作業にかかる時間の見積もりが毎回短く出るのは、気合いや注意が足りないからではありません。見積もるとき、人は今回の段取りを頭の中でなぞって、時間を足し上げます。このやり方では、段取りに出てこない待ち時間・手戻り・割り込みが抜けます。しかも、前に同じ作業にかかった時間を、実際より短く覚えていることが分かっています。

直し方は、見積もりの材料を「頭の中の段取り」から「記録」に替えることです。作業を小さく分け、記録した実績を基準にし、1つの数字ではなく楽観・最も可能性が高い・悲観の3つの数字で出し、余裕は作業ごとではなく最後にまとめて持ちます。

見積もりが短く出る4つの理由

1. 段取りをなぞって足し上げている

心理学者のダニエル・カーネマンとダン・ロバロは、1993 年の論文「Timid Choices and Bold Forecasts」(学術誌 Management Science)で、カーネマン自身の体験を紹介しています。1976 年、高校向けの教材づくりのチームで完成までの月数を各自に書いてもらうと、答えは 18〜30 か月でした。ところが、同じような教材づくりを多く見てきた専門家に「ほかのチームは、この段階からどれくらいかかったか」と聞くと、約 4 割は途中で断念し、完成したものも 7〜10 年かかっていたと答えました。実際に完成したのは、およそ 8 年後でした。

論文は、目の前の計画と障害から先を思い描く見方を内側の見方、似た事例の実績の分布から見る見方を外側の見方と呼び、人は放っておくと内側の見方を選ぶとしています。段取りをなぞる見積もりは、「すべて段取りどおりに進んだ場合」の時間になりやすい、ということです。

2. 過去にかかった時間を、短く覚えている

「前回は 2 時間くらいだった」という記憶も、当てになりません。マイケル・ロイらの 2005 年の論文(学術誌 Psychological Bulletin)は、多くの研究を見直したうえで、人は過去の出来事にかかった時間の記憶をもとに先を見積もるものの、その記憶自体が実際より短いことを示し、それが先の見積もりが短くなる理由の 1 つだとしています。経験を生かそうとしても、記憶に頼る限り、見積もりは短いままです。

3. 作業の一覧に出てこない時間がある

見積もりに入れ忘れやすいのは、次のような時間です。

  • 相手の返事や承認を待つ時間
  • 確認で指摘を受けて直す時間(手戻り)
  • 資料やファイルを探す時間、準備と片付け
  • 問い合わせや急ぎの依頼への対応(割り込み)

どれも「作業」として書き出されないので、足し上げた合計に入りません。

4. 見積もりが、希望や約束と混ざる

「水曜までにできる?」と聞かれてから見積もると、数字は水曜に寄っていきます。見積もりは「どれくらいかかりそうか」という予測で、期限は「いつまでに出すか」という約束です。この 2 つを同じ場で決めると、予測が約束に合わせて縮みます。

なお、見込みが楽観に寄ることを示した卒業論文の研究の数字と、期日を予定表に置く方法は期日管理のやり方で紹介しています。

自分の見積もりのくせを点検する

次の項目で、いまの見積もり方を確かめてください。

  • 見積もるとき、作業を 1 日以内の単位に分けている
  • 過去の同じような作業の実績を、記録で確かめている
  • 待ち時間・手戻り・割り込みを、見積もりに入れている
  • 見積もりを 1 つの数字ではなく、幅で出している
  • 期限を言われる前に、自分の見積もりを出している
  • 終わった作業の実際の時間を書き残している

くせを数字で見るには、終わった作業の見積もりと実績を並べ、実績÷見積もりを出します。カーネマンとロバロの論文も、種類の違う計画を比べる単位として「実際の支出÷予定の支出」のような比率を挙げています。

作業(例)見積もり実績実績÷見積もり
月次報告の作成3 時間4.5 時間1.5
取引先向け提案書の修正2 時間2.5 時間1.25
会議資料の集計1 時間2 時間2.0
新人向け手順書の作成4 時間6 時間1.5
見積書の作成1.5 時間1.5 時間1.0

5 件ほど集まれば、自分の見積もりがどれだけ短く出るかの目安になります。この例なら、多くの作業で 1.5 倍前後かかっています。1 件だけ飛び抜けて大きいもの(例の会議資料)は、何が起きたかを書いておくと、次に同じ種類の仕事を見積もるときの注意書きになります。

所要時間を外さない見積もりの手順

1. 終わった状態を 1 文で決める

「提案書を直す」では、どこまでやれば終わりかが決まりません。「指摘された 5 か所を直し、課長の確認を通った版を先方に送った状態」のように、終わりを 1 文で書きます。終わりが決まらないまま見積もった数字は、比べようがありません。依頼を受けるときに完了の条件を確かめる方法は、期待値調整の手順で扱っています。

2. 作業を 1 日以内の単位に分ける

大きな塊のまま見積もると、段取りをなぞる見方に戻ります。1 件が長くても 1 日で終わる大きさまで分けると、1 件ごとに過去の実績と比べやすくなります。分け方そのものはWBSの作り方で手順にしています。

3. 記録した実績を基準にする

分けた作業ごとに、記録にある同じような作業の実績を探し、それを出発点にします。これが外側の見方です。自分の記録がなければ、同じ作業をしたことのある同僚に「前回どれくらいかかりましたか」と聞き、それも無い初めての作業は、次の手順の幅を広めに取ります。

4. 楽観・最頻・悲観の 3 つの数字で見積もる

1 つの数字で出すと、ずれたときにどれくらいずれうるのかが分かりません。作業ごとに 3 つの数字を出します。

  • 楽観:詰まらずに進んだとき
  • 最頻:いちばんありそうな進み方のとき
  • 悲観:よくある詰まり方をしたとき(最悪の事態ではありません)

3 つの数字から期待値を出すやり方は、1959 年に米海軍のミサイル開発計画の管理手法として発表された PERT(学術誌 Operations Research に載った D. G. マルコムらの論文)以来、広く使われています。

期待値 =(楽観 + 4 × 最頻 + 悲観)÷ 6

例:楽観 2 時間、最頻 3 時間、悲観 7 時間 →(2 + 12 + 7)÷ 6 = 3.5 時間

悲観の数字が大きい作業ほど、期待値は最頻より長くなります。最頻だけを足し上げた合計が短く出るのは、この差が抜けるからです。

5. 余裕は最後にまとめて持つ

作業ごとに少しずつ余裕を足すと、その余裕は使い切られがちです。歴史家の C. N. パーキンソンは、1955 年に英誌 The Economist に載せた風刺のエッセイで、仕事は完成までに使える時間いっぱいに膨らむと書きました。風刺ではありますが、身に覚えのある人は多いはずです。

作業ごとの見積もりは期待値のまま置き、余裕は全体の最後に 1 つの「予備」として置きます。予備の大きさは、点検の表で出した自分の比率を目安に決めます。途中で予備をどれだけ使ったかを見れば、遅れの度合いも分かります。

6. 幅と前提を添えて伝える

見積もりを伝えるときは、数字に幅と前提を添えます。

提案書の修正は、4〜6 時間を見ています。A 社からのデータが今日中に届く前提です。届くのが明日になる場合は、半日ずれます。

前提が崩れたときに見積もりを出し直す理由が、最初から相手に伝わります。期限をいつにするかは、この見積もりを予定表の空き時間に置いてみてから決めます。

7. 終わったら実績を書く

作業が終わったら、実際にかかった時間を見積もりの横に書きます。1 行で構いません。これが次の見積もりの材料になり、点検の表の比率も新しくなります。記録が無いと、次もまた記憶に頼ることになります。

見積もりを使うときの落とし穴

値切られた見積もりで約束する

見積もりを短く言い直しても、作業は減りません。期限が動かせないなら、時間ではなく範囲を調整します。「水曜に出すなら、比較表を外して本文だけにできます」のように、何を外せば間に合うかを示して選んでもらいます。

余裕を隠して積む

叱られないように、見積もりの中にこっそり余裕を足しておくと、毎回早く終わるか、余裕の分だけ作業が膨らみます。どちらも、次からの見積もりを信用されなくなる原因です。余裕は「予備」として見える形で置きます。

悲観を最悪にしすぎる

悲観の数字に「担当者が全員休んだら」まで入れると、見積もりが使えないほど長くなります。悲観は、過去に実際にあった詰まり方の範囲で置きます。

量の多さを、見積もりの精度の問題にする

見積もりを正確にしても、週に使える時間を超える量を持っていれば、どれかは遅れます。その場合は見積もりの問題ではなく、持っている仕事の量の問題です。担当の範囲があいまいなまま仕事が集まる場合の整理の仕方は、業務範囲が曖昧で仕事が増えるときにまとめています。


見積もりを外さないために、まず始めるのは記録です。今週終わる作業を 5 件選び、着手前に見積もりを書き、終わったら実績を横に書いてみてください。5 件の比率が出れば、次の見積もりから使えます。仕事の進め方にかかわるほかの記事は、ビジネス基礎の一覧から探せます。

参考資料

  • Daniel Kahneman, Dan Lovallo「Timid Choices and Bold Forecasts: A Cognitive Perspective on Risk Taking」Management Science, 39(1), 1993年
  • Michael M. Roy, Nicholas J. S. Christenfeld, Craig R. M. McKenzie「Underestimating the Duration of Future Events: Memory Incorrectly Used or Memory Bias?」Psychological Bulletin, 131(5), 2005年
  • D. G. Malcolm ほか「Application of a Technique for Research and Development Program Evaluation」Operations Research, 7(5), 1959年
  • C. Northcote Parkinson「Parkinson’s Law」The Economist, 1955年11月19日