身近な先輩や同僚が続けて辞めていくとき、いちばん早く変わるのは残った側の仕事の中身です。引き継ぎのない工程が回ってきて、質問できる相手がいないまま運用することになります。
この記事は、組織をどう立て直すかの話ではなく、残された側がこの数か月で何を見て、何をしておくかを扱います。
辞めた理由は、評価だけではない
「優秀な人が辞めるのは評価制度のせい」という説明はよく見かけますが、国の調査の分類ではもう少し分散しています。厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」で、転職入職者が前職を辞めた理由をみると、次のようになっています(「その他の個人的理由」「その他の理由」を除く)。
| 理由 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 給料等収入が少なかった | 10.1% | 8.3% |
| 労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 8.6% | 12.8% |
| 職場の人間関係が好ましくなかった | 9.0% | 11.7% |
| 会社の将来が不安だった | 7.4% | 5.1% |
| 仕事の内容に興味を持てなかった | 4.4% | 3.6% |
| 能力・個性・資格を生かせなかった | 3.8% | 3.7% |
「能力・個性・資格を生かせなかった」は、数字のうえでは上位ではありません。評価への不満は、単独で辞める理由になるというより、条件面の不満と重なって現れると読むほうが実態に近くなります。
前年と比べて上昇幅が最も大きかったのは、男性では「会社の将来が不安だった」の2.2ポイントでした。男性の30〜34歳ではこの理由が14.9%と、その年齢帯で最も高くなっています。中心的な役割を担っていた層が抜けていく背景に、将来の見通しの問題が入っていることは珍しくありません。
会社側も、問題としては認識している
厚生労働省の「令和6年度能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとした事業所が79.9%にのぼります。その内訳は次の通りです。
| 問題点(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 指導する人材が不足している | 59.5% |
| 人材を育成しても辞めてしまう | 54.7% |
| 人材育成を行う時間がない | 47.4% |
| 鍛えがいのある人材が集まらない | 26.7% |
| 育成を行うための金銭的余裕がない | 14.5% |
「人材を育成しても辞めてしまう」が2番目に高いという点が、残された側にとっては重要です。会社側も離職を問題として挙げてはいるものの、同時に指導する人材と時間が足りないと答えています。つまり、人が抜けた穴を教育で埋め直す余力は、多くの職場でもともと不足しているということです。
期待して待つより、自分の側で先に手を打つほうが現実的です。
「うちは多い」を確かめる
人が続けて辞めると、実際以上に多く感じられます。基準になる数字を1つ持っておくと、落ち着いて見られます。
同じ「令和6年雇用動向調査」によれば、令和6年1年間の離職率は14.2%、入職率は14.8%で、前年と比べて離職率は1.2ポイント低下しています。就業形態別では、一般労働者の離職率が11.5%、パートタイム労働者が21.4%です。
おおまかに言えば、常用労働者の7人に1人前後は1年のあいだに職場を離れている計算になります。自分の部署の人数と、この1年で辞めた人数を並べてみてください。そのうえで、数が多いかどうかより、次の3点が起きているかのほうが判断に効きます。
- 辞めた人の担当工程に、手順の文書が残っていない
- 辞めた理由が共有されず、同じ理由が繰り返されている
- 抜けた分の仕事が、誰の担当かを決めないまま回っている
3つとも当てはまる場合、人数の多寡にかかわらず、残った側の負担は加速度的に増えます。
残された側が、最初にやること
1. 引き継がれていない工程を一覧にする
辞めた人が担っていた仕事のうち、手順が文書になっていないものを書き出します。次の3列で十分です。
| 工程 | 手順の文書 | 迷ったときに聞ける相手 |
|---|
3列目が空欄の行が、いちばん危ない行です。その行については、着手する前に誰に確認するかを決めておきます。決まらない場合は、その旨を含めて上長に一覧を渡してください。人の評価の話ではなく工程の話として持ち込むほうが、対応が具体的になります。
2. 増えた業務を、引き受けた時点で書き残す
口頭で引き受けた業務は記録が残らないため、後から「担当していた」と説明しづらくなります。引き受けた日、業務名、範囲(どこまでを自分が持つか)をメールやチャットで共有しておくと、評価の場面でも引き継ぎの場面でも使えます。
3. 自分の説明材料を貯める
負担が増えている時期は、材料が貯まる時期でもあります。新しく持った工程について、最初の状態・自分が判断したこと・結果の3行を残しておいてください。残る場合も出る場合も、この記録が判断材料になります。 進め方は成長できない焦りの正体|社内でしか効かない力の見分け方で扱っています。
続けるかどうかを決める前に
自分も辞めるべきかを急いで決める必要はありません。ただし、決める材料は先に集めておくほうが選択肢が増えます。
- 自分の1週間の時間が、どの区分に吸われているかを数える
- その区分が、職場を変えれば減るものか、自分の進め方で減らせるものかを切り分ける
- 減らせる側を先に試し、実際に減るかを見る
この手順は生産性が低い会社を辞めたいとき|残るか出るかの見極め方で詳しく扱っています。教育の仕組みが弱い職場で自分の記録を作る方法はOJTで放置されるとき|下積みで力がつく職場との違いにまとめました。
つまずきやすいところ
- 辞めた人の評価の話にする:工程の話に置き換えたほうが対処が進みます
- 引き受けた業務を口頭のままにする:記録がないと評価も引き継ぎも難しくなります
- 自分だけが我慢すれば回ると考える:一覧にして共有するまでが対処です
- 勢いで決める:材料を貯めてからのほうが、残る選択も出る選択も精度が上がります
心身の負担が大きくなっている場合は、勤務先の相談窓口や、産業医・地域の相談機関に早めに相談してください。
出典
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概要」(入職と離職の推移、転職入職者の状況)
- 厚生労働省「令和6年度『能力開発基本調査』の結果」(調査結果の概要)



