上司の指示があいまいでストレスを感じるのは、指示の言葉が少ないからだけではありません。任されたのか、上司もまだ決めていないのかが分からないまま、出来上がったものだけを評価されるからです。自分で決めて進めれば「そうじゃない」と言われ、確認に行けば「それくらい考えて」と言われる。どちらを選んでも外れる気がして、仕事に手をつける前から疲れてしまいます。

対応の要点は 2 つです。まず、上司のあいまいさがどの型に当たるかを見分けること。次に、その仕事の中で自分で決めてよいことと、上司に決めてもらうことを分けて、決めてもらうことだけを 1 回で聞くことです。それでも「確認すると叱られる」「後から基準を変えて責められる」が続くなら、それは個人の工夫で減らせる範囲を超えています。記録を残して相談する側に切り替えてください。

あいまいな指示がストレスになる仕組み

「終わり」が見えないまま頭の中に残り続ける

「いい感じにまとめておいて」と言われた仕事は、何をすれば終わりなのかが決まっていません。終わりが決まっていない仕事は、手を動かしていない時間も頭の片隅に残ります。ほかの作業をしていても「あれはどこまでやればいいのか」が気になり続け、実際の作業時間以上に疲れます。

結果だけが評価される

厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」では、仕事や職業生活で強い不安・悩み・ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者は 68.3%でした。その内容(主なもの 3 つまで)は、「仕事の量」43.2%、「仕事の失敗、責任の発生等」36.2%、「仕事の質」26.4%、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」26.1%の順です(令和6年調査から設問の形式が変わったため、前年との比較には注意が必要とされています)。

あいまいな指示は、このうち「失敗・責任」と「対人関係」の両方にかかわります。基準が示されていないのに、出したものが基準に合わなければ自分の失敗として扱われる。しかもその基準は上司の頭の中にしかない。責任だけが自分に来て、基準は相手が持っているという偏りが、ストレスの芯になっています。

裁量があるようで、実はない

厚生労働省がストレスチェック制度で標準として示している「職業性ストレス簡易調査票(57 項目)」には、「自分のペースで仕事ができる」「自分で仕事の順番・やり方を決めることができる」という問いがあります。仕事のやり方を自分で決められるかどうかは、働く人のストレスを測るときの見る点の 1 つとして扱われています。

あいまいな指示は、見方を変えれば「やり方を任されている」状態でもあります。ところが、自分で決めたやり方を後から否定されることが続くと、任されているのではなく、正解を当てさせられている状態になります。決められる範囲がはっきりしていれば裁量になり、はっきりしていなければ負担になる。同じあいまいさが、どちらにも転びます。

上司のあいまいさには型がある

上司の指示があいまいになる理由は 1 つではありません。型によって、受ける側が取るべき対応が違います。

型上司の側で起きていること見分けるサイン受ける側の対応
任せているやり方は本当に任せたい。結果の基準だけは持っている途中で口を出さず、出来上がりへの指摘が「目的に合っているか」に集中する期限と合格ラインだけ確かめ、やり方は自分で決めて伝える
上司も決めていない完成形を見てから考えるつもりでいる「とりあえず作ってみて」「見てから決める」早い段階の粗い形を見せて、決めてもらう材料にする
上から流れてきた上司自身も上の意図を知らされていない質問すると「部長に聞いてみる」と返ってくる決める人と、決まる日を確かめる
言葉が足りない頭の中では決まっているが、忙しくて言葉にしていない指摘が具体的で、毎回同じ点を直される過去の指摘を集めて、次から先に反映する
後から基準を足す出てきたものを見て、そのつど新しい条件を足す直すたびに別の点を指摘され、終わりが来ない条件が増えるたびに、期限と範囲への影響を示して選んでもらう

「言葉が足りない」型は、受ける側が一番楽にできる型です。直された点を 1 行ずつ残していけば、上司の基準が少しずつ手元にたまり、同じ指摘を受けなくなります。逆に「後から基準を足す」型は、受ける側の工夫だけでは終わりが来ません。影響を示して選んでもらう手順は上司の指示が二転三転するときの確認と記録で詳しく扱っています。

個人の工夫で減らせるか、職場の問題か

ストレスが続くとき、「自分の受け方が悪いのか」「職場がおかしいのか」で迷うことがあります。次の表で、今の状態がどちらに近いかを確かめてください。

状態工夫で減らせる職場の問題として扱う
確認したとき手短にでも答えてもらえる確認すること自体を叱られる
直しの指摘同じ点を言われることが多い毎回違う点を言われ、終わりが示されない
叱り方出したものの中身について言われる人格や能力の話になる、長時間続く、ほかの人の前で大声で言われる
期限相談すれば動かせることがある教えられていない水準の仕事を期限内に求められ、できないと叱責される
自分の状態疲れるが、休めば戻る眠れない、朝に体が動かない状態が続いている

右の列に当てはまるものが多いなら、受け方を工夫する前に、記録と相談を優先してください。厚生労働省の「職場におけるパワーハラスメントに関する指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)は、パワーハラスメントを、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境が害されるもの、の 3 つをすべて満たすものとしています。業務上必要で相当な範囲の指示や指導は、厳しくても当たりません。一方で、同じ指針は「必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと」を精神的な攻撃の例に、「新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること」を過大な要求の例に挙げています。個別の事案に当たるかどうかは、経緯や頻度などを総合して判断されるため、一人で決めつけずに相談先を使ってください。

あいまいな指示を受けたときの対応手順

1. 自分で決めてよいことと、決めてもらうことを分ける

あいまいな指示を全部確かめようとすると、質問が増え、上司からは「いちいち聞いてくる」と受け取られます。確かめるのは、上司にしか決められないことだけに絞ります。

  • 上司に決めてもらうこと:期限、どの程度の仕上がりで足りるか、誰に見せるものか
  • 自分で決めてよいこと:作業の順番、使う道具、資料の体裁、調べる範囲の細部

多くの仕事で、上司にしか決められないのは期限と仕上がりの程度の 2 つです。ここさえ押さえれば、残りは自分で決めて進めて構いません。

2. 聞くことは 1 回にまとめ、選択肢で聞く

「どうすればいいですか」と開いた形で聞くと、上司はその場で考えなければならず、答えもあいまいになります。自分の案を添えて、選ぶだけで済む形にします。

先ほどの報告資料の件で 2 点だけ確認させてください。 ・社内の会議用で、A4 で 1 枚程度と考えています。社外に出す予定はありますか ・木曜の午前に一度お見せし、金曜に仕上げる形でよいでしょうか

質問を小出しにしないことが大事です。1 日に何度も声をかけると、上司の負担が増え、自分も「また聞きに行くのか」という気持ちになります。受ける前にそろえておく項目や、合意を文字で残す手順は期待値調整の手順にまとめています。

3. 自分で決めたことは「こう決めました」と一言添える

自分で決めたことを黙って進めると、出来上がったときに初めて上司の目に触れ、そこで否定されます。決めた時点で一言添えておくと、違っていればその場で止めてもらえます。

構成は、結論 → 数字 → 次の対応の順にしました。違う形がよければお知らせください。

返事がなければ、そのまま進めて構いません。伝えたという記録が残っているので、後で「聞いていない」と言われたときにも示せます。

4. 直された点を 1 行ずつためる

「言葉が足りない」型の上司の基準は、直しの指摘の中に入っています。直されるたびに、日付と指摘を 1 行で残します。

9/12 数字は四捨五入せず、小数点 1 桁まで出す 9/19 表の見出しに単位を入れる 9/26 結論は 1 行目に書く

10 行ほどたまると、上司が何を気にしているかが見えてきます。次の仕事で先に反映すれば、同じ指摘は減ります。「なるはや」「いい感じに」のような言葉そのものを数字に直す方法は報告の曖昧な表現を数字に直す手順で扱っています。

5. 決まっていないことは書き出して、頭から外す

上司が決めていない、上からの返事待ち、といった理由で、すぐには決まらないことがあります。決まらないことを頭の中で抱え続けると、それだけで疲れます。

未決のことは、何が決まっていないか・誰が決めるか・いつ決まりそうかを 1 行ずつ書き出し、決まるまでは考えないと決めます。決まっていない間は、どの案になっても使う部分(データの集計や事実の整理)から進めます。

気持ちの消耗が大きいとき

あいまいな指示に振り回されていると、「自分の察しが悪いからだ」と考えがちです。ただ、上で見たとおり、基準を持っているのは上司の側です。基準が示されていないことと、自分の力が足りないことは別の話として分けてください。

仕上がりの程度が分からないときに、念のため最高の水準で作ろうとするのも消耗の元です。確認できなかったときは「社内で使える程度」を目安に作り、早めに見せて直してもらうほうが、全体の時間は短くなります。

眠れない日が続く、休日も仕事のことが頭から離れない、朝に体が動かないといった状態が 2 週間ほど続くときは、仕事の工夫より先に、かかりつけ医や心療内科、会社の産業医への相談を考えてください。厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」には、働く人向けの電話・SNS・メールの相談窓口がまとめられています。

職場の問題として相談するときは、社内のハラスメント相談窓口や人事部門のほか、各都道府県労働局や労働基準監督署の中にある総合労働相談コーナー(無料・予約不要)、法的な判断が必要なときは弁護士が相談先になります。指示の内容と、直しの指摘や叱責を受けた日時・時間・言葉を記録しておくと、そのまま相談に使えます。強い口調で問い詰められる場面の返し方は上司に詰められるときの対処にまとめています。

やりがちな落とし穴

  • 察し続ける。 上司の考えを当てようとするほど、外れたときの落ち込みが大きくなります。当てるのではなく、決めてもらうことを決めてもらう側に回します。
  • 何でも確認に回す。 質問が多すぎると、「任せている」型の上司は任せにくくなります。自分で決めてよいことまで聞いていないかを見直してください。
  • 上司の人柄の問題にする。 「あの人はいつもあいまい」と考えると、打つ手がなくなります。型で見れば、型ごとの手があります。
  • 残業で帳尻を合わせる。 基準が後から足されるたびに黙って作業時間を増やすと、上司には変更の重さが伝わらず、同じことが続きます。
  • 一人で抱える。 確認すると叱られる、終わりの見えない直しが続くといった状態は、受ける側の工夫で直るものではありません。記録を持って相談してください。

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