会社が「パソコン本体にファイルを保存しないで」と決めるのは、社員を疑っているからではありません。パソコンの中にしかないファイルは、壊れたとき・なくしたとき・持ち主がいないときに、組織の誰からも見えなくなるからです。見えなくなったファイルは、探すことも、引き継ぐことも、元に戻すこともできません。

ローカル保存の禁止は、言い換えると、仕事のファイルの置き場所を「本人以外も開けて、消えても戻せる場所」にそろえる決まりです。以下では、手元にしかないと実際に何が起きるのかを整理し、どのファイルをどこに置けばよいかの見分け方と、いまパソコンにあるファイルを共有の保存先へ移す手順をまとめます。フォルダの分け方そのものはパソコンのフォルダ分けの記事で扱っているので、ここでは「どこに置くか」と「どう移すか」に絞ります。

手元にしかないファイルで起きること

壊れる・なくす・暗号化される

情報処理推進機構(IPA)の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版(2026年3月)は、どの会社も必ず実行すべき対策として「情報セキュリティ6か条」を挙げ、その5番目に「バックアップを取ろう!」を置いています。故障や誤操作、ウイルス感染などで、パソコンやサーバーに保存したデータが消えたり暗号化されたりすることがあるからです。

同じガイドラインには、顧客情報の入ったパソコンを社外に持ち出して紛失し、取引先の信用を失った会社の事例も載っています。原因として挙げられているのは、持ち出しに関する明確なルールや手続きがなかったことです。パソコンの中にしかないファイルは、機器そのものと運命を共にします。

持ち主がいない日に、誰も開けない

急な休み、異動、退職の日に、そのファイルが必要になることがあります。取引先に出した見積書の元のファイル、毎月の集計に使っている表、途中まで進んだ資料。パソコン本体にしかなければ、ほかの人は存在にさえ気づけません。

退職のときはさらに確実に失われます。前出のガイドラインは、退職や契約満了のときに情報や機器を回収し、復元できない方法でデータを消去することを会社に求めています。情報を守るための正しい手順ですが、共有の保存先に移していなかった仕事のファイルは、この手順で一緒に消えます。

共有の版と手元の版が食い違う

共有の保存先にあるファイルを、手元にコピーして直す。これを何人かがそれぞれ行うと、同じ資料が別々に進み、あとでどれが正しいか分からなくなります。ファイル名に「最新」「最終」が増えていくのは、多くの場合この結果です。版の付け方と管理の決まりはファイル名と版の管理の記事で詳しく扱います。

クラウドでも「自分だけの領域」なら同じこと

クラウドに置いていれば安心、とは限りません。個人に割り当てられた領域は、持ち主のアカウントとつながっています。

  • Google Workspace の管理者向けヘルプは、ユーザーを削除すると、そのユーザーが所有するドライブのファイルも削除され、組織内に残すには別のユーザーへ移行する必要がある、としています
  • Microsoft の管理者向け文書「OneDrive の保持と削除」は、ユーザーを削除したあと、その人の OneDrive が既定で30日間保持され、その間にマネージャーなどがアクセスできる、という流れを説明しています

どちらも、管理者が期限内に手を打てば残せる仕組みです。裏返せば、手を打たなければ消えるということです。チームで使うファイルは、個人の領域ではなく、チームの共有の保存先に置くのが原則です。

どのファイルをどこに置くか

置き場所は、次の3つに分けて考えます。

置き場所置くもの例
チームの共有の保存先人に渡したもの、ほかの人が直すもの、会社の記録として残すもの取引先に出した見積書、部署の集計表、議事録、手順書
自分の領域(会社が認めたもの)自分だけが使う下書きやメモ、共有の資料の写し書きかけの企画メモ、研修のノート
パソコン本体(一時的に)ダウンロードしたばかりのもの、すぐ消すもの確認用に開いた添付ファイル、画面の切り抜き

迷ったときは、次の問いに1つでも「はい」があれば、共有の保存先に置きます。

  • 自分が明日休んだら、誰かがこのファイルを開く必要があるか
  • このファイル(またはその内容)を社外の人に渡したか
  • 自分以外の人が、このファイルを直すことがあるか
  • あとから「いつ、誰が、何を決めたか」を確かめるときに必要か

国の文書管理の決まりである「行政文書の管理に関するガイドライン」(内閣総理大臣決定、2025年2月一部改正)も、職員が自分の仕事の便宜のために持つ写しは、正本を別に管理したうえで、必要最小限にすべきとしています。正本は共有の場所に1つ、手元に置くのは写しだけ、という考え方は会社でも同じです。

なお、どこに保存してよいかは、会社の情報セキュリティの決まりで定められていることが多く、その決まりが優先します。会社が認めていない保存先(私物のクラウドなど)に仕事のファイルを置くのは避けてください。

手元のファイルを共有の保存先へ移す手順

1. 行き先と決まりを確かめる

最初に、部署の共有の保存先がどこか、自分に書き込む権限があるか、フォルダの決まりがあるかを確かめます。行き先が決まっていない、または決まりがないなら、それは個人で解決することではなく、部署で決めることです。共有フォルダの決まりの作り方は共有フォルダの整理ルールの記事にまとめています。

2. 手元にあるものを洗い出す

デスクトップ、ドキュメント、ダウンロード、それにUSBメモリや外付けのディスクを開き、ファイルを更新日時の新しい順に並べます。全部を見る必要はありません。直近1年ほどの間に更新したものが、共有に移すべきものの大半を占めます。

3. 3つに振り分ける

洗い出したファイルを「共有へ移す」「自分の領域へ移す」「消す」の3つに分けます。上の表と4つの問いで判断します。一時的なファイルの片付けはデスクトップを自動で片付ける設定の手順が使えます。

4. 共有に同じものがないか先に確かめる

共有へ移すファイルは、移す前に、共有の保存先に同じ資料がないかを検索します。同じものがあれば、どちらが新しいかを中身で確かめて1本にします。確かめずに移すと、共有の中で同じ資料が2本並びます。

5. 「コピー」ではなく「移動」する

移したファイルを手元にも残すと、次に直すときにどちらを開くか迷い、版が割れる原因になります。共有の保存先に置いたら、手元からは消します。必要なときは、共有の保存先を開いて作業します。

6. 参照している場所を直す

ファイルの場所が変わると、それを指していたものが途切れます。次のものを確かめます。

  • 表計算ソフトで、ほかのファイルの値を参照している数式
  • デスクトップのショートカット
  • 手順書やマニュアルに書いた保存場所
  • メールやチャットで人に伝えた保存場所

7. 古い場所は期限を決めて片付ける

移し終えたフォルダは、すぐに消さず「移行済み_2026年9月」のように名前を変えて残し、1か月ほどたっても開く必要がなければ、会社の決まりに沿って片付けます。移し漏れに気づく猶予を持たせるためです。

移したあとの落とし穴

同期は、バックアップの代わりにならない。 共有の保存先をパソコンのフォルダとして同期していると、手元で消したファイルは共有の側からも消えます。消したファイルはごみ箱から戻せますが、期限があります。Microsoft のサポートによると OneDrive のごみ箱は個人用で30日、職場や学校のアカウントで93日(管理者が変えない限り)、Google ドライブのヘルプではゴミ箱のファイルは30日後に完全に削除されるとされています。前出のIPAのガイドラインは、バックアップについて、保管場所を決める、世代を管理する、正しく戻せるか確かめる、といった運用を求めています。同期とは別に、会社のバックアップがどうなっているかを情報システムの担当に確かめておきます。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織への脅威の1位は「ランサム攻撃による被害」でした。

共有にすると、見える人も増える。 共有の保存先は、置いた瞬間から他の人が開けます。IPAの6か条の4番目は「共有設定を見直そう!」で、無関係な人が見られる設定になっていないかを確かめるよう求めています。人事や顧客の個人情報を含むファイルは、見られる人を限ったフォルダに置きます。

「禁止」だけ決めて、行き先を決めない。 置き場所が決まっていないまま手元の保存だけを禁じると、ファイルはメールの添付やチャットに散らばります。行き先と、迷ったときの仮置き場を決めるのは組織の側の仕事です。個人が抱え込まず、決まりの不足として上司や担当に伝えてください。

移す作業を一度に済ませようとする。 何年分ものファイルを一気に移すと、途中で手が止まり、手元と共有の両方に中途半端に残ります。今日から作るファイルは共有に作り、過去のものは上の手順で、直近のものから順に移します。

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参考資料