なぜなぜ分析が「意味ない」と言われるのは、手法そのものより、使い方が崩れていることが多いからです。よくあるのは、「なぜ」を手順や道具ではなく人の心に向けて「確認が甘かった」「意識が低かった」にたどり着き、対策が「注意を徹底する」で終わる形です。これでは分析というより反省文で、同じミスはまた起きます。

本来のなぜなぜ分析は、機械や手順のように原因と結果の筋が一本でたどれる問題に向いた道具です。使うときは、「なぜ」を物・手順・情報に向け、答えが分かれたら枝分かれを許し、5 回という数ではなく手を打てるところで止めます。人や部署が絡み合う出来事では、一本の鎖だけでは原因を取りこぼすため、ほかの整理と組み合わせる必要があります。

なぜなぜ分析はどこから来たか

なぜなぜ分析は、トヨタ自動車の元副社長・大野耐一の著書『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』(ダイヤモンド社、1978 年)で紹介された「なぜを 5 回繰り返す」考え方が元になったとされています。

米国の Lean Enterprise Institute の用語解説は、この本の英語版(1988 年)から、機械が止まった例を引いています。流れは次のとおりです。

  1. 機械が止まったのはなぜか → 負荷がかかりすぎて、ヒューズが切れたから
  2. 負荷がかかりすぎたのはなぜか → 軸受けの潤滑が足りなかったから
  3. 潤滑が足りなかったのはなぜか → 潤滑ポンプが十分にくみ上げていなかったから
  4. くみ上げていなかったのはなぜか → ポンプの軸が摩耗してがたついていたから
  5. 摩耗したのはなぜか → こし器(ストレーナー)が付いておらず、金属の削りくずが入ったから

同じ解説は、「なぜ」を繰り返さなければ、ヒューズやポンプを取り替えるだけで終わり、故障は再び起きると説明し、5 という回数そのものに意味はなく、根本の原因に行き着いて取り除くまで問い続けることが大事だとしています。

この例で見ておきたいのは、どの段の答えも物と仕組みで、最後の対策も「こし器を付ける」という物の変更になっている点です。「作業者の点検が甘かった」という答えは、どこにも出てきません。

意味がなくなる 5 つの崩れ方

職場のなぜなぜ分析が意味を失うときは、たいてい次のどれかが起きています。

崩れ方報告書に出る形再発防止にならない理由
「なぜ」を人の心に向けるなぜ確認しなかったか → 慣れて油断していたから心の状態は直接変えられず、対策が「気をつける」しか残らない
1 本の鎖だけをたどる原因が 1 つにまとまっているほかの要因(締め切り、画面の似た表示など)が取りこぼされる
5 回に合わせて止めるちょうど 5 段で終わっている3 段で十分な問題も、8 段必要な問題もある
答えを確かめない推測が事実のように並ぶ間違った段の上に対策を立ててしまう
分析する人が一人当事者だけが書いている自分の手順の弱点は、自分には見えにくい

医療の安全の分野では、アラン・J・カードが 2017 年の論説「The problem with ‘5 whys’」(学術誌 BMJ Quality & Safety)で、根本原因分析の道具としての使い方を批判しています。1 つの因果の筋につき原因を 1 つしか挙げられないこと、5 番目の「なぜ」が最も手を打つべき場所とは限らないこと、複雑な出来事を単純にしすぎることなどを挙げ、教える道具としての価値は認めつつ、複雑な現場の分析には別の方法を使うべきだと論じています。

向く問題と、向かない問題

なぜなぜ分析が役に立つかは、問題の形で変わります。

見るところ向いている向いていない
原因と結果のつながり一本の筋でたどれる(機械の故障、手順の抜け)複数の要因が同時に重なっている
関わる人・部署1 つの作業、1 つのチーム複数の部署、取引先、システムにまたがる
確かめる材料現物・記録・画面で答えを確かめられる人の記憶や印象に頼るしかない
対策を打てる人分析したチームの中にいる分析した人の手が届かない

右の列に当てはまる出来事では、先に経過を時系列で書き出し、関わった要因を「人・手順・道具・環境」のように広く並べてから、要因ごとに短く「なぜ」をたどるほうが、取りこぼしが減ります。要因を魚の骨の形に並べる特性要因図(フィッシュボーン図)は、この広く並べる段階に向いた道具です。

意味のあるなぜなぜ分析の手順

手順 1:問題を、事実で 1 文に書く

「いつ・どこで・何が・どれだけ起きたか」を書きます。「誰が」は書きません。

  • 悪い例:A さんが請求書を間違えて送った
  • よい例:9 月 26 日、B 社宛ての請求書が C 社に送られた(1 件)

主語が人になると、次の「なぜ」も人に向かいます。事実と解釈の分け方は、事実と解釈を分ける考え方で整理しています。

手順 2:現物と記録を見る

推測で答える前に、送信の記録、画面、手順書、当日の作業量など、確かめられるものを集めます。答えを記録で確かめられない段は、「推測」と書いておきます。

手順 3:「なぜ」を物・手順・情報に向ける

人の心に向いた問いは、手順の問いに言い換えます。

人に向いた問い手順に向けた問い
なぜ確認しなかったのか宛先を確認する手順は、どの時点にあったか。そのとき働かなかったのはなぜか
なぜ気づかなかったのか間違いに気づける表示や仕組みはあったか
なぜ急いだのかその日の締め切りと作業量は、どう決まっていたか

請求書の例なら、たとえば「宛先の入力欄が自動補完で、社名の似た C 社が先に出た」「送信前に宛先を確かめる手順が手順書になかった」のように、手を打てる答えに届きます。

手順 4:答えが分かれたら、枝分かれさせる

1 つの「なぜ」に答えが 2 つ出たら、無理に 1 つに絞らず、両方の枝をたどります。原因が 1 つにまとまりすぎた分析は、何かを取りこぼしていると疑うほうが安全です。

手順 5:逆から「だから」で読み返す

いちばん下の答えから上に向かって「〇〇だった。だから△△が起きた」と読み返します。つながらない段があれば、そこに飛躍があります。

手順 6:手を打てるところで止める

5 回に届かなくても、自分たちで変えられる原因に着いたら止めます。逆に「会社の方針が悪い」まで上がると、誰も手を打てません。

手順 7:対策は「気をつける」で終わらせない

対策を、人を訓練する・間違えにくくする・すぐ発見できるようにする・影響を小さくする、の 4 段で出します。4 段の考え方と職場での決まりの作り方は、ミスを責めずに再発を防ぐ手順で詳しく扱っています。対策には、効いたかを確かめる日も決めておきます。

実行するときの落とし穴

  • 分析の場が詰問になる。 上司が当事者に「なぜ?」を繰り返すと、分析ではなく責める場になり、次から報告が遅れます。「なぜ」は人ではなく、書き出した経過の表に向けて問います。強い口調で問い詰められたときの返し方は、上司に詰められるときの対処で整理しています。
  • 報告書の様式を埋めることが目的になる。 「なぜ」の欄が 5 つある様式は、5 つ埋めることを求めているように見えます。欄の数に合わせて答えを作らないようにします。
  • 対策が増えるだけで、減らない。 分析のたびに確認の段を足していくと、手順は重くなります。新しい対策を入れるときは、効いていない古い確認を外せないかも一緒に見ます。
  • 当事者が自分を責め続ける。 分析の目的は、次に同じことが起きない形を作ることです。「どこで気づけたか」と「何を変えるか」が書けたら、振り返りは終わりにします。

なぜなぜ分析は、「なぜ」を人ではなく物と手順に向け、手を打てるところで止めれば、今も使える道具です。次に分析を求められたら、まず問題の文から人の名前を外し、「何が起きたか」の 1 文を書くところから始めてください。ミスと自己管理にかかわるほかの記事は、メンタル・自己管理の記事一覧にまとめています。

参考資料