職務経歴書を開いたまま、手が止まる。20年近く働いてきたのに、書けることが「担当業務」の1行しかない。資格もない。特別な技術もない。

この状態を「スキルがない」と結論づけるのは早すぎます。多くの場合、経験がないのではなく、経験が社内の言葉のままになっているだけです。社内の言葉は社外では通じないため、書こうとすると何も残らないように見えます。この記事では、40代の転職で実際に何が起きているかを公的なデータで確認したうえで、経験を他社に通じる形へ言い換える手順を整理します。

40代の転職で、賃金は実際どう動いているか

まず、事実から確認します。厚生労働省「令和7年雇用動向調査」によると、令和7年1年間に転職した人の賃金変動は次のとおりです。

年齢階級増加減少変わらない
25〜29歳49.8%23.9%25.0%
40〜44歳44.9%27.4%24.6%
45〜49歳41.1%30.1%28.0%
50〜54歳29.4%42.0%26.7%
55〜59歳25.5%38.9%33.0%

40代は、「増加」が「減少」を上回っている年代です。40〜44歳では17.5ポイント、45〜49歳では11.0ポイント上回っています。20代後半(25.9ポイント)より差は縮まりますが、向きは変わりません。45〜49歳の内訳を見ると、「1割以上の増加」が30.0%、「1割以上の減少」が16.1%で、上げ幅の大きい側にも人が分布しています。

一方で、50代に入ると傾向が反転します。50〜54歳では「減少」42.0%が「増加」29.4%を上回り、55〜59歳でも同じ向きが続きます。「増加」が「減少」を上回る最後の年代が40代という位置づけです。

なお、転職した人の総数は令和7年で506万1800人、常用労働者に対する転職入職率は9.9%(男性9.1%・女性10.7%)でした。

つまり、40代の転職では賃金が下がると決まっているわけではありません。ただし、20代後半に比べて差は縮まっており、上がるか下がるかが分かれやすい年代でもあります。その分かれ目に効くのが、経験の説明の仕方です。

「スキルがない」と感じる本当の理由

職務経歴書に書くことがないと感じるとき、たいてい次のどれかが起きています。

1. 社内の言葉でしか説明できない

「◯◯システムの運用」「△△部の窓口対応」。社内では全員が分かる表現ですが、社外の人には何をしていたのかが伝わりません。伝わらない情報は、書いていないのと同じ扱いになります。

2. 毎日やっていることを業務だと思っていない

引き継ぎのたびに手順を教えている、トラブルが起きたときに関係部署を集めている、見積りの妥当性を判断している。こうした作業は、担当者本人にとっては当たり前すぎて、経歴の材料として意識されません。

3. 成果を数えていない

処理した件数、短縮した時間、減らしたミス。記録していないので、後から思い出せません。

どれも「能力がない」という話ではなく、記録と翻訳の問題です。この2つは、いまからでも取り戻せます。

なお、社内での評価と社外での評価がずれる仕組みそのものについては、会社の肩書きが外部で通用しない理由で整理しています。先にそちらを読むと、この記事の作業の意味が分かりやすくなります。

経験を分解する

言い換えの前に、分解します。抽象的な「強み」から考えると手が止まるので、動作の単位まで下ろします。

直近1年でやったことを、次の形で書き出してください。

誰から/何を受け取り → 何をして → 誰に/何を渡したか

1行ずつ、思いつく限り書きます。30行から50行になれば十分です。この段階では社内の言葉のままで構いません。

書き出したら、次の3つの印をつけます。

意味
自分が判断していた(やり方や可否を自分で決めていた)
決められた手順に沿って実行していた
他の人の判断を待ってから動いていた

◎がついた行が、経歴書の中心になる部分です。判断していた仕事は、その判断の理由を説明できます。説明できる判断は、他社でも再現できる可能性が高いものです。

社内の言葉を消す

分解できたら、次は翻訳です。やることは1つ、社名・部署名・社内システム名・社内の呼び名を全部消すことです。

消したあとに残る動作が、他社でも通じる部分です。

社内の言葉消したあと
「◯◯システムの運用を担当」「在庫データの日次更新と、差異が出たときの原因特定・修正」
「△△部との調整」「仕様変更の依頼を受けて、影響範囲を確認し、納期と優先順位を関係者と合意」
「新人のOJT担当」「業務手順を文書化し、3名に対して2か月で独り立ちまで指導」

消してみると、何も残らない行が出てきます。それは社内固有の作業だったということなので、経歴書からは外します。逆に、消しても残る行は、そのまま応募先に伝わります。

言葉に迷ったときは、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」(日本版O-NET)が使えます。約500の職業について、仕事内容を細かく分解した「タスク」や、必要とされる「スキル」が掲載されています。自分の経験に近い職業を検索して、そこに並んでいるタスクの表現を借りると、一般的な言葉に置き換えやすくなります。同サイトには職種ごとの都道府県別の平均賃金や有効求人倍率も載っているので、条件の相場を確認する材料にもなります。

厚生労働省が公開している「ポータブルスキル見える化ツール」で使われている9つの分類も、言い換えの手がかりになります。分類の中身は会社の肩書きが外部で通用しない理由にまとめてあります。

数字を足す

翻訳した行に、可能な範囲で数字を足します。正確な記録がなくても、おおよそで構いません。ただし、盛らないでください。面接で聞かれたときに根拠を説明できる範囲にとどめます。

足せる数字の例です。

  • 扱っていた件数・金額・人数(月◯件、年間◯万円、◯名)
  • かかっていた時間と、短くした時間(1件◯分 → ◯分)
  • 関わった相手の数と種類(社内◯部署、取引先◯社)
  • 続けた期間(◯年、◯か月)

数字が入ると、同じ内容でも読み手が規模を想像できるようになります。規模が想像できれば、自社で任せられるかどうかを判断できます。判断できる材料が揃っていることが、書類が通る条件です。

役職がない場合の書き方

40代の求人には、管理職経験を求めるものがあります。役職についていなかった場合でも、書ける材料はあります。

役職の有無ではなく、実際に動かした範囲を書きます。

  • 段取りを決めた経験(作業の順番、担当の割り振り、締め切りの設定)
  • 判断した経験(進めるか止めるか、どちらの案を採るか、誰に上げるか)
  • 人に教えた経験(手順の文書化、質問への対応、独り立ちまでの期間)
  • 揉めごとを収めた経験(相反する要望の整理、落としどころの提示)

役職がついていた人でも、書くべきはこの4つです。肩書きだけを書くと、何ができるのかが伝わりません。

いまの職場にいるあいだにできること

すぐに動かない場合でも、準備はできます。むしろ、在職中にできることのほうが多くあります。

担当範囲を文書に残す。 自分の業務の手順を文書化しておくと、翻訳の材料がそのまま手元に残ります。引き継ぎのときに慌てずに済むという実利もあります。

社内だけで通じるやり方を、一般的な進め方に寄せる。 独自のやり方が多い環境ほど、外で説明しにくい経験が積み上がります。標準的な手順や、広く使われているツールに寄せられる部分は寄せておくと、経験の持ち出しやすさが変わります。

記録を取り始める。 件数、時間、関わった人数。今日から取り始めれば、1年後には数字のある経歴になります。

このあたりは、会社の教育に期待せずに社外でも通じる経験を積む話と重なります。進め方は会社でのスキルアップは意味ない?にまとめています。

気をつけたいところ

焦って条件を下げない

先ほどのデータのとおり、40代の転職で賃金が増えた人は45〜46%台で、減った人を上回っています。最初から下限を下げて探すと、その水準で決まります。応募前に年収の下限を決めておく考え方は20代の転職の軸の決め方と同じで、年代を問わず使えます。

統計を自分の予測に使わない

賃金変動の数字は、集団の平均です。個人がどうなるかを示すものではありません。使い方としては、「40代だから無理」という思い込みを外す材料にとどめてください。

動くことだけを選択肢にしない

いまの職場で担当範囲を広げられるなら、そのほうが早い場合もあります。留まる場合に何が減っていくかを含めた判断の順序は、残るか動くかの判断基準に整理しています。

書き出しを一人で完結させない

社内の言葉に慣れすぎていると、消し残しに気づけません。書き終えたら、業界の違う知人に読んでもらい、意味が分からない箇所を指摘してもらってください。指摘された箇所が、まだ翻訳できていない部分です。


40代の転職で問われるのは、資格ではなく、業務を最後まで回した経験を他社の言葉で説明できるかどうかです。分解して、社内の言葉を消して、数字を足す。この3つの作業は、転職しない場合でも自分の現在地を知る材料になります。