおりに行動しただけです。個人を責めると、ゆがみは見えにくい形で続きます。直す対象は人ではなく、何に報いているかという仕組みの側です。


評価が手段の目的化を生むのは、人が評価されるものに合わせるからです。まず自分の評価項目を 1 つ選び、「この数字は何の代わりか」を書いてみてください。書けない項目があれば、それが評価者と確かめるべき点です。関連する記事はビジネス基礎の一覧にまとめています。

参考資料