目的と手段の違いは、「目的はゴール、手段はやり方」と説明されることが多いですが、職場で困るのはそこではありません。同じ作業が、見る位置によって目的にも手段にもなることです。
たとえば「見積書を作る」は、あなたにとっては今日の目的です。しかし上司から見れば、提案を通すための手段の 1 つにすぎません。取り違えは、自分の段だけを見て、その上の段を見ていないときに起きます。
見分けるには、仕事を「なぜ(何のために)」で上に、「どうやって」で下にたどり、段に分けて書き出します。この記事では、目的・目標・手段の見分け方と、指示を段に分けて書き出す手順を整理します。手段の目的化がなぜ職場で起きるのか、という全体像は手段の目的化が起きる理由で扱っています。
目的と手段は、位置で決まる
経営学者ハーバート・A・サイモンは、1947 年の著書『Administrative Behavior』(邦題『経営行動』)で、組織の目的は階層になっていると説明しました。ある段の目的は、1 つ上の段から見れば手段であり、1 つ下の段にとっては目的になる。サイモンはこれを目的と手段の連鎖(階層)と呼んでいます。
営業の仕事で書くと、次のようになります。
| 段 | 内容 | 上の段から見ると | 下の段から見ると |
|---|---|---|---|
| 4 | 新しい取引先からの売上を増やす | 手段(会社の業績のため) | 目的 |
| 3 | A 社から受注する | 手段 | 目的 |
| 2 | A 社に提案を通す | 手段 | 目的 |
| 1 | 見積書を作る | 手段 | 目的(今日の作業) |
段 1 だけを見ていると、「見積書をきれいに作ること」が目的になります。段 2 まで見えていれば、「提案が通るのに必要な見積書」が目的だと分かり、何を優先すべきかが変わります。
取り違えが起きる 3 つの原因
1. 指示は手段の形で降りてくる
多くの指示は「〜を作って」「〜を調べて」という手段の形で渡されます。上の段は、指示した人の頭の中にあり、言葉にされないことがほとんどです。受け取った側が上の段を知らなければ、手段を目的として扱うしかありません。
2. 上にたどるほど言葉が抽象的になる
「なぜ」を繰り返すと、いずれ「会社の利益のため」「お客様のため」に行き着きます。ここまで上がると、どの手段も当てはまってしまい、判断に使えません。使えるのは、自分の作業から 1〜2 段上までです。
3. 目的・目標・手段の言葉が混ざる
「売上を 10%増やす」は目的のように聞こえますが、目的がどれだけ進んだかを測る目標(数字と期限)です。目標を目的だと思い込むと、数字さえ達成すればよいという動きになり、手段の目的化に近づきます。
目的・目標・手段の見分け方
言葉を 3 つに分けて使うと、取り違えが減ります。
| 種類 | 表すもの | 例 | 確かめる問い |
|---|---|---|---|
| 目的 | 実現したい状態 | A 社が自社の提案を選んでいる | それが実現したら、誰がどうなっているか |
| 目標 | 目的への進み具合を測る数字と期限 | 今月中に A 社から受注する | いつまでに、どれだけか |
| 手段 | 目的のためにとる行動 | 見積書を作る、訪問して説明する | ほかのやり方に置き換えられるか |
ある文が目的か手段か迷ったときは、次の 2 つを聞いてみてください。
- ほかのやり方に置き換えられるか:置き換えられるなら、それは手段です。「見積書を作る」は、口頭で説明する、比較表を作るなどに置き換えられます
- それが達成されたら、次に何が良くなるか:答えが出るなら、それは 1 つ上の段にとっての手段です
よく受ける指示を、1 段上の目的に言い換えると次のようになります。右の列は一例で、実際の目的は指示した人に確かめます。
| 手段の形で受けた指示 | 1 段上の目的の例 |
|---|---|
| 議事録を作って | 出席しなかった人が、決まったことと担当を把握できている |
| 競合を調べて | 次の提案で、価格以外の違いを説明できる |
| 日報を毎日出して | 上司が、遅れそうな仕事に早めに気づける |
| マニュアルを直して | 新しく入った人が、質問せずに手順を終えられる |
右の列が書けると、「議事録は発言をすべて残すべきか」「決定事項と担当だけでよいか」のような迷いに、自分で答えを出せるようになります。
指示を段に分けて書き出す手順
受けた指示 1 件を、次の 4 つの手順で書き出します。紙 1 枚、またはメモ 1 画面に収まる量で十分です。
手順 1:受けた指示を、そのまま段 0 に書く
言い換えずに書きます。例:「来週の会議の資料を 10 ページで作って」。
手順 2:「なぜ」で 2 段まで上がる
- 段 1(なぜ資料が要るか):来週の会議で、新しい手順を導入するかを決めてもらうため
- 段 2(なぜ決める必要があるか):いまの手順では月末の締めに間に合わない件が出ているため
2 段で止めます。これ以上は抽象的になり、判断に使えません。
手順 3:段 1 から「どうやって」で下がり、手段を 2 つ以上出す
段 1 の「導入するかを決めてもらう」ための手段を、段 0 以外にも書きます。
- 10 ページの資料を作る(指示どおり)
- 判断に必要な 3 点(費用・手間・効果)を 1 枚にまとめ、詳細は付録にする
- 会議の前に、決める人へ論点だけを先に送る
手段を 2 つ以上並べると、指示された手段が唯一の方法ではないと分かります。どれを選ぶかは、段 1 にいちばん近づくかどうかで比べます。
手順 4:段 1 を 1 行で確かめる
書き出した段 1 を、指示した人に確かめます。
来週の資料の件、「新しい手順を導入するかを会議で決めていただく」ためのもの、という理解で合っていますか。そうであれば、判断に要る 3 点を 1 枚目にまとめ、詳細を後ろに付ける構成で進めます。
目的が合っていれば、10 ページという指定は手段の 1 つとして相談できるようになります。結論を先に置いて伝える組み立て方は、結論から話せない原因と直し方で整理しています。
構造化で失敗しやすい点
上に上がりすぎる
「会社の成長のため」まで上がると、どの手段も正しく見えます。自分の作業が影響を与えられる段で止めるのが目安です。多くの場合、それは 1〜2 段上です。
目標の数字を目的の欄に書く
「受注 3 件」は目標です。目的の欄には、数字の奥にある状態(「新しい取引先との関係ができている」など)を書きます。数字しか書けないときは、その数字を上げたい理由を「なぜ」で 1 段たどります。
手段を 1 つしか書かない
手段が 1 つだけだと、それが目的と見分けられなくなります。手順 3 で必ず 2 つ以上出すのは、手段を比べられる状態にするためです。
確かめないまま、自分の解釈で進める
自分で書いた段 1 は、あくまで仮です。確かめないまま手段を変えると、「指示と違う」と受け取られます。上司の指示が途中で変わることが多い職場では、確かめた内容をテキストで残しておくと、後から話を戻せます。やり方は上司の指示が二転三転する原因で整理しています。
書き出すこと自体が目的になる
段の図をきれいに作ることに時間をかけると、それこそ手段の目的化です。1 件につき数分、段 0〜2 と手段 2 つが書ければ十分です。
目的と手段は、言葉の種類ではなく位置で決まります。次に指示を受けたら、「なぜ」を 1 回だけ上にたどり、その答えを相手に確かめてみてください。それだけで、同じ作業でも力を入れるところが変わります。関連する記事はビジネス基礎の一覧にまとめています。
参考資料
- Herbert A. Simon『Administrative Behavior: A Study of Decision-Making Processes in Administrative Organization』Macmillan, 1947年



