やりがいは、どこかに隠れていて探し当てるものではありません。同じ職務でも、進め方・関わる相手・捉え方を自分で組み替えられるかどうかで、仕事の意味は変わります。そして、組み替えを試しても何も動かない場合は、本人の姿勢ではなく職場の設計側に制約があると判断できます。

この記事では、まずやりがいの正体を条件と動機に分けて整理し、次に自分で動かせる範囲を特定する手順、最後に「動かしても変わらないとき」の見極め方を扱います。

待遇の不満と、意欲の不足は別の問題

仕事の満足に関わる要因は、同じものとして扱うと対処を誤ります。アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した二要因理論では、要因は次の2つに分けられます。

種類含まれるもの性質
衛生要因給与、労働条件、会社の方針、監督のあり方、対人関係不足すると不満になるが、満たしても意欲そのものは上がりにくい
動機づけ要因達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進、成長満たされると意欲が上がる

ここから分かるのは、給料が上がっても「やらされ感」は消えないし、仕事が面白くなっても給料の不満は消えないということです。2つは別の回路なので、別々に扱う必要があります。

そのうえで、意欲の側をもう少し細かく見ると、外から与えられる報酬や評価による動機づけ(外発的)と、面白さや上達の実感から生まれる動機づけ(内発的)に分かれます。外発的な動機づけは短期的には効きますが、報酬が止まると同時に効き目も止まります。長く続くのは内発的な側で、ここは自分の手で作れる範囲にあります。

なお、報酬の与え方によっては、もともとあった内発的な動機づけが下がる現象(アンダーマイニング効果)も知られています。「評価されるからやる」に置き換わった作業は、評価が外れたときに続かなくなります。

動かせる範囲を3つに分ける

いまの仕事を作り替える方法は、経営学では「ジョブ・クラフティング」として整理されています。ニューヨーク大学のエイミー・レズネスキーとミシガン大学のジェーン・ダットンが2001年に提示した枠組みで、従業員を与えられた職務をこなすだけの存在ではなく、職務の境界を自分で引き直す主体として捉えます。組み替えの対象は次の3つです。

組み替える対象何を変えるか具体例
手順(タスク)業務の進め方・範囲・順番入力作業に検算の型を作る、定型報告に前月比の欄を足す
関わる相手(関係)誰に確認し、誰と進めるか依頼元に直接要件を聞きに行く、他部署の担当と月1回すり合わせる
捉え方(認知)その業務が何につながっているかの説明「資料作成」ではなく「営業が迷わず話せる材料を用意する仕事」と定義し直す

この3つのうち、最初に手を付けるのは「手順」です。捉え方だけを変えようとすると、実態が変わらないまま自分を納得させる作業になり、長続きしません。手順を変えて結果が変わり、その結果を説明できるようになって、初めて捉え方が変わります。

4週間で試す手順

一度にすべてを変えようとすると失敗します。次の順序で、範囲を限定して試してください。

1週目:業務を棚卸しする。 直近1週間にやった作業を、所要時間つきで書き出します。ここで見るのは「好きかどうか」ではなく、時間を多く使っている作業はどれかと、そのうち自分で進め方を決められるのはどれかの2点です。

2週目:動かせる作業を1つ選び、手順を変える。 選ぶ基準は、時間を多く使っていて、かつ自分の裁量で進め方を変えられるものです。変更は上長に一言伝えてから行います。無断で手順を変えると、改善ではなく別の問題になります。

3週目:結果を数字で記録する。 かかった時間、差し戻しの回数、相手からの確認質問の数。変える前と後で比べられる形にします。ここが抜けると、変えた意味を自分でも説明できません。

4週目:関わる相手を1つ増やすか、変える。 たとえば依頼元に直接要件を確認する、成果物を使う側に感想を聞く、といった変更です。自分の作業が誰のどの判断につながっているかが見えると、捉え方は自然に変わります。

4週間で何も変わらなかった場合も、失敗ではありません。「この職場では手順も相手も変えられない」という情報が取れたことになり、次の章の判断材料になります。

落とし穴:意味づけを条件の代わりにしない

作り替えが有効なのは、労働条件が成立している範囲に限られます。量が過大、賃金が労働に見合っていない、休みが取れないといった状態を、意味づけで埋めようとすると消耗します。

  • 意味づけは、業務量の削減にも賃金の改善にもならない
  • 「この仕事には意味がある」という説明が、会社から本人に対して条件交渉を止める理由として使われる場合がある
  • 自分で自分にその説明をしてしまうと、条件の問題が先送りになる

条件の問題は条件として扱ってください。量や責任の偏りが原因で意欲が落ちている場合の順序は、やる気が出ない原因の切り分け方に整理しています。

動かしても変わらないときの見極め

4週間試して、次のいずれかに当てはまるなら、制約は職場の設計側にあります。

状況意味していること
手順の変更を提案しても、前例がないという理由で戻される現場に進め方を決める権限がない
成果物の使われ方を聞いても、誰も答えられない業務の目的が組織として定義されていない
改善した結果を出しても、評価にも次の仕事にも反映されない評価の基準が示されていない、または運用されていない
相談先が上長1人しかなく、その上長も判断できない意思決定の経路が詰まっている

これらは個人の工夫で解消できる範囲を超えています。ここまで来た段階で、初めて「留まるか動くか」の比較に入ります。順序として、作り替えを試す前に転職を検討すると、同じ制約のある職場に移る可能性が高くなります。逆に、試した記録があれば、次の職場を見極める質問も具体的になります。

比較するのは気持ちではなく条件です。賃金がどの要素(役職・業種・企業規模・転職)で動くのかは給料が上がらない理由を数字で比べるに、会社の教育制度に期待せず社内で経験を積む方法は会社でのスキルアップは意味ない?にまとめてあります。

また、ここで残した記録――どの作業をどう変え、何がどれだけ変わったか――は、そのまま社外でも説明できる経験になります。社名や社内用語を外して書く方法は肩書きの下でやっていたことを言葉にする方法を参照してください。

まとめ

  • 待遇の不満(衛生要因)と意欲の不足(動機づけ要因)は別の回路。混ぜると対処を誤る
  • 作り替えられるのは、手順・関わる相手・捉え方の3つ。着手は手順から
  • 4週間、範囲を限定して試し、結果を数字で記録する
  • 意味づけを労働条件の代わりにしない
  • 試しても動かない場合は職場の設計側の制約。そこで初めて留まるか動くかを比較する

参考:Frederick Herzberg「The Motivation to Work」(1959年、二要因理論)、Amy Wrzesniewski, Jane E. Dutton「Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work」(Academy of Management Review, 2001年)