タスクを分解できないのは、段取りの才能が足りないからではありません。多くの場合、思いつく作業を、やる順に書き出そうとしていることが原因です。この書き方では、確認・調整・手直しのような作業が抜け、どこまで細かく書けば終わりなのかも決まりません。

WBS(Work Breakdown Structure、作業分解構成図)は、この逆から始めます。先にできあがるもの(成果物)で分け、最後に作業へ落とします。上の段の中身を下の段が漏れなく受け持っているか、1 つの作業の担当が 1 人か、終わったかどうかが見て分かるかで、止めどころを決めます。

タスクを分解できない・漏れる仕組み

作業(動詞)から書き始めている

「調べる」「作る」「確認する」と作業から書き出すと、思いついた順の一覧になります。一覧には、頭に浮かんだ作業しか載りません。米航空宇宙局(NASA)の「Work Breakdown Structure Handbook」(2016 年改訂版)は、WBS を成果物を中心にした家系図と定義しています。作るものを先に並べれば、「この成果物を作るのに要る作業は何か」を 1 つずつ問えるので、漏れが見つかりやすくなります。

終わりが決まっていない

一番上の「何ができたら終わりか」が決まっていないと、分けた先の作業も決まりません。「研修の準備をする」ではなく「10 月 15 日に新人 12 人が研修を受け、アンケートの集計を人事に渡した状態」のように、終わりを先に書きます。終わりの状態から手段を選ぶ考え方は、手段の目的化を逆算で戻す手順で詳しく扱っています。

工程や部署で分けている

「設計・作成・確認」や「営業部の作業・総務部の作業」で分けると、一見整理されたように見えます。ところが、同じ成果物の作業が複数の箱に散らばり、どの成果物がどこまで進んだのかが見えなくなります。NASA のハンドブックも、設計や製造のような機能、部署、時期(フェーズ)で分けることを、よくある誤りとして挙げています。

止めどころの基準がない

細かさの基準がないと、「資料を作る」のような粗すぎる箱と、「フォントを直す」のような細かすぎる箱が混ざります。粗い箱は見積もれず、細かすぎる箱は管理の手間ばかり増えます。

よいWBSかを点検する

作った WBS を、次の表で確かめてください。

点検する項目満たしていないと起きること
一番上に、成果物と終わった状態が 1 文で書いてある分けた先の作業が決まらない
2 段目が成果物(名詞)で分かれている同じ成果物の作業が散らばり、進み具合が見えない
子を全部終えると、親が終わる漏れた作業が後から出てくる
子に、親の範囲外の作業が入っていない頼まれていない作業に時間を使う
最下段の作業ごとに、担当が 1 人決まっている誰もやらない作業が残る
最下段の作業ごとに、完了の条件が書いてある終わったかどうかで揉める
最下段の作業は、所要時間を見積もれる大きさになっている予定に置けない
確認・調整・手直し・連絡の作業も入っている作業の合計が実際より短く出る

3 つ目と 4 つ目は、プロジェクト管理の国際団体 PMI(米国プロジェクトマネジメント協会)の WBS の標準で「100% ルール」と呼ばれている考え方です。子の段の合計は親の段の 100% に等しく、それ以上でも以下でもない、というものです。NASA のハンドブックも、WBS は認められた範囲の仕事をすべて含み、範囲外の仕事を含めてはならないとしています。

WBSを作る手順

例として、「新人向けの社内研修を 10 月 15 日に実施する」仕事を分けます。

1. 一番上に、成果物と終わった状態を書く

新人向けの社内研修(10 月 15 日に 12 人が受講し、アンケートの集計を人事に渡した状態)

2. 2 段目を、成果物で分ける

できあがるもの、相手に渡すものを名詞で並べます。仕事全体を回すための連絡や調整も、1 つの箱として持ちます。NASA のハンドブックも、成果物だけでなく、プロジェクト全体の管理のような共通の作業を WBS に含めるよう求めています。

1 新人向け社内研修
├ 1.1 研修の案内
├ 1.2 教材
├ 1.3 会場と機材
├ 1.4 当日の運営
├ 1.5 アンケートの集計
└ 1.6 連絡・調整(講師・人事・受講者の上司)

3. 成果物を、さらに成果物か作業に分ける

1 つずつ「これを作るのに要るものは何か」を問います。

1.2 教材
├ 1.2.1 講義のスライド
│  ├ 1.2.1.1 構成案を作り、講師の了承を得る
│  ├ 1.2.1.2 スライドを作る
│  └ 1.2.1.3 講師の確認を受けて直す
├ 1.2.2 配布資料(スライドの抜粋と用語集)
└ 1.2.3 演習問題と解答

「確認を受けて直す」を独立した作業として書くのがこつです。作業の一覧に出てこない手直しの時間が、ここで表に出ます。

4. 止めどころを決める

次の 3 つがそろったら、その枝はそれ以上分けません。

  • 担当が 1 人に決まる(NASA のハンドブックは、最下段の作業のまとまり=作業パッケージを 1 つの組織に割り当てるものとしています)
  • 終わったかどうかが、見て分かる
  • 所要時間を見積もれる(個人の仕事なら、1 件が長くても 1〜2 日で終わる大きさが目安です)

目安の日数は決まりではありません。枝ごとに、管理できる細かさまで分ければ足ります。

5. 最下段に、担当と完了の条件を書く

最下段の作業を表にし、担当と完了の条件を書き添えます。NASA のハンドブックが「WBS 辞書」と呼んでいるもので、各要素の中身を文章で説明する添え書きにあたります。

番号作業担当完了の条件
1.2.1.1スライドの構成案を作り、講師の了承を得る自分講師から了承のメールが来ている
1.2.1.2スライドを作る自分構成案の全項目がスライドになっている
1.2.1.3講師の確認を受けて直す自分指摘がすべて反映され、講師が最終版と認めた
1.3.1会議室を予約する総務予約の確定画面を共有している

完了の条件は、自分以外の人が見ても判断できる形で書きます。

6. 親ごとに 100% を確かめる

親の箱ごとに、2 つの問いを当てます。

  • 子を全部終えたら、親は終わるか(足りない子はないか)
  • 子の中に、親の範囲外の作業はないか

1 つ目で「いいえ」なら子を足し、2 つ目で「はい」なら、その作業を外すか、依頼した人に範囲に入れるかを確かめます。

7. 見積もりと予定へつなぐ

最下段の作業ごとに所要時間を見積もり、合計を出します。見積もりが甘くなる理由と外さない出し方は仕事の見積もりが甘い原因で、作業の時間を予定表に置いて期日を守る方法は期日管理のやり方で扱っています。

よくある分け方の誤り

2 段目を工程で切る

「企画・作成・確認・実施」で分けると、教材の確認と会場の確認が同じ箱に入り、教材がどこまで進んだのかが見えなくなります。工程は、成果物の下の作業として書きます。

細かくしすぎる

「ファイルを開く」まで分けると、一覧を直す手間が作業そのものより重くなります。NASA のハンドブックも、各枝は管理と把握に必要なところまで分ければよいとしています。

先の作業まで同じ細かさで分ける

数週間先の作業は、今の時点では中身がはっきりしないことがあります。NASA のハンドブックは、近い仕事は作業パッケージとして細かく、遠い仕事は「計画パッケージ」としてまとまりのまま置く形を示しています。先の作業は粗いまま置き、近づいたら分けます。

作って終わりにする

仕事を進めると、足りない作業や不要になった作業が出てきます。NASA のハンドブックも、WBS づくりは繰り返しの作業で、変更したときは理由を残すよう求めています。週に 1 度など、区切りを決めて見直します。

一人で作る

自分が知らない作業は、自分の WBS には出てきません。実際に作業する人や、前に同じ仕事をした人に見てもらうと、抜けている箱が見つかります。


WBS で最初にやることは、作業を書くことではなく、一番上に終わった状態を書き、2 段目を成果物で分けることです。いま抱えている数日以上かかる仕事を 1 つ選び、紙に 3 段だけ書いてみてください。仕事の進め方にかかわるほかの記事は、ビジネス基礎の一覧から探せます。

参考資料

  • NASA「NASA Work Breakdown Structure (WBS) Handbook」NASA/SP-2016-3404/REV1, 2016年10月
  • Project Management Institute「Practice Standard for Work Breakdown Structures」