資料作成ばかりの会社で消耗しているなら、最初に確かめたいのは「その資料で何が決まったか」です。資料が増え続ける会社では、資料が決めるための道具ではなく、説明の責任を分けるための手続きとして使われていることが多く、読み手が増えるたびに版と手直しが増えていきます。

やることは 2 段です。まず 1〜2 週間、作った資料を記録し、「法令や取引先の都合で必要なもの」「社内の慣習で作っているもの」「決め方の代わりになっているもの」に分けます。慣習の分は自分の範囲で減らせる余地があります。決め方の代わりになっている分は個人では変えにくく、試しても動かないなら、それが辞める判断の材料になります。

資料が増え続ける仕組み

読み手と決裁の段数が、そのまま版の数になる

1 つの案件に、課長・部長・関係部署・役員と読み手が並ぶと、それぞれの関心に合わせた版が作られます。課長には細かい数字、役員には 1 枚の要約、関係部署には影響範囲の説明。同じ中身を形だけ変えて作り直す作業が、段数の分だけ発生します。

さらに、上の段で差し戻されると、下の段の版もすべて直すことになります。資料作成の時間は、作る本人の手の速さより、決裁の段数と差し戻しの回数で決まります。

資料が「決めた証拠」の代わりになっている

誰が何を決めたかがはっきりしない組織では、「資料が承認された」ことが決定の代わりになります。誰か 1 人が決めた形にならないので、あとで問題が起きても責任が分散されます。この使われ方をしている資料は、中身が同じでも減らせません。資料を減らすことが、決めた人をはっきりさせることと同じ意味になるからです。

中身で評価しにくいから、見た目で評価される

提案の良し悪しは、結果が出るまで判断しにくいものです。判断しにくいものは、判断しやすいもの、つまり体裁や分量で評価されがちです。色やフォントの手直しが続くのは、読み手が中身を判断する材料を持っていないときに起きやすい現象です。

「必要だと思われている手続き」が残っている

資料に付き物の押印や紙の回覧も、法律で求められているとは限りません。内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」(2020年)は、契約について、特段の定めがある場合を除き、押印をしなくても契約の効力に影響は生じないとしています。社内の回覧に押印欄があるのは、多くの場合は法律ではなく社内の決まりです。社内の決まりであれば、手順を踏めば変えられます。

自分の会社の資料を 3 つに分ける

感覚で「資料が多い」と言っても、上司との話は進みません。1〜2 週間、作った資料や手直しを次の項目で記録します。1 件 1 行、5 分で書ける程度で構いません。

  • 資料の名前と、かかった時間
  • 誰が読んだか(何人か)
  • 読んだ結果、何が決まったか(何も決まらなかったなら「なし」)
  • 差し戻しの回数と、その理由(中身か、体裁か)

記録がたまったら、次の表で分けます。

分類見分け方自分で減らせるか
法令・取引先の都合で必要法令で作成や保存が決まっている書類、取引先から様式を指定されている書類減らせない(形式の工夫だけ)
社内の慣習で作っている読み手が決まっていない定例報告、同じ中身の作り直し、体裁だけの差し戻し上司と合意すれば減らせる余地がある
決め方の代わりになっている決裁の段数が多い、誰が決めたかが資料に残らない、承認されても何も動かない個人では変えにくい

次のうち 3 つ以上に当てはまるなら、資料の多さは個人の手際ではなく、会社の決め方から来ていると考えられます。

  • 「何も決まらなかった」資料が、記録の半分以上を占める
  • 差し戻しの理由が、中身より体裁のほうが多い
  • 同じ中身を、読み手ごとに 3 つ以上の形に作り直している
  • 資料の承認者と、実際に決めている人が違う
  • 資料の出来で人事評価が語られることが多い

社内で減らす手順

記録で「社内の慣習」に入ったものから手を付けます。いきなりやめるのではなく、上司と合意して試す形にします。

1. 決めたいことを 1 行で先に出す

資料を作り始める前に、「この資料で決めたいこと」を 1 行で上司に送ります。「来月の展示会に 2 名で出るかどうかを決めたい」のように書くと、読み手が必要な情報の範囲がその場で決まり、関係のないページを作らずに済みます。

2. 形式を 1 回だけ合意する

「定例の報告は、スライドではなく 1 枚の文章で出してよいですか」と、形式を上司と 1 回だけ決めます。文章でまとめる型は、議事録を文章でまとめる型がそのまま使えます。合意した形式は、次から毎回説明しなくて済むように、チャットや共有の場所に残しておきます。

3. 「やめる」ではなく「1 か月試す」で持ちかける

「この報告は不要です」と言うと、作らせている側の判断を否定する形になります。「1 か月だけ、この報告を月 1 回にまとめてみて、困ることがあれば戻します」と、期間を区切った試しにすると通りやすくなります。1 か月後に、記録の数字(かかった時間と、困ったことの有無)で結果を見せます。

4. 資料にかけた時間を、勤務の記録に残す

時間外や持ち帰りで資料を仕上げているなら、その時間も記録します。厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年)は、労働時間を使用者の指揮命令下に置かれている時間とし、使用者の明示または黙示の指示により業務に従事する時間は労働時間に当たるとしています。締め切りに間に合わせるために黙って持ち帰るのは、量の問題を見えなくするだけです。記録は、上司に量を相談するときの材料にもなります。

辞める判断に入れてよいとき

上の手順を 1〜2 か月試しても、次のような状態が続くなら、資料の多さは会社の決め方そのものから来ています。個人の工夫で変えられる範囲を超えているので、辞める判断の材料に入れて構いません。

  • 形式や頻度を変える提案が、試すことすら通らない
  • 試して時間が減っても、決裁の段数や差し戻しは変わらない
  • 資料の見た目が評価の中心で、決まった中身や結果が評価されない

判断の順序や、辞めると決めたあとの手続きは、残るか動くかの判断基準で整理しています。この記事で分けた「社内の慣習」と「決め方の代わり」は、そちらの「手順の問題」と「決め方の問題」にほぼ対応します。

資料を作ってきた経験そのものは、無駄にはなりません。職務経歴書では、資料の枚数や見た目ではなく、「何を決めるための資料で、その結果何が決まり、何が動いたか」で書きます。書き方はSTARで再現性を示す自己PRの書き方が参考になります。次の職場が同じ状態でないかは、面接で確かめられます。確かめ方は面接で業務の効率を確かめる逆質問にまとめています。

実行するときの落とし穴

  • 合意なしに資料を簡単にする。 自分の判断だけで形式を変えると、「手を抜いた」と受け取られ、提案そのものが通りにくくなります。変えるのは合意した範囲だけにします。
  • 法令や取引先の書類まで「無駄」と言う。 作成や保存が決まっている書類を減らす話を混ぜると、ほかの提案まで信用されなくなります。記録の段階で分けておくのはこのためです。
  • 資料が少ない会社を「決め方が整った会社」と思い込む。 口頭で決まって何も残らない会社もあります。その場合、あとで「言った・言わない」になります。見るべきは資料の量ではなく、決まったことが誰の名前でどこに残るかです。
  • 持ち帰りを黙って続ける。 量の問題が上司に見えないままになり、体調も崩しやすくなります。残業代の扱いなどで迷うときは、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーや、勤務先を管轄する労働基準監督署に相談できます。

資料や表の作り方の見直しは、業務効率・ITの記事の一覧からも探せます。