業務改善が目的化して現場が疲れるのは、改善の「進め方」に原因があることがほとんどです。始める前に今の手間を測らず、何がどれだけ減れば成功かも決めないまま走り出すので、終わったあとに残るのは提案の件数、会議の回数、報告書だけになります。成果を示せるものがそれしかないので、次の改善も件数と報告書を増やす方向に進みます。

戻す方法は、改善の前に今の手間を時間で測り、量と質の 2 つの物差しを先に決め、足す案より減らす案から試し、同じ物差しで振り返ることです。効果がなければ元に戻すところまでを、あらかじめ手順に入れておきます。

業務改善が目的化する仕組み

手段が目的に置き換わる現象そのものは、手段の目的化が起きる理由で整理しています。ここでは、業務改善の進め方のどこでそれが起きるかに絞ります。

改善の単位が「活動」になっている

「今月は改善提案を 3 件」「改善委員会を月 1 回」のように、改善が活動の量で管理されていると、出した・開いたことが完了の印になります。その提案で誰の手間が何分減ったのかは問われません。評価の項目が数えやすい行動に寄るとなぜゆがむのかは、評価制度が手段の目的化を生む理由で詳しく扱っています。

今の手間を測らずに始める

改善の前の状態を測っていなければ、改善の後に比べる相手がありません。「前より楽になった気がする」「たぶん速くなった」としか言えないので、効果の説明は報告書の分量や見た目に頼ることになります。

足す改善のほうが、見えやすく責められない

ミスが起きたときにチェック欄を 1 つ足す、確認の手順を 1 段増やす、報告の様式を 1 枚増やす。足す改善は目に見え、「対策をした」と説明しやすく、失敗しても責められません。一方で、手順をやめる改善は「何かあったらどうする」と言われやすく、提案しにくいものです。こうして改善のたびに手順は増え、現場の手間はかえって重くなります。

改善そのものにかかる手間を数えない

会議の準備、提案書の作成、効果報告の資料づくりにかかる時間は、改善の成果から差し引かれないことがよくあります。改善で月 2 時間減っても、改善活動に月 5 時間使っていれば、差し引きでは手間が増えています。

振り返らないので、やめられない

試した改善が効いたかを確かめる日が決まっていないと、効かなかった改善も残り続けます。元に戻す判断をする人も決まっていないので、手順だけが積み上がります。

改善が目的化しているサイン

自分の職場の改善活動に当てはまるものを確かめてみてください。

サイン起きていること確かめる数字
提案の件数や委員会の開催が、報告の中心になっている活動の量で管理されているその改善で減った時間・ミスの件数
改善の報告書のために、元の業務が残業に回る改善の手間が成果を上回っている改善活動に使った時間
改善のたびに、確認欄や様式が増えている足す改善に偏っている手順の段数・様式の枚数の増減
改善の前の状態を、誰も数字で言えない比べる相手がない改善前の 1 件あたりの作業時間
半年前に始めた改善が効いたかを、誰も知らない振り返りの日がない見直しの日が決まっている改善の割合
同じ内容を 2 つの様式に書いている報告のための作業ができている転記にかかる時間

3 つ以上当てはまるなら、個々の改善案の良し悪しより、進め方そのものを見直すほうが効果があります。

効果を先に決める改善の進め方

厚生労働省が介護事業所向けに公開している「介護サービス事業(居宅サービス分)における生産性向上に資するガイドライン改訂版」の概要(2020 年。現在の最新版は令和 4 年度改訂版)は、改善活動を「準備」「現場の課題の見える化」「実行計画を立てる」「改善活動に取り組む」「振り返る」「実行計画を練り直す」の 6 つの手順で進めるよう示しています。成果は、サービスの質の向上を示す「質的な成果」と、効率化を示す「量的な成果」に分けて記す形です。介護分野向けの資料ですが、この順番はほかの職場の改善にもそのまま当てはまります。一般の職場向けに言い換えると、次の 6 つの手順になります。

手順 1:対象を 1 つの業務に絞る

「部署の業務全体を効率化する」では、どこから手を付けるかが決まりません。「週次報告の作成」「受注データの入力」のように、始まりと終わりがはっきりした業務を 1 つ選びます。

手順 2:今の手間を、1〜2 週間、時間で測る

その業務に、誰が、1 回あたり何分、週に何回かけているかを記録します。細かい道具は要りません。表計算ソフトに「日付・作業・開始・終了」を書くだけで足ります。同じガイドラインも、課題を洗い出す段階で業務時間を定量的に把握することを手順に入れています。

測ってみると、思っていた業務と違うところに時間がかかっていることがよくあります。改善の対象を決め直すのも、この段階なら手戻りが小さく済みます。

手順 3:物差しを「量」と「質」の 2 本、先に決める

改善の前に、何がどれだけ変われば成功かを決めます。

物差し例
量(手間)週次報告の作成時間:週 3 時間 → 1 時間以下
質(結果)報告を受けた側からの確認の質問:週 5 件 → 2 件以下

量だけを物差しにすると、手を抜いて速くしただけの改善も成功に見えます。質の物差しを対にしておくと、それを防げます。あわせて、改善にかけてよい手間の上限(例:準備に 5 時間まで)も決めておきます。

手順 4:案は「やめる → まとめる → 入れ替える → 簡単にする」の順に出す

現場の改善でよく使われる「ECRS(改善の 4 原則)」の順番です。

  1. やめる(Eliminate):その作業をなくしても困る人がいないか
  2. まとめる(Combine):似た作業や同じ内容の転記を 1 回にできないか
  3. 入れ替える(Rearrange):順番や担当を変えると待ち時間が減らないか
  4. 簡単にする(Simplify):残った作業を道具や型で軽くできないか

先に「やめる」を考えるのは、なくせる作業を速くしても意味がないからです。道具の導入(4 番目)から考え始めると、道具を入れること自体が目的になりやすくなります。やめる候補は、自分の判断だけで止めず、その作業を求めた人に目的を確かめてから止めます。

手順 5:期間を区切って試す

いきなり全員の手順を変えず、期間と範囲を区切って試します。先のガイドラインは、実行計画の取組期間を 3 か月程度を目安にしています。「10 月の 1 か月、課の 3 人で試す」のように、始める日と終わる日を決めておきます。

手順 6:同じ物差しで測り直し、残すか戻すかを決める

試した期間の終わりに、手順 2・3 と同じやり方で測り直します。

  • 量も質も目標に届いた → 手順として残し、手順書を直す
  • 量は減ったが質が落ちた → 質を落とした部分だけ元に戻す
  • どちらも変わらない → 元に戻し、手順 2 の測定結果から次の対象を選ぶ

最後に、改善活動そのものにかかった時間を差し引きます。差し引いてもなお手間が減っているかが、その改善の本当の効果です。手順を直したあとの手順書の作り方は、使われるマニュアルの条件で整理しています。

実行するときの落とし穴

  • 道具を先に決める。 「新しいツールを入れて効率化する」から始めると、使いこなすことが目的になります。道具は手順 4 の最後に検討します。表計算ソフトからほかの仕組みへの移し替えでつまずく例は、Excel からの移行が失敗する原因で扱っています。
  • 測ること自体が重くなる。 分単位の記録を全員に何か月も求めると、測定が新しい負担になります。対象の業務だけを、1〜2 週間に絞ります。
  • 件数の目標を置く。 「一人月 1 件」のような目標は、小さな提案を量産する方向に働きます。件数を置くなら、減った時間の合計とセットにします。
  • 浮いた時間の使い道を決めない。 使い道が決まっていないと、浮いた時間は別の仕事で埋まり、効果が誰にも見えません。始める前に上司と使い道を合意しておきます。
  • 戻すことを失敗と考える。 効かなかった改善を元に戻すのは、手順 6 のとおりの結果です。戻せない雰囲気があると、効かない手順が積み上がり、改善が現場を重くする状態に戻ってしまいます。

業務改善が目的化するのは、効果を測る物差しを持たずに始めるからです。次の改善に取りかかる前に、対象の業務に今何分かかっているかを 1 週間だけ記録してみてください。比べる数字が 1 つあるだけで、改善の話は件数から効果に移ります。ほかの記事はビジネス基礎の一覧にまとめています。

参考資料