報告に行くたびに、ため息をつかれる。舌打ちが聞こえる。そのうち、話しかけるタイミングを見計らうことに神経を使うようになり、本来の仕事より疲れる。

上司の性格を変えることはできません。ただ、不機嫌を引き出しやすい報告の形は確かにあって、そこは自分の側で変えられます。この記事では、何が相手の手間を増やしているのかを確認したうえで、事実だけで伝える型、感情的なやり取りになったときの戻し方、そして指導とハラスメントの線引きと相談先を整理します。

不機嫌の多くは、相手の手間が増えたときに出る

上司の立場から、次の2つの報告を並べてみてください。

A:「◯◯社の件、だいたい大丈夫だと思います」

B:「◯◯社の件、5項目のうち4項目が完了しました。残る1項目は先方の確認待ちで、明日中に回答が来る予定です」

Aを受け取った上司は、この一言から何も判断できません。本当に大丈夫なのか、何が残っているのか、いつ終わるのか。確かめるには、質問を重ねるしかありません。確認の手間が増えたぶんが、口調に出ます。

Bなら、聞き返す必要がありません。判断すべきことがあれば、そのまま判断できます。

つまり、こちらが曖昧に話すほど、相手の作業は増えます。増えた作業が不機嫌になって返ってくる、という循環です。ここは、自分の側だけで切れます。言い方を数字に直す具体的な手順は報告の曖昧な表現をやめるで整理しています。

「どうしましょうか」をやめる

もう1つ、相手の手間を増やすのが伺い型の報告です。

✕ ◯◯社の件、どうしましょうか。

○ ◯◯社の件、1と2のどちらかで進めたいです。私は1を推します。本日17時までにご判断いただけますか。  1. 納期を1週間延ばす(品質はそのまま)  2. 納期は変えず、確認工程を1回減らす

上は、状況の把握・選択肢の検討・回答の作成を、まとめて相手に渡しています。下は、選ぶだけで終わります。

「自分で案を出したら、間違っていたときに叱られるのでは」と思うかもしれません。ただ、案が外れたときに言われるのは「なぜそう考えたのか」です。これには答えられます。一方、案を出さなかったときに言われるのは「君はどうしたいの」で、こちらのほうが答えづらい質問です。

案を添える形は、報告全体を結論から組み立てると自然に出てきます。組み立て方は結論から話せない原因と直し方を参照してください。

機嫌で「出す時期」を決めない

「今日は機嫌が悪そうだから、明日にしよう」。これは誰でもやることですが、基準にすると危険です。言いにくい話ほど、機嫌の良い日を待つことになり、結果として最も遅れます。

分けて考えてください。

決めること何で決めるか
出すかどうか、いつ出すか自分で決めた条件(期限に影響が出た、判断が必要になった、など)
どの手段で出すか相手の状況(忙しさ、その場の様子)

手段は相手に合わせてよいのです。忙しそうなら話しかけずにチャットで送る。感情的になりやすい相手なら、記録が残る形で送る。時期だけは自分の基準で決めます。条件の決め方は報連相が遅れる原因で整理しています。

テキストで送ることには、もう1つ利点があります。内容と時刻が残ることです。後から「そんな話は聞いていない」と言われたときに、確かめる手段があります。口頭だけで済ませると、この手段がありません。

ただし、緊急度が高いものをテキストだけで送るのは避けてください。「いまお時間よろしいですか。詳細はチャットに送りました」と一声かけてから送る形が、最も摩擦が少なくなります。

聞かれる前に出す形を作る

確認されるたびに気まずい思いをしているなら、確認される回数そのものを減らすほうが早く済みます。

やり方は簡単です。決まった曜日と時刻に、同じ形式で進捗を出します。

【週次・月曜10時】 ・◯◯社:5項目中4項目完了。残1は先方確認待ち(明日回答予定) ・△△社:着手済み。金曜に一次版 ・待ち:経理部からの費用配分の回答(2営業日経過)

3行で構いません。相手は、聞かなくても状況が分かります。状況が見えないときほど、人は確認を増やします。見えていれば、増やす理由がなくなります。

この記録には、自分を守る働きもあります。うまくいっていない時期の記録が残っていれば、後から「何もしていなかった」と言われたときに、いつ何をしたかを示せます。良いときだけ報告していると、この記録が残りません。

感情的なやり取りになったとき

事実で報告しても、相手が感情的になることはあります。このとき、言い返したくなるのは自然なことですが、その場で議論を広げても得るものはありません。

安全なのは、用件に戻すことです。

相手:「なんでもっと早く言わないんだ。いつもそうだろう」 自分:「ご指摘は承知しました。いま決めていただきたいのは、期限を動かすかどうかです。本日17時までにご判断いただけますか」

反論していませんし、必要以上に謝ってもいません。「承知しました」で一度受け、そのまま用件に戻しています。

謝罪を重ねるのは、避けたほうが無難です。「すみません、本当にすみません」を繰り返すと、話が謝罪の場になり、判断が進みません。謝るのは一度、短く。そのうえで用件に戻します。

その場でどうしても収まらないときは、「いったん整理して、15分後にあらためてご相談します」と言って離れてよいです。離れること自体は失礼にあたりません。

なお、こうしたやり取りが続いて消耗しているときは、やる気や集中力の問題として自分を責めないでください。原因の切り分け方は仕事のやる気が出ない原因で整理しています。

指導とハラスメントの線引き

不機嫌な態度が続くとき、「これは指導の範囲なのか」と迷うことがあります。基準は公表されています。

厚生労働省の「あかるい職場応援団」によると、職場のパワーハラスメントとは、次の3つをすべて満たすものです。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であって
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

そのうえで、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません」とされています。

代表的な言動の類型として、厚生労働省は次の6つを挙げています。

  • 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
  • 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  • 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制)
  • 過小な要求(能力とかけ離れた程度の低い仕事を命じること等)
  • 個の侵害(私的なことへの過度な立ち入り)

事業主には、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事実確認と適正な対処、プライバシーの保護、職場環境の改善といった雇用管理上の措置が義務付けられており、中小企業についても2022年(令和4年)4月1日から適用されています。

自分のケースが当てはまるかどうかの判断は、一人で抱え込まないでください。社内の相談窓口のほか、総合労働相談コーナーがあります。厚生労働省の案内によると、各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内など378か所に設置され、労働者・事業主のどちらからの相談も無料で受け付けており、解雇、雇止め、配置転換、賃金の引下げ、募集・採用、いじめ・嫌がらせ、パワハラなど、あらゆる分野の労働問題を対象としています。

記録が残っていると、相談はしやすくなります。いつ、どこで、誰が、どのような言動をしたかを、その日のうちにメモしておいてください。

つまずきやすいところ

相手を変えようとする

不機嫌な態度をやめてもらう交渉は、立場上どうしても不利です。こちらが変えられるのは、報告の形と、記録の残し方だけだと割り切るほうが、消耗しません。

良い報告だけ具体的にする

良いときだけ数字が細かく、悪いときだけ曖昧になると、曖昧な報告そのものが悪い知らせの合図として読まれます。そうなると、書き出した瞬間に身構えられます。

全部を一人で抱える

抱えたまま期限が来ると、選べる手がなくなります。社内に聞ける相手が見当たらないときの探し方は職場に相談できる人がいないときで整理しています。

「自分のせいだ」で止める

報告の形を直しても状況が変わらない場合、原因はこちらの側にないことがあります。手を尽くしても変わらないなら、環境を変える選択肢を検討の対象に入れて構いません。判断の材料は生産性が低い会社を辞めたいで整理しています。


上司の機嫌は、こちらでは動かせません。動かせるのは、相手の手間を増やさない報告の形と、記録を残すことの2つです。次の報告から、状況を3行で書いて先に出してみてください。聞かれる回数が減ると、それだけで負担はかなり軽くなります。