仕事を任されない、聞いても教えてもらえない。職場で放置される状態の多くは、上司に教える余力がない、あなたの役割が決まっていないといった職場の事情から起きます。この場合は、こちらから役割と仕事を具体的に求めれば動くことがあります。
一方で、嫌がらせのために仕事を与えない、長いあいだ仕事から外して孤立させる、といった扱いは、厚生労働省の指針でパワーハラスメントの「過小な要求」や「人間関係からの切り離し」の例に挙がっています。どちらに当たるかは個別の事情で変わるため、まず記録を取って仕事を求め、続くなら社内外に相談します。放置の期間にしたことも記録し、後で説明できる経験に変えておきます。
放置が起きる4つの型
放置のされ方は同じでも、起きている理由は違います。理由によって、効く手も変わります。
1. 教える側に余力がない
上司や先輩が自分の仕事で手一杯で、渡す仕事を切り出す時間も、教える時間もない型です。教育の計画がないまま仕事を覚えるよう求められる状態は、OJTで放置されるときで国の調査の数字とともに扱っています。
2. 役割が決まっていない
異動や中途入社のあと、何を担当するかが決まらないまま日が過ぎる型です。上司の側も、あなたに何を期待しているかを言葉にしていないことがあります。
3. 失敗のあとに外されている
ミスやトラブルのあと、担当から外されたまま戻されない型です。一時的に仕事を軽くするのは珍しいことではありませんが、いつ、どうなれば戻るのかが示されないまま続くと、放置と変わらなくなります。
4. 意図的に外されている
気に入らない、辞めさせたい、といった理由で、わざと仕事を与えない、会議や連絡から外す型です。この型は、次の章で見るとおり、パワハラに当たる可能性があります。
1〜3 の型は、自分から働きかけることで変わる余地があります。4 の型は、個人の工夫で直すものではありません。
パワハラに当たりうるかを確かめる
厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)は、パワハラの代表的な類型を 6 つ挙げています。放置に近いのは、次の 2 つです。
| 類型 | 指針が「該当すると考えられる例」として挙げるもの | 「該当しないと考えられる例」として挙げるもの |
|---|---|---|
| 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないこと) | 管理職を退職させるため、誰でもできる業務を行わせること/気に入らない労働者に、嫌がらせのために仕事を与えないこと | 労働者の能力に応じて、一定程度、業務の内容や量を軽くすること |
| 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視) | 意に沿わない労働者を仕事から外し、長期間、別室に隔離したり自宅研修させたりすること/同僚が集団で一人を無視し、職場で孤立させること | 新しく採用した人を育てるため、短期間集中的に別室で研修をすること/懲戒処分を受けた人に、通常業務に戻る前に一時的に別室で必要な研修を受けさせること |
(表の中の例は、指針の文言を短くまとめたものです)
指針は、これらの例は限られたものではなく、個別の事案の状況によって判断が異なる場合もあるとしています。パワハラに当たるのは、優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、働く環境が害されるものという 3 つの要素をすべて満たす場合で、目的・経緯・続いた期間などを総合して判断されます。ですから、「仕事が少ない」ことだけで当たるとは言えませんし、逆に「嫌がらせではないと言われた」ことだけで当たらないとも言えません。
見分けの手がかりは、次の点です。
| 見るところ | 余力不足・調整の不足に近い | 意図的な切り離しに近い |
|---|---|---|
| 仕事を求めたときの反応 | 「今は忙しい」「来週考える」と先送りされる | 求めても理由なく断られる、無視される |
| ほかの人との違い | 同じ部署の人も同じように手が空いている | 自分だけが外されている |
| 情報の流れ | 伝え忘れはあるが、聞けば教えてもらえる | 会議やメールの宛先から、自分だけが外される |
| 始まった時期 | 異動や繁忙期など、きっかけがはっきりしている | 意見を言った後、対立の後などから始まった |
| 期間の見通し | 「〇月から担当してもらう」など見通しが示される | 見通しが示されないまま長く続く |
厚生労働省の委託調査「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(2024 年公表)では、過去 3 年間にパワハラを受けた人(1,546 人)が受けた内容として、「隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)」を 27.8%、「能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)」を 24.5%が挙げています。どちらも、令和 2 年度の前回調査(20.5%、21.2%)より高くなっています。
放置されたときに取る手順
1. 2 週間、事実を記録する
まず、放置の実態を事実で残します。自分を守るためにも、相談するためにも、この記録が土台になります。
- 日付と、その日に与えられた仕事(無ければ「なし」)
- 仕事がなかった時間(例:9 時〜12 時、指示なし)
- 自分から求めたこと、求めた相手と手段(口頭・メール・チャット)
- 返ってきた言葉を、できるだけそのまま
- 外された会議や連絡(例:部内の定例の招待が自分にだけ来なかった)
感想ではなく、日時・言葉・回数で書きます。メールやチャットで仕事を求めた記録は、そのまま証拠になります。
2. 役割と期待を、面談で確かめる
いきなり「仕事をください」と言うより、役割と期待を確かめる形で、上司に 15 分ほどの時間をもらいます。
今の私の役割について、確認させてください。3 か月後にできていてほしいことと、そのために今月担当する仕事を決めたいと考えています。〇〇の集計と△△の資料の下準備なら、今週から私が持てます。
担当できそうな仕事を 2 つほど具体的に挙げると、上司は選ぶだけで済みます。面談で決まったことは、その日のうちにメールで送り、記録に残します。自分で決めてよい範囲を上司と決める方法は、指示待ちから抜け出す手順で扱っています。
3. 教えてもらえない仕事は、手順書を先に書く
仕事は渡されたが教えてもらえない、という形の放置なら、自分がやった手順を書き出して「この手順で合っているか確認してください」と持ち込みます。教える側の手間が数分で済むので、断られにくくなります。書き方は、先に挙げた OJT の記事にまとめています。
4. 放置の期間を、説明できる経験に変える
手が空いている時間に自分で始めたことは、後で説明できる経験になります。ただし、記録がなければ残りません。月に 1 度、次の形で書き出しておきます。
| 書くこと | 例 |
|---|---|
| 何を、なぜ始めたか | 問い合わせの回答が人によって違ったため、よくある質問 30 件の回答例をまとめた |
| どれだけやったか | 2 か月で 30 件、部内の共有フォルダに置いた |
| 結果、何が変わったか | 新しく入った 2 人が、回答例を見て一人で対応できるようになった |
| 誰が確かめられるか | 課長に共有済み、メールで返信あり |
勝手に大きな仕事を作ると、越権と受け取られることがあります。始める前に「〇〇をまとめてもよいですか」と一言断り、了承を記録に残します。こうした記録を職務経歴書でどう書くかは、第二新卒で実績がないと感じるときで扱っています。
5. 続くなら、社内外に相談する
2 と 3 を試しても変わらない、あるいは 4 の型(意図的な切り離し)に当てはまる点が多いときは、記録を持って相談します。
- 社内:ハラスメントの相談窓口、人事部門、上司のさらに上の役職者。パワハラの相談に応じる体制を整えることは、会社の規模にかかわらず事業主の義務です
- 社外:各都道府県労働局や労働基準監督署の中にある総合労働相談コーナー(無料・予約不要)、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)
- 法的な手続きを考えるとき:弁護士、法テラス
社内の窓口に何を求めて相談するか、社内で進まないときに労働局の助言・指導や調停をどう使うかは、コンプライアンス窓口とパワハラ相談で手順にしています。
眠れない、朝に体が動かない、出勤前に動悸がするといった状態が続くときは、仕事の対処より先に、産業医や医療機関への相談を優先してください。厚生労働省の「こころの耳」には、働く人向けの電話・SNS・メールの相談窓口がまとめられています。
放置されたときの落とし穴
- 忙しいふりをする。 手が空いていることを隠すと、上司から見れば「仕事は足りている」ことになり、放置が続きます。空いている時間は、記録に書いて伝えます。
- 黙って待ち続ける。 役割が決まっていない型なら、待っても決まりません。求めた記録が無いと、後で相談するときに「本人から何も言ってこなかった」と受け取られることもあります。
- 感情だけで抗議する。 「放置されてつらい」だけでは、相手も窓口も何をすればよいか分かりません。日時と事実、求めることを添えます。
- 全部を自分のせいだと考える。 放置の多くは、職場の余力や配置の問題です。自分で変えられるのは、求め方と記録の残し方までです。
- 辞めるかどうかを、記録なしで決める。 残るにしても動くにしても、何を求め、どう返されたかの記録が判断の材料になります。
仕事の受け方や期待のすり合わせにかかわるほかの記事は、ビジネス基礎の一覧から探せます。
参考資料
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
- 厚生労働省委託事業「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(2024年3月)
- 労働基準法 第26条(休業手当)



