ミスが起きるたびに「誰がやったのか」から話が始まる職場は少なくありません。犯人探しが起きるのは、原因を人に置くと、説明も対策も最も早く終わるように見えるからです。「本人が不注意だった。今後は気をつけるよう指導した」で報告書が書けてしまいます。
しかし、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」は、ヒューマンエラーを「原因ではなく結果」と捉える見方を示し、訓練のほかに、間違えにくい仕組みにする、すぐ発見できるようにする、影響を小さくする、という防止策を挙げています。責めるほど報告は遅れ、同じミスが繰り返されます。再発を防ぐには、「誰が」ではなく「手順のどこで」を問い、仕組みの側で手を打つことです。
犯人探しが起きる仕組み
人のせいにすると、説明が短く済む
ミスの原因を「担当者の不注意」とすれば、説明は一文で終わり、対策も「注意する」「徹底する」で済みます。手順を見直したり、道具を変えたりする手間もかかりません。責任の所在がはっきりしたように見えるので、報告を受ける側も納得しやすくなります。
ただし、この対策は次の担当者には何も残しません。同じ手順、同じ道具、同じ忙しさのまま別の人が同じ仕事をすれば、同じところで同じミスが起きます。
後から見ると「気をつければ防げた」に見える
職場のあんぜんサイトの「ヒューマンエラー」の解説では、ヒューマンエラーは「意図しない結果を生じる人間の行為」で、「見間違えた」「やり忘れた」のように過去形で表され、結果が好ましくないときに後から言われるものだと説明されています。
結果を知っている立場から振り返ると、どのミスも「ちょっと気をつければ防げた」ように見えます。しかしその場にいた人は、同時に複数の仕事を抱え、限られた情報で判断していました。解説では、人は過度の緊張や緊張感の少なすぎる状態でエラーが多くなること、単調な監視業務では30分を超えると緊張が続かないことにも触れています。気をつける力には、そもそも限りがあるということです。
責めるほど、ミスの情報が集まらなくなる
ミスを報告した人が責められる職場では、次から報告が遅れます。小さなミスや、事故にならずに済んだ「ヒヤリ・ハット」は、黙っていれば分からないので、表に出てこなくなります。その結果、見えるのは隠しきれなかった大きなミスだけになり、手前で手を打つための材料がなくなります。
ミスとその責任は、働く人にとって大きな負担です。厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)」(2026年8月公表)では、仕事や職業生活で強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄がある労働者は67.5%で、その内容(主なもの3つ以内)は「仕事の量」と「仕事の失敗、責任の発生等」がともに39.5%で最も多くなっていました。
エラーと違反は分けて考える
同じ解説では、わざと「やるべきことをやらない」「やってはならないことをする」ことは「違反」と呼び、ヒューマンエラーとは別に考えるのが普通だとしています。仕組みで防ぐという考え方は、決められた手順を故意に破った行為まで免責するものではありません。うっかりのミスと、故意の違反とでは扱いを分けることが、公平な振り返りの前提になります。
自分の職場の状態を確かめる
ミスが起きたあとの職場の動きを、次の表で比べてみてください。
| 見るところ | 犯人探しになっている職場 | 仕組みで防いでいる職場 |
|---|---|---|
| 最初の質問 | 誰がやったのか | 何が起きたのか、どこで気づけたか |
| 報告書の主語 | 担当者の名前 | 手順・道具・確認の段階 |
| 対策の書き方 | 注意する、徹底する、気をつける | 手順・画面・チェック表をこう変える |
| 報告した人の扱い | 叱責される、評価が下がる | 早く報告したことが記録される |
| ヒヤリ・ハット | ほとんど上がってこない | 定期的に集まり、対策が決まる |
| 同じミスが再び起きたとき | 前回の担当者より厳しく叱る | 前回の対策が効いたかを見直す |
再発防止策が書かれたら、それが職場のあんぜんサイトの挙げる次の4つのどれに当たるかを確かめます。
- 人が間違えないように、人を訓練する
- 人が間違えにくい仕組み・やり方にする
- 人が間違えても、すぐ発見できるようにする
- 人が間違えても、その影響が少なくなるようにする
対策が1の「訓練」や「注意」だけなら、同じミスはまた起きると考えておくほうが安全です。
ミスが起きたときの手順
個人でできること:報告と振り返りの形を変える
第一報は、事実を先に、早く出す
言い訳や反省より先に、何が起きたか、いまどうなっているか、何をするかを伝えます。第一報の型はトラブルを上司に報告する型で詳しく整理しています。
経過を時刻つきで書き出す
その日のうちに、何時に何を見て、何を判断し、何をしたかを時系列で書きます。記憶が新しいうちの記録は、原因を探す材料になるだけでなく、後から事実と違う説明をされたときに自分を守る材料にもなります。
「なぜミスしたか」ではなく「どこで気づけたか」を書く
「確認が足りなかった」で止めずに、手順のどの段階なら気づけたか、そこで気づけなかったのはなぜか(画面が似ていた、途中で別の依頼が入った、など)を書きます。
再発防止策を4段で出す
たとえば、メールを別の取引先に送ってしまった場合は、次のように分けて考えます。
| 段階 | 対策の例 |
|---|---|
| 訓練 | 送信前に宛先を読み上げて確かめる |
| 間違えにくくする | 宛先の自動補完を切る、社外宛てのときは確認画面を出す |
| すぐ発見する | 送信を数分遅らせる設定にし、送信直後に取り消せるようにする |
| 影響を小さくする | ファイルを添付ではなく共有リンクで送り、誤送信に気づいたら閲覧を止められるようにする |
自分から4段の案を出すと、話が「誰が悪いか」から「どれを採用するか」に移りやすくなります。
チームで決めること:責めない振り返りの決まり
リーダーの立場にあるなら、次の決まりを先に作っておくと、ミスのたびに場の空気で扱いが変わることを防げます。
- 振り返りの記録には個人名を書かず、手順や段階を主語にする
- 早く報告したこと、ヒヤリ・ハットを報告したことを、評価の上でも不利にしない
- 対策には、効いたかどうかを確かめる数字(同じ種類のミスの件数など)と、見直す日を決める
- 故意の違反は、振り返りとは別の手続きで扱う
報告するかどうかを毎回の判断に任せず、あらかじめ基準を決めておく方法は、報連相が遅れる原因と基準の作り方を参照してください。
つまずきやすいところ
確認の段階を増やしすぎる
ミスのたびに確認者やハンコを1つずつ足していくと、手順は重くなるのに、確認する人どうしが「ほかの人も見ているはず」と考えて、かえって一人ひとりの確認が甘くなることがあります。対策を足すときは、効いていない古い確認を外すことも一緒に検討します。
「仕組みの問題」を、何もしない理由にする
仕組みの問題だと分かっても、仕組みを変える案が出なければ、職場から見れば言い訳に聞こえます。自分の担当の範囲で変えられる小さな対策を、1つは自分で出すことが、話を前に進めます。
叱責が、指導の範囲を超えている
厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、職場のパワーハラスメントを、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの、としています。精神的な攻撃に当たると考えられる例として、「業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと」や「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと」が挙げられています。一方で、重大な問題行動に対して一定程度強く注意することは、該当しないと考えられる例とされています。
ミスのたびに長時間の叱責が続く場合は、日時、場所、言われた内容、時間、その場にいた人を記録し、社内の相談窓口や、各都道府県労働局などにある総合労働相談コーナーに相談できます。法的な判断が必要なら弁護士への相談も選択肢です。パワハラについて会社に相談したことを理由に、会社が解雇などの不利益な扱いをすることは、労働施策総合推進法で禁じられています。強い口調で問い詰められたその場での返し方は、上司に詰められるときの対処で整理しています。
自分を責め続ける
ミスをした本人は、周りから言われる以上に自分を責めがちです。振り返りは「どこで気づけたか」と「次に何を変えるか」を書いたら終わりにします。それ以上の反省を重ねても、再発は防げません。
犯人探しは、ミスの説明を早く終わらせますが、次のミスを防ぐ材料を残しません。「誰が」ではなく「手順のどこで」を問い、訓練・間違えにくくする・すぐ発見する・影響を小さくする、の4段で対策を出す。次にミスが起きたら、まず経過を時刻つきで書き出すところから始めてください。メンタルと自己管理のほかの記事はメンタル・自己管理の記事一覧にまとめています。



